サイコクヒメコウホネ Nuphar saikokuensis  Shiga & Kadono スイレン科 コウホネ属
水生植物 > 浮葉植物  環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)

Fig.2 (兵庫県小野市・溜池下水路 2011.9/19)

湖沼、溜池や水路、淀んだ河川などに生育する多年草、浮葉植物であるが水位が下がると抽水形となる。
これまでヒメコウホネとしてまとめられ、関西型ヒメコウホネと仮称されてきたものである。
サイコクヒメコウホネはコウホネ×オグラコウホネ、コウホネ×ヒメコウホネあるいは3種間の可能性もある雑種を起源として
雑種種分化が進んだ個体群の総称である。そのため形態的に変異に富む。
沈水葉、浮葉、抽水葉を生じるが、稀に沈水葉をほとんど欠く集団がある。
浮葉、抽水葉ともに広卵形〜狭卵形、長さ10〜30cm、葉柄は中実。
種子は長さ3.5〜4.5mm。

コウホネ属は雑種起源種や雑種も含めて、区別の難しいものが多い。西日本では以下のものが生育する。
コウホネN. japonica)は抽水葉は狭卵形〜長楕円形、長さ25〜50cm。葯裂開後の花糸は倒伏する。種子の長さ3.0〜5.5mm。
ヒメコウホネ(狭義)N. subintegerrimum)は抽水葉、浮葉はともに円形、長さ4〜17cm。種子の長さ5.5〜6.5mm。
オグラコウホネN. shimadae f. oguraensis)は抽水葉を欠き、浮葉は広円形、長さ8〜14cm。葉柄は細く、横断面は中心に穴がある。
ベニオグラコウホネ(タイワンコウホネ)N. shimadae)は形態、生活形ともにオグラコウホネと同様で、柱頭盤が赤い。
サイジョウコウホネN. × saijoensis)はコウホネとベニオグラコウホネの種間雑種。両種の中間的な形質を持つ。
近似種 : ヒメコウホネコウホネオグラコウホネ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:湖沼、溜池、水路、河川など。
■花期:6〜10月
■西宮市内での分布:市内では1ヶ所の溜池で生育している。

Fig.3 兵庫県下のサイコクヒメコウホネ。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  兵庫県下に見られるサイコクヒメコウホネはほぼ全てコウホネとオグラコウホネの雑種起源のものであるという。
  そのため浮葉が卓越することが多いようである。

Fig.4 サイコクイヒメコウホネの浮葉。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  浮葉は広卵形〜狭卵形、長さ10〜30cm。変異幅は広い。

Fig.5 サイコクヒメコウホネの抽水葉。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  コウホネほど長くはならないが、それでも変異は多い。画像のものは比較的多く見られる形態。
  形や長さは浮葉とあまり変わらない。

Fig.6 沈水葉が発達した集団。(兵庫県小野市・溜池 2011.9/19)

Fig.7 沈水葉。(兵庫県宝塚市・溜池 2010.9/7)
  沈水葉は西日本のコウホネよりやや短く、オグラコウホネとはほとんど区別できない。

Fig.8 浮葉の葉柄断面。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  葉柄の横断面は円形〜楕円形で、中心部分は中空とはならず、オグラコウホネと区別できる。

Fig.9 開花したばかりの新鮮な花。(兵庫県加東市・溜池 2011.7/13)
  雑種起源であるため、ふつう柱頭盤はいびつな形状をしている。

Fig.10 開花晩期の花。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  コウホネの葯裂開後の花糸は倒伏するが、オグラコウホネでは著しく外に反り返る。
  西日本のサイコクヒメコウホネの場合、その中間的な特徴が現われる。
  浅瀬で抽水葉が発達し、沈水葉のあまり発達しない集団でも、この特徴を押さえることでコウホネと区別可能である。

Fig.11 果実。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  果実はふつうコウホネよりも小さい。

