ガマ Typha latifolia  L. ガマ科 ガマ属
抽水植物
Fig.1 (滋賀県・内湖畔の湿地 2008.9/8)

湖沼、溜池、河川、水路などで抽水状態で生育する多年草。
太い地下茎を泥中に横走して広がり、群生することが多い。
高さ1.5〜2.5m。葉は緑白色で厚みがあり、無毛、幅1〜2cm。押し葉標本にすると縮み、幅0.6〜1.5cmになる。
雌花群は葉が差7.5〜20cm、果実時には直径2〜3cmになる。
雄花群は雌花群にふつう接してつき、長さ5.5〜13cm、2〜4段からなり、間に苞があるがやがて脱落する。苞は下方のものほど長く、1〜27cm。
花粉は4個が合着する4集粒となる。秋〜冬にかけて種子が熟すと雌花群は分解して綿状となり、種子は風に乗って飛散する。

同属に在来の2種と外来の1種があり、いずれもよく似る。
コガマ(T. orientalis)は西日本では稀に生育し、葉幅5〜8mm、雌花群は長さ4〜12cmで雄花群と接し、花粉は合着せず単粒。
ヒメガマ(T. domingensisi)はガマ属中最も普通に見られ、雌花群と雄花群は接することなく、1.5〜7cmの間があり、茎が裸出する。
モウコガマ(T. laxmanni)は中国原産の帰化種とされ、雌花群と雄花群は間が空き、雌花群は2〜4cmと極端に短く、こげ茶色に熟す。葉幅は2〜4mm。
また、ガマとコガマの種間雑種アイノコガマ(T. × suwensis)も報告されている。
『神奈川県植物誌 2001』によると、ホソバヒメガマ(仮称)(T. angustifolia)が国内に生育している可能性があるとしている。
従来、T. angustifolia はヒメガマの学名とされてきたがこれは誤りで、ヒメガマをT. domingensisi とし、T. angustifolia にホソバヒメガマという仮称をあたえている。
ヒメガマは熟した雌花群が白っぽい褐色、上部の葉の葉鞘口部は下方にはだらかに沿下するのに対し、ホソバヒメガマでは熟した雌花群は濃い褐色になり、
上部の葉鞘口部は膜質で耳状となる、などの区別点を挙げている。
近似種 : コガマヒメガマモウコガマ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 北半球、オーストラリア、ポリネシア
■生育環境:湖沼、溜池、河川、水路など。
■花期:6〜7月
■西宮市内での分布:市内では比較的稀で、北部の4ヶ所で生育を確認している。

Fig.2 開花中のガマ。(西宮市・休耕田 2010.6/24)
  雄花群が開花中で、雄花部は黄色に見える。

Fig.3 ガマの花序。(兵庫県篠山市・溜池 2009.7/4)
  雄花群、雌花群ともに花茎の頂端につく。
  上部の細い淡褐色の部分は雄花群、下部の太いビロード状の黄緑褐色部分は雌花群で、両性花群の間には隙間が無い。

Fig.4 雄花群。(兵庫県篠山市・溜池 2009.7/4)
  雄花群を構成するは雄花は極めて小さく、花被を持たず、雄蕊3個と白色毛2個とからなり、それが中軸に密生する。
  雄花群は3段からなり、その間には狭披針形で長さ2〜8cmの苞をつけるが、早期に雄蕊とともに脱落する。

Fig.5 熟した花序。(西宮市町・溜池 2008.9/22)
  いわゆる「蒲の穂」である。雌花群に接していた雄花群はすっかり脱落し、雌花群は熟して茶褐色となっている。
  長さは4〜12cmで、やや根棒状に下部がすぼまる。

Fig.6 種子が飛散しているガマの花序。(西宮市・休耕田 2008.11/16)
  種子は上のほうから離脱し飛散していく。花軸の中心に残っているのは小苞群(次項参照)。

Fig.7 ガマの種子(黄矢印)と小苞(水色矢印)。(西宮市・休耕田 2009.1/4)
  雌花群は雌花と小苞からなる。小苞は雌花の退化したものと考えられ、先が扁平な根棒状となる。
  花後、雌花は子房の柄が長く伸びて熟す。柄の下部には長くやわらかい綿毛がつく。
  小苞も同様のつくりをしているが、花後に伸びることはない。

Fig.8 小苞が残存した花序の雌花群。(西宮市・休耕田 2009.1/4)
  種子が飛散した後、花序軸には小苞がしばらくの間残存する。

Fig.9 用水路の枡内で沈水状態で発芽成長するガマ。(兵庫県篠山市・用水路 2009.7/17)
  ガマの幼植物は湛水状態の止水域で、他の植物の被植の少ない場所でよく見られる。
  ガマ属に共通するが、このような幼苗が見られる場所は、比較的撹乱の多い場所で、水位の安定した溜池畔では見られない。
  セキショウモ類やミクリ類の沈水形と似るが、生育環境がことなることと、セキショウモ類では葉先近くに鋸歯が見られること、
  ミクリ類の沈水形とは明らかに葉身が細く、先が急にすぼまる点で区別できる。また、このような幼苗が生育する付近には必ずガマ類の生育が見られる。

Fig.10 葉は花茎よりも少し長く伸びるか、同長となる。(滋賀県・内湖畔の湿地 2008.9/8)
  葉は長さ1〜2mの線形で厚みがあり、幅1〜2cmで、コガマとの区別は容易。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 休耕田で群生するガマ。(西宮市・休耕田 2008.11/16)
かなり年月を経た休耕田で、ほとんどがヨシ群落が埋めるが、一画だけガマが密に群生している。
周辺ではイグサ、ホソイ、コウガイゼキショウ、ヒレタゴボウ、アメリカセンダングサ、ヤナギタデなどが生育する。

Fig.12 溜池で生育するガマ。(西宮市・溜池 2008.9/22)
小さな溜池の浅水域に抽水状態で、マコモとともに生育している。

Fig.13 用水路内で生育するガマ。(西宮市・用水路 2007.9/20)
この場所は頻繁に草刈りが行われ、出穂しているものを見かけたことはない。葉の大きさでガマと判るのみである。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. ガマ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 258,259. 北隆館
山下貴司, 1982. ガマ科ガマ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.144. pls.125. 平凡社
北村四郎, 2004 ガマ科ガマ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.422〜423. pls.108. 保育社
大場達之. 2001. ガマ科ガマ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 392〜394. 神奈川県立生命の星・地球博物館
角野康郎, 1994. ガマ科ガマ属. 『日本水草図鑑』 84〜87. 文一統合出版
勝山輝男. 2001. モウコガマ. 清水建美(編)『日本の帰化植物』 p.292. pls.154. 平凡社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ガマ. 『六甲山地の植物誌』 241. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ガマ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター
角野康郎 2008. ガマ. 兵庫県産維管束植物10 ガマ科. 人と自然19:222. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Dec.2010

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