ヒメコウホネ Nuphar subintegerrima  (Casp.) Makino スイレン科 コウホネ属
抽水植物  環境省絶滅危惧U類(VU)
Fig.1 (三重県・湿地 2015.8/9)

Fig.2 (三重県・河川 2015.8/9)

湧水のある溜池、水路、河川などに生育する浮葉〜抽水植物で、多年草。
根茎は横走する。沈水葉は円形〜広卵形で薄膜質、長さ5〜15cm、幅4〜15cm。
浮葉と抽水葉は円心形で、長さ5〜15cm、幅4〜15cm、基部は心形。
花は径2.5〜3.5cm。柱頭の先端は鈍頭で、柱頭盤から突き出すことはない。
種子は長さ5.5〜6.5cm。

サイコクヒメコウホネN. saikokuensis)はコウホネ、ヒメコウホネ、オグラコウホネが絡んだ雑種起源で捻性があり、形態は変異に富む。種子の長さ3.5〜4.5mm。
コウホネN. japonica)は抽水葉は狭卵形〜長楕円形、長さ25〜50cm。葯裂開後の花糸は倒伏する。種子の長さ3.0〜5.5mm。
オグラコウホネN. shimadae f. oguraensis)は抽水葉を欠き、浮葉は広円形、長さ8〜14cm。葉柄は細く、横断面は中心に穴がある。
ベニオグラコウホネ(タイワンコウホネ)N. shimadae)は形態、生活形ともにオグラコウホネと同様で、柱頭盤が赤い。
サイジョウコウホネN. × saijoensis)はコウホネとベニオグラコウホネの種間雑種。両種の中間的な形質を持つ。
近似種 : サイコクヒメコウホネオグラコウホネコウホネ

■分布:愛知、岐阜、三重
■生育環境:湧水のある水路、溜池、河川など。
■花期:6〜10月
■西宮市内での分布:兵庫県内には生育していない。

Fig.3 葉には抽水葉、浮葉、沈水葉の3型がある。(三重県・河川 2015.8/9)
  新しい浮葉は赤紫色を帯びたものが多く見られた。

Fig.4 沈水葉。(三重県・河川 2015.8/9)
  沈水葉は円形〜広卵形で薄膜質、長さ5〜15cm、幅4〜15cm。

Fig.5 抽水葉(三重県・湿地 2015.8/9)
  浮葉と抽水葉は円心形で、長さ5〜15cm、幅4〜15cm、基部は心形。
  岐阜県産のものは葉端が広がるが、三重県産のものは葉端が重なり合う。

Fig.6 抽水葉の葉柄断面(三重県・河川 2015.8/9)
  葉柄内部は中実で、太さは7〜8mmあった。

Fig.7 開花したヒメコウホネ。(三重県・河川 2015.8/9)
  花は抽水葉と同高かまたはやや低いものがほとんどだった。

Fig.8 ヒメコウホネの花。(三重県・湿地 2015.8/9)
  花は径2.5〜3.5cm。最外は黄色の5裂した萼裂片。花弁は小さく、画像では萼裂片と開いた雄蕊の間にあって見えない。

Fig.9 開いた花のパーツ。(三重県・湿地 2015.8/9)

Fig.10 柱頭盤と柱頭。(三重県・河川 2015.8/9)
  柱頭盤は整った形状。柱頭の先端は鈍頭で、柱頭盤から突き出すことはない。

Fig.11 雄蕊。葯と花糸はほぼ同長。(三重県・河川 2015.8/9)

Fig.12 果実。(三重県・河川 2015.8/9)
  果実は水中で熟す。この果実内には60個の種子が形成されていた。

Fig.13 種子。(三重県・河川 2015.8/9)
  種子は卵形で、表面には光沢があり、長さ5.5〜6.5cm。
  画像のものはFig.11の果実内部にあった種子で、やや未熟であり、5mm程度のものも混じっている。

生育環境と生態
Fig.14 湿地化した休耕田の浅水域に生育するヒメコウホネ。(三重県・湿地 2015.8/9)
地下水位が高く湧水も見られる休耕田がかなり大きな規模な湿原となっており、湛水状態の場所にヒメコウホネが群生している。
チゴザサが優占するが、マルバノサワトウガラシなどの稀少な水田雑草のほか、ヒメナミキ、アンペライなども生育している。

Fig.15 河川に群生するヒメコウホネ。(三重県・河川 2015.8/9)
海岸に近い流れの緩やかな河川であるが、ナガエミクリも混生し、湧水の流入もあると考えられる。
河川内ではナガエミクリのほかウキヤガラ、ショウブ、ヒメガマ、さらに最近ほとんど見られなくなったシログワイが生育している。
沈水植物ではホザキノフサモが生育しているが、コカナダモも繁茂している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑および一般図書を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
田村道夫, 1982. スイレン科コウホネ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.94. pls.93〜94. 平凡社
北村四郎, 2004 スイレン科コウホネ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.252〜253. pl.56. 保育社
牧野富太郎, 1961 コウホネ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 164. 北隆館
角野康郎, 1994. コウホネ属. 『日本水草図鑑』 112〜118. 文一統合出版
角野康郎, 2014. コウホネ属. 『日本の水草』 40〜49. 文一統合出版
大滝末男, 1980. コウホネ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 90〜91. 北隆館
諏訪哲夫. 2001. スイレン科コウホネ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 715〜716. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. コウホネ. 『近畿地方植物誌』 113. 大阪自然史センター
角野康郎・高野温子 2006. コウホネ. 兵庫県産維管束植物7 スイレン科. 人と自然12:143. 兵庫県立・人と自然の博物館
角野康郎, 1985. 兵庫県東播磨地方の水生植物追記(1). 水草研究会会報 19:9〜10. 水草研究会
Siga, T. and Kadono, Y. 2004. Morphological Variation and Classification of Nuphar with Special reference to Populations
        in Central to Western Japan. Acta Phytotax. Geobot. 55(2):107-117.
志賀隆・角野康郎, 2005. ヒメコウホネ(広義)の分類と生育地の現状について. 分類 5(2):113〜122. 日本植物分類学会

最終更新日:9th.Sep.2015

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