コガマ Typha orientalis  Presl ガマ科 ガマ属
湿生〜抽水植物  兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (西宮市・休耕田 2010.8/13)

Fig.2 (兵庫県加東市・溜池畔 2011.7/13)

湖沼、溜池、水路、休耕田などで生育する多年草。ガマやヒメガマほど抽水状態を好まない。
高さ1〜1.5m、葉はガマよりも細く幅5〜8mm。押し葉標本では縮んで3〜7mmとなる。
花期はガマやヒメガマより1ヶ月程度遅い。雌花群は長さ4〜10cm、茶褐色、果実期には直径1〜2cmとなる。
雄花群は長さ3〜9cmで、灰褐色、雌花群に接する。雄花は3個の葯があり、基部に2個の白色毛がある。
花粉は黄色、合着せず単粒、径15〜20μ。種子は楕円形で長さ1mm、幅約0.3mm。

同属に在来の2種と外来の1種があり、いずれもよく似る。
ガマ(T. latifolia)は、葉幅1〜2cm、雌花群は長さ7.5〜20cmとコガマより大きく、雄花群と接し、花粉は合着して4集粒となる。
ヒメガマ(T. domingensisi)はガマ属中最も普通に見られ、雌花群と雄花群は接することなく、1.5〜7cmの間があり、茎が裸出する。
モウコガマ(T. laxmanni)は中国原産の帰化種とされ、雌花群と雄花群は間が空き、雌花群は2〜4cmと極端に短く、こげ茶色に熟す。葉幅は2〜4mm。
また、ガマとコガマの種間雑種アイノコガマ(T. × suwensis)も報告されている。
『神奈川県植物誌 2001』によると、ホソバヒメガマ(仮称)(T. angustifolia)が国内に生育している可能性があるとしている。
従来、T. angustifolia はヒメガマの学名とされてきたがこれは誤りで、ヒメガマをT. domingensisi とし、T. angustifolia にホソバヒメガマという仮称をあたえている。
ヒメガマは熟した雌花群が白っぽい褐色、上部の葉の葉鞘口部は下方にはだらかに沿下するのに対し、ホソバヒメガマでは熟した雌花群は濃い褐色になり、
上部の葉鞘口部は膜質で耳状となる、などの区別点を挙げている。
近似種 : ガマヒメガマモウコガマ

■分布:本州、四国、九州 ・ 東アジア
■生育環境:湖沼、溜池、水路、休耕田など。
■花期:7〜8月
■西宮市内での分布:北部の自然度の高い1ヵ所の休耕田のみで確認した。過去に武庫川河口に記録があるが絶滅したと思われる。

Fig.3 全草標本。(西宮市・休耕田 2010.8/13)
  地下には太い根茎があり、高さ1〜1.5mになり、葉はガマやヒメガマよりも細く幅1cm未満。

Fig.4 花期の花序。(西宮市・休耕田 2010.8/13)
  花序下方の雌花群の下につく苞葉は長くふつう1個つき、上方の雄花群には数個の膜質の苞葉がつく。
  雌花群の苞葉は早い時期に脱落し、雄花の葯が開くと雄花部の苞葉も落ちてしまう。

Fig.5 花序上部の横断面。(西宮市・休耕田 2010.8/13)
  左が雌花群で、右が雄花群。雄花群は3個の葯を持つ雄花が密に集合したもので、葯からは花粉を放出していた。

Fig.6 熟した花序。(兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)
  雌花群はガマよりも短くコンパクトな印象を受ける。長さは4〜10cmで、長楕円形。

Fig.7 2段になった雌花群。(西宮市・休耕田 2010.8/13)
  ときに雌花群中の花序軸に節が生じて2段となるものがある。このような現象は他のガマ属植物にも見られる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.8 休耕田のコガマ群落。(西宮市・休耕田 2010.8/13)
山間にあるかなり古い休耕田で、周辺の山域から湧水が供給され、湛水状態となっており、画像手前がコガマ群落。
休耕田の大部分をエゾアブラガヤ群落が占め、他にはアゼスゲ、チゴザサ、ヤノネグサが群生し、ヌマトラノオ、サワヒヨドリなどが生育する。

生育環境と生態
Fig.9 湿地で群生するガマ。(兵庫県加東市・湿地 2008.9/22)
もとは休耕田であったと思われる低山の谷津田の湿地。湛水部分はなく、ヒメシロネとミソハギも群生している。
コガマよりも丈の高い線形の草体はガマものであるが、抽水状態にないためか、コガマのほうが優勢だった。
両種の混生地であることから、アイノコガマもあるのかもしれないが、確認しなかったことを後悔している。

Fig.10 休耕田のコガマ群落。(京都府中丹地方・休耕田 2015.7/31)
氾濫原由来の地下水位の高い休耕田で大規模な群落を形成していた。
ここではコガマの他、ウキヤガラ、サンカクイ、ヒメコウガイゼキショウ、ミズタカモジ、ウシノシッペイ、ノハナショウブ、カキツバタ、
ホシクサ、タコノアシ、コタネツケバナ、ヒメミソハギ、ミズマツバ、アブノメ、スズメハコベ、ノニガナ、オグルマなどが生育している。
また、水路内の湧水の影響のある場所ではアオカワモズクやチャイロカワモズク、水田内にはマルタニシやニホンメダカsp.が見られ、
まさにホットスポットと呼ぶにふさわしい場所だった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. コガマ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 260,261. 北隆館
山下貴司, 1982. ガマ科ガマ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.144. pl.125. 平凡社
北村四郎, 2004 ガマ科ガマ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.422〜423. pl.108. 保育社
大場達之. 2001. ガマ科ガマ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 392〜394. 神奈川県立生命の星・地球博物館
角野康郎, 1994. ガマ科ガマ属. 『日本水草図鑑』 84〜87. 文一統合出版
勝山輝男. 2001. モウコガマ. 清水建美(編)『日本の帰化植物』 p.292. pl.154. 平凡社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コガマ. 『六甲山地の植物誌』 241. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. コガマ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター
角野康郎 2008. コガマ. 兵庫県産維管束植物10 ガマ科. 人と自然19:222. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:26th.Feb.2017

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