イトイヌノハナヒゲ
 (ヒメイヌノハナヒゲを含む)
Rhynchospora faberi  C.B.Clarke
var. faberi
カヤツリグサ科 ミカヅキグサ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/10)

Fig.2 (兵庫県姫路市・バッドランドの林道上 2012.10/15)

日当たりのよい湿地、溜池畔などに生育する小型の多年草。
イヌノハナヒゲ、コイヌノハナヒゲ、ミカヅキグサとともに湿原の主要種となるミカヅキグサ属の草本である。
叢生せず、茎は細く、高さ10〜40cmになり、全体にか弱い印象を受ける。
葉は細く、幅0.3〜1mm、有花茎よりも短い。
花序は小さく散房状、1〜3個の小穂がつく。小穂は長卵形、長さ4〜5mm、褐色、少数の鱗片をつけ1個の花をつける。
鱗片は卵形、長さ2.5〜3.5mm、褐色、鋭頭。痩果は倒卵形、長さ約2mm。
柱基の幅は近似種と較べてかなり狭く、円錐形。刺針状花被片は6本、痩果と同長または長く、下向きの小刺があって、ざらつく。
柱頭は2岐する。

刺針状花被片の小刺が上向きとなるものが稀に見られ、品種ヒメイヌノハナヒゲ(form. umemurae)とされるが、生態的な差はない(Fig.8参照)。
近似種 : イヌノハナヒゲコイヌノハナヒゲミカヅキグサ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、ウスリー
■生育環境:湿地、溜池畔など。
■果実期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内では中・北部の山間の湿地で見られる。

Fig.3 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/1)
  画像は数個体のかたまったもので、1個体自体は小さく叢生しない。草体は小さくせいぜい40cmぐらいまで。

Fig.4 花序。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/1)
  花序は散房状で小さく、1〜3個の小穂がつく。

Fig.5 花序の拡大。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/1)
  1つの小穂は数個の鱗片と1個の花からなる。鱗片は卵形、褐色で鋭頭、長さ2.5〜3.5mm。

Fig.6 痩果。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/1)
  痩果は倒卵形、長さ約2mm。柱基は円錐形で幅が狭く、痩果の1/4〜1/5。

Fig.7 痩果の拡大。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.9/1)
  痩果の表面には低い横じわがある。刺針状花被片は痩果と同長か長く、下向きの小刺が並ぶ。

Fig.8 品種ヒメイヌノハナヒゲの痩果。(兵庫県篠山市・溜池畔 2011.10/23)
 刺針状花被片の小刺が上向きとなるのもので、局所的に分布するが、イトイヌノハナヒゲとは生態的な差はなく、外見ではほぼ区別できない。

西宮市内での生育環境と生態
現在、画像はありません。

他地域での生育環境と生態
Fig.9 溜池跡の湿地に生育するイトイヌノハナヒゲ。(兵庫県篠山市・溜池跡湿地 2013.9/8)
溜池跡湿地の周縁斜面から湧水がにじみ出ており、被植の少ない部分にイトイヌノハナヒゲがまとまって生育していた。
同所的にはホザキノミミカキグサ、イトイヌノヒゲ、矮小化したハイヌメリ、ヒメカリマタガヤ、モウセンゴケ、ニガナ、アリノトウグサが生育していた。

Fig.10 林道脇に生育するイトイヌノハナヒゲ。(兵庫県姫路市・林道脇 2013.9/24)
流紋岩質のハゲ山状の山腹を通る林道脇の痩せた粘土質が薄く溜まった水はけの悪い場所に生育している。
周辺には同様な環境に出現しがちなアイナエ、アリノトウグサ、イシモチソウ、トウカイコモウセンゴケ、イトテンツキ、イトハナビテンツキ、
イガクサ、矮小化したテンツキ、ヒメカリマタガヤ、矮小化したハイヌメリ、イヌコウジュ、ニガナなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ミカヅキグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.170〜171. pls.152〜153. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科イヌノハナヒゲ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.251〜254. pls.63〜64. 保育社
星野卓二・正木智美, 2003 イトイヌノハナヒゲ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 204,205. 山陽新聞社
村田源. 2004. イトイヌノハナヒゲ. 『近畿地方植物誌』 165. 大阪自然史センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. アオガヤツリ. 『六甲山地の植物誌』 251. (財)神戸市公園緑化協会
谷城勝弘, 2007 ミカヅキグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 119〜122. 全国農村教育協会
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. イトイヌノハナヒゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:174.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:3rd.Mar.2014

<<<戻る TOPページ