Fig.12 種子。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
  種子の長さは3.5〜4.5mm、平滑で光沢がある。種子は水に浮く。
  狭義のヒメコウホネは種子の長さ5.5〜6.5mmとなり、サイコクヒメコウホネよりも大きい。

Fig.13 根茎。(兵庫県小野市・溜池 2012.11/8)
  コウホネよりも若干細いものが多い。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 山間の溜池に生育するサイコクヒメコウホネ。(西宮市・溜池 2010.8/29)
山間の溜池にフトヒルムシロ、ヒツジグサと混生している。
沈水植物や浮遊植物は見られず、溜池畔にオタルスゲ、ゴウソ、コマツカサススキ、アイバソウ、オオハリイが生育していた。
西宮市内でサイコクヒメコウホネが見られるのは、この溜池だけである。

生育環境と生態
Fig.15 山際の小さな溜池に群生するサイコクヒメコウホネ。(兵庫県篠山市・溜池 2010.8/19)
山際に造られた上下2段に分かれた小さな溜池に密生している。上段の溜池は減水して水深が浅く、抽水葉を上げているものが多かった。
画像のものは下段のほうで、1匹のコイが放流されていて沈水植物は見られない。
この池のものにほとんど沈水葉が見られないのは、コイの食害によるためかもしれない。

Fig.16 谷戸途中にある溜池に生育するサイコクヒメコウホネ。(兵庫県宝塚市・溜池 2010.9/7)
上部に耕作地があるため水質は中栄養で、ガマ、キシュウスズメノヒエ、クロモ、オグラノフサモ、イヌタヌキモが生育している。
サイコクヒメコウホネは水深のある場所では浮葉が卓越し、上部の岸辺では抽水葉と沈水葉が卓越していた。

Fig.17 満水の溜池に浮葉を浮かべて生育するサイコクヒメコウホネ。(兵庫県丹波市・溜池 2009.9/17)
山際に造られた小さな溜池に生育しているが、満水で水深1m前後の場所に浮葉を上げて生育している。
水は濁って池底は全く見えないが、木の枝でさぐると水中葉が得られた。日照はほとんど届いていないだろうが、水中葉は沢山つけているようである。
この溜池にはサイコクヒメコウホネ以外の水生植物は見られなかった。

Fig.18 他の浮葉植物とともに浮葉植物群落を形成するサイコクヒメコウホネ。(兵庫県加古川市・溜池 2011.7/18)
丘陵部の比較的大きな溜池で多くの浮葉植物が生育しており、サイコクヒメコウホネもかなり広い水域に群生していた。
水面にはサイコクヒメコウホネのほか、ジュンサイ、ヒルムシロ、ヒシが生育し、沈水植物ではスブタ、コカナダモが、抽水植物ではカンガレイ群落が発達し、
ホソバノウナギツカミ、クログワイ、ヘラオモダカ、ウキシバなどが生育している。
周辺には池に面して耕作地もあり、種組成からも、中栄養な溜池だと考えられる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994 スイレン科コウホネ属. 『日本水草図鑑』 112〜118. 文一統合出版
大滝末男, 1980 ヒメコウホネ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 92〜93. 北隆館
村田源. 2004. ヒメコウホネ. 『近畿地方植物誌』 113. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒメコウホネ. 『六甲山地の植物誌』 123. (財)神戸市公園緑化協会
志賀隆・角野康郎, 2005. ヒメコウホネ(広義)の分類と生育地の現状について. Bunrui 5(2):113-122.
Shiga, T.& Kadono, Y., 2004. Morphological Variation and Classification of Nuphar with Special Reference to Populations
            in Central to Western Japan. Acta Phytotax. Giobot. 55(2):107-117.
Shiga, T.& Kadono, Y., 2008. Genetic relationship of Nuphar in central to western Japan as revealed by allozyme analysis.
              Aquatic Botany 88:105-112.
志賀隆, 2010. コウホネ属(スイレン科)における「種」のありかたについて(講演資料). 近畿植物同好会会報 109:13〜15.

最終更新日:3rd.Mar.2014

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