コウホネ Nuphar japonica  DC. スイレン科 コウホネ属
抽水植物  兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (滋賀県・小河川 2012.9/7)

湖沼、溜池、水路、河川などに生育する抽水植物で、多年草。
普通、最盛期にはしっかりとした葉柄を持った大きな葉を水上に立ち上げるが、水深が深い場合は浮葉の形をとり、
流水域では沈水葉だけで生育することがある。
根茎は白色で太く、泥中を横走して、ほぼ直角に分枝し、根茎の頂部から沈水葉と浮葉、気中葉を根生する。
根茎には葉痕が目立ち、節から太いひげ根を生じる。
近似種 : オグラコウホネサイコクヒメコウホネヒメコウホネ

■分布:日本全土、朝鮮半島
■生育環境:湖沼、水路、溜池、河川など。
■花期:6〜10月
■西宮市内での分布:市内では見られない。兵庫県下の溜池で見かけるものはほとんどがサイコクヒメコウホネである。

Fig.2 コウホネの花。(滋賀県・用水路 2007.11/4)
  花径は3〜5cm、最外側の大きな花弁状のものは萼片で、花後は緑色となり果実が熟すまで宿存する。
  雌蕊の柱頭は柱頭盤上に放射状に並ぶ。雌性先熟。開花期間は約1週間。
  雄蕊の花糸と葯はほぼ同長。葯が裂開した後、花糸は外側に倒伏する。

Fig.3 柱頭盤の拡大。(滋賀県・用水路 2007.11/4)
  柱頭の先は柱頭盤から突き出て、歯牙状になる。

Fig.4 コウホネの果実とその断面。果実は洋ナシ状の漿果で緑色。画像の果実は高さ4cm。(滋賀県・小河川 2007.11/4)
  子房内は8室に別れ、スポンジ状の組織に包まれた種子が多数並ぶ。
  内部の種子のうち、周縁部が紫色に染色しているものが熟したもので、灰緑色の種皮に覆われる。
  果実は完熟すると裂けて、スポンジ状の組織は仮種皮となって種子を包んだまま水を吸って膨張、水面を浮遊し、分布域を広げる。
  このような種子の散布法は、コウホネ属に共通する生態である。

Fig.5 コウホネの根茎。(滋賀県・小河川 2007.11/4)
  白色で太く、所々で葉痕が目立ち、ほぼ直角に分枝。節からは太い白色のひげ根を多数生じる。
  葉痕は螺旋状に残り、根茎は全体に螺旋形である印象を受ける。
  画像の根茎は太い部分で径5cmほどもあった。やや緑色を帯びている部分は、水底に現れていた部分。

Fig.6 葉痕とひげ根。(滋賀県・小河川 2007.11/4)
  古い太いひげ根からは、さらに多数の枝根が生じる。
  葉痕はひし形〜広楕円形で、維管束組織が集合していた部分が黒点となって残る。



Fig.7 コウホネの気中葉表面(上)、裏面(中)、葉柄断面(下)。(滋賀県・用水路 2007.11/8)
  気中葉は肉厚で柔らかく、葉身は長楕円形で全縁、長さ20〜30cm、幅7〜12cm。先端は円頭〜鈍頭、基部は矢尻形。
  表面は濃緑色で無毛、平滑光沢がある。裏面は黄緑色で、中央脈に沿って細毛が密生、支脈が目立ち、光沢はない。
  葉柄の断面は広楕円形で、中実。内部は海綿状で、辺縁に丸く維管束の集合組織が並ぶほか、内部にも数ヶ所散在する。

Fig.8 若い沈水葉と葉柄の断面。(滋賀県・小河川 2007.11/4)
  沈水葉は膜質で、縁はアオサのように波状に縮む。
  若い時期の沈水葉はヒメコウホネやオグラコウホネなどの近似種と酷似する。
  しかし、葉柄の断面を見ると区別できる。ヒメコウホネでは楕円形で中実、オグラコウホネでは3稜形で中心部が中空。
  コウホネの場合、断面は不完全な稜が数個あっていびつな形をしており、中空部分はない。

生育環境と生態
Fig.9 ハス田の浅い水域で気中葉を上げて群生するコウホネ。(愛知県・ハス田 2005.5/25)
  おそらく植栽されたものだろう。このような浅水域では気中葉のみを立ち上げ、沈水葉や水中葉は見られない。

Fig.10 水深のある緩い流水中に生育するコウホネ。(滋賀県・小河川 2007.11/8)
気中葉は立ち上げず、沈水葉のみで生育するが、花期には花茎を立ち上げる。
発達した沈水葉は縦に長く、縁は波状に縮む。

Fig.11 水深のある河川のよどみに生育するコウホネ。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
水深のある場所では浮葉のみで生育することがある。浮葉は気中葉よりも少し薄く、葉縁が波打つ。

Fig.12 小河川に群生するコウホネ。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
やや流れのある河川内で、大部分のものは水中葉をつけて群生している。ここではオオカナダモとミクリが混生していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑および一般図書を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
田村道夫, 1982. スイレン科コウホネ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.94. pls.93〜94. 平凡社
北村四郎, 2004 スイレン科コウホネ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.252〜253. pl.56. 保育社
牧野富太郎, 1961 コウホネ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 164. 北隆館
角野康郎, 1994. コウホネ属. 『日本水草図鑑』 112〜118. 文一統合出版
大滝末男, 1980. コウホネ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 90〜91. 北隆館
諏訪哲夫. 2001. スイレン科コウホネ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 715〜716. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. コウホネ. 『近畿地方植物誌』 113. 大阪自然史センター
角野康郎・高野温子 2006. コウホネ. 兵庫県産維管束植物7 スイレン科. 人と自然12:143. 兵庫県立・人と自然の博物館
角野康郎, 1985. 兵庫県東播磨地方の水生植物追記(1). 水草研究会会報 19:9〜10. 水草研究会
Siga, T. and Kadono, Y. 2004. Morphological Variation and Classification of Nuphar with Special reference to Populations
        in Central to Western Japan. Acta Phytotax. Geobot. 55(2):107-117.
志賀隆・角野康郎, 2005. ヒメコウホネ(広義)の分類と生育地の現状について. 分類 5(2):113〜122. 日本植物分類学会

最終更新日:2nd.Mar.2014

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