オグラコウホネ Nuphar shimadae  Hayata f. oguraensis  (Miki) Shiga & Kadono スイレン科 コウホネ属
水生植物 > 浮葉植物  環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池 2007.8/16)

Fig.2 (兵庫県三田市・溜池 2010.8/24)

主に貧栄養〜中栄養な溜池、河川、水路などに生育する浮葉植物で、多年草。
やや堅く太い白色の根茎が地中を横走し、分枝した根茎の頂部から水中葉と浮葉を根生する。
根茎はふつうコウホネより細く、ヒメコウホネよりも太いが、生長段階や栄養条件によって太さにはかなり幅がある。
葉柄は細長く、径3〜5mm、長さは水深によっては1mを超えることがある。断面は3角形状で、中心部は中空となる。
沈水葉は広卵形〜円心形で長さ8〜14cm、幅6〜12cm。浮葉が形成されても、多数の沈水葉が残る。
浮葉は広卵形で長さ8〜14cm、幅6〜9cm。水位が低下してもヒメコウホネのような抽水葉は出さない。
花は径2〜3.5cm。柱頭盤の縁は浅い歯牙状。柱頭はヒメコウホネと比べて細長く、互いに離れてつく。

近縁種にヒメコウホネN. subintegerrimum)がある。葉は円心形で小型、雄蕊の葯と花糸の長さの比は1:1
サイコクヒメコウホネ(仮称)はコウホネ×オグラコウホネ、コウホネ×ヒメコウホネ、あるいは3種が様々な段階で交配した雑種起源の集団の総称であり、変異が多い。
また、広島県の西条盆地周辺の溜池には母種のベニオグラコウホネN. shimadae)があり、柱頭盤が赤い。
近似種 : コウホネサイコクヒメコウホネヒメコウホネ

■分布:本州(近畿地方)、四国、九州 日本固有
■生育環境:貧栄養〜中栄養な溜池、河川、水路など。
■花期:6〜10月
■西宮市内での分布:市内では見られない。
              日本国内においては、兵庫県内に比較的自生地が多い

Fig.3 花冠。(兵庫県三田市・溜池 2007.6/23)
  花弁は多少とも赤味を帯びる。
  雄蕊の葯は外側から順次、花糸を外曲させつつ伸びていく。
  葯と花糸の長さの比は1:2〜1:3で、葯の裂開後も花糸は伸びて、外側に強く反る。

Fig.4 花冠中央部の拡大。(兵庫県三田市・溜池 2007.6/23)
  柱頭は細く、中央側で相接せず隙間があり、先端が柱頭盤から突出しない。
  柱頭盤の縁は浅い歯牙状となる。

Fig.5 オグラコウホネの果実。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/23)
  画像の果実は長さ2.5cm。
  心皮が合着した名残りが浅い縦じわとなっている。
  ヒツジグサに見られるような、雄蕊が付いていた痕跡は見られない。


Fig.6 オグラコウホネの種子。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/23)
  種子は黄褐色〜褐色、卵形で、長さ2.5〜3.5mm。表面は平滑で光沢がある。

Fig.7 根茎。(兵庫県三田市・溜池 2007.2/8)
  野生動物による攪乱の多い溜池では、コウホネ属の根茎が露出・漂着しているのをよく眼にする。
  浮葉と沈水葉を盛んに出すためだろうか、コウホネに比べ根茎に残る葉痕の密度が高い。
  根茎の太さは、ふつうコウホネよりも細く、ヒメコウホネよりも太い。

Fig.8 根茎頂部からの出芽。(兵庫県三田市・溜池 2007.2/8)
  頂部は丈夫な繊維質に覆われて保護されている。
  根茎表面に見える赤い糸状のものは、繊維質に入り込んで越冬するミズミミズの仲間。
  小さな溜池ではミズミミズの仲間は有益な分解者となる。

Fig.9 密生するオグラコウホネの沈水葉と浮葉。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/16)
  浮葉が生じた後も、沈水葉を盛んに出し、その数は浮葉よりも多い。

Fig.10 沈水葉の葉柄断面。(兵庫県三田市・溜池 2007.2/8)
  沈水葉、浮葉、ともに葉柄の断面は3角形状で、中心部は中空となる。
  葉柄の径はコウホネやヒメコウホネに比べて細い。

生育環境と生態
Fig.11 貧栄養な溜池で群生するオグラコウホネ。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/16)
この溜池ではオグラコウホネが密な群落をつくっていた。
手前に見える水草はイトモ。他にはオグラコウホネの隙間を埋めるようにヒツジグサが見られ、池底にはシャジクモ、フラスコモsp.、ホッスモが密生し、
池畔にはナガエミクリ、ミズニラ、ヒメホタルイ、カンガレイ、マツバイ、ニッポンイヌノヒゲ、イヌノヒゲなどが見られる。

Fig.12 山間の管理放棄された溜池で生育するオグラコウホネ。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/23)
周囲は樹木が生い茂り、池面に陽が当たる部分にオグラコウホネが生育する。土砂の流入が多く、水深は50cm未満と浅い。
水中にはイヌタヌキモ、フサモ、イトモが見られ、流入部の湿地ではアゼスゲ、ミヤマシラスゲ、オオハリイ、アブラガヤ、ミズニラ、
ミズユキノシタ、キツネノボタン、ニッポンイヌノヒゲ、ムツオレグサ、ヒナザサなどの湿生植物が多い。
初夏には周囲の樹木の枝先に沢山のモリアオガエルの卵塊が見られる。

Fig.13 山ぎわの深い溜池で生育するオグラコウホネ。(兵庫県三田市・溜池 2007.6/23)
管理された溜池で、数年に一度、水抜きもされる。
密生する種はないが、オグラコウホネ、ヒツジグサ、ヒシ、フトヒルムシロ、イヌタヌキモ、イトモなど水生植物の種数は豊富である。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑および一般図書を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994. コウホネ属. 『日本水草図鑑』 112〜118. 文一統合出版
大滝末男, 1980. ヒメコウホネ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 92〜93. 北隆館
田村道夫, 1982. スイレン科ジュンサイ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.93. pls.93. 平凡社
北村四郎, 2004 スイレン科コウホネ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.250〜251. pls.56. 保育社
角野康郎. 1998. オグラコウホネ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 335. 山と渓谷社
村田源. 2004. オグラコウホネ. 『近畿地方植物誌』 113. 大阪自然史センター
角野康郎・高野温子 2001. オグラコウホネ. 兵庫県産維管束植物3 スイレン科. 人と自然12:143. 兵庫県立・人と自然の博物館
Siga, T. and Kadono, Y. 2004. Morphological Variation and Classification of Nuphar with Special reference to Populations
        in Central to Western Japan. Acta Phytotax. Geobot. 55(2):107-117.
志賀隆・角野康郎, 2005. ヒメコウホネ(広義)の分類と生育地の現状について. 分類 5(2):113〜122. 日本植物分類学会

最終更新日:30th.Sep.2010

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