ミカヅキグサ(ミカズキグサ) Rhynchospora alba  (L.) Vahl カヤツリグサ科 ミカヅキグサ属
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種

Fig.1 (西宮市・湿地 2006.9/22)

Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池畔の湿地 2010.8/8)

ふつう高原の湿地や高層湿原に生える多年草。
北方系の種で、関東以西では山地〜低地の湿地に、氷河期の遺存種として隔離分布する。
草体は叢生し、茎は直立して高さ10〜50cm。葉は糸状、幅0.5〜1mmで内に巻き、茎よりも短い。
花序は1〜3個で、2〜6個の小穂からなる。小穂は淡黄白色〜白色で、長さ5〜8mmで、1小花からなる。
痩果は倒卵形で、長さ1.8〜2.4mm。柱基は円錐形。雌蕊柱頭は2岐する。
刺針状花被片は9〜15個で、長さは痩果の1.5倍長で、中〜上部は下向きの小刺があるが、基部には上向きの小刺がある。
近似種 : イヌノハナヒゲコイヌノハナヒゲイトイヌノハナヒゲ

■分布:北海道、本州、九州 ・ ヨーロッパ、アジア、北アメリカ北東部
■生育環境:高層湿原(本州中部以北)、貧栄養な湿地(本州の東海以西)など。
■果実期:7〜10月
■西宮市内での分布:2ヶ所の湿地で確認できただけで稀。

Fig.3 ミカヅキグサの花序。(西宮市・湿地 2007.7/19)
  花序は頂部付近に比較的接近してつく。
  白い小穂が集まった様子は、同属の他種と較べるとよく目立つ。

Fig.4 小穂は多数の鱗片に包まれた1小花からなる。(西宮市・湿地 2007.7/19)
  小穂の先端からは2岐する雌蕊柱頭と、長い雄蕊の葯が見える。

Fig.5 開花しはじめたミカヅキグサ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.7/27)
  花が咲き始める頃、植物体の全体もまだ小さくあまり目立たない。

Fig.6 開花中盤のミカヅキグサ。Fig.5と同一個体。(兵庫県篠山市・溜池畔 2008.8/17)
  多数の花茎を上げると同時に、植物体も大きく成長し、全盛のころにはFig.1のような草体となる。

Fig.7 痩果。(西宮市・湿地 2007.11/9)
  痩果は倒卵形で、長さ1.8〜2.4mm。
  刺針状花被片は9〜15個と、同属の他種と比較して多数つく。

Fig.8 刺針状花被片の拡大。(西宮市・湿地 2007.11/9)
  刺針状花被片は太く、中〜上部では下向きの小刺が、基部付近では上向きの小刺が生じる。
  このため、複数個の痩果の花被片が絡まると、なかなかほぐし辛い。
  このような花被片の構造は、動物の体に付着するのに役立っているのかもしれない。
  氷河期の遺存種とはいえ、低地で蒔種しても痩果の発芽率はきわめて良く、分布がなぜ局限されるのか今一つ解らない。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 シロイヌノヒゲ群落内に混生するミカヅキグサ。(西宮市・湿地 2006.9/22)
画像に見える小さな白点は開花中のシロイヌノヒゲで、手前と左側の線形の草体がミカヅキグサ。
ここでは、コイヌノハナヒゲとイヌノハナヒゲも混じえ、3種のミカズキグサ属植物がみられた。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 溜池畔の小湿地で他の湿生植物とともに湿生植物群落を形成するミカヅキグサ。(兵庫県三田市・湿地 2006.9/22)
溜池畔の斜面に湧水によって成立した湿地で、野生動物による撹乱が頻繁にある。
生育する種は多様で、ミカヅキグサ、イヌノハナヒゲ、ヌマガヤ、チゴザサをメインに、サギソウ、トキソウ、モウセンゴケ、
コシンジュガヤ、マネキシンジュガヤ、ミミカキグサ、ムラサキミミカキグサ、サワシロギク、スイランなどが生育する。

Fig.11 小規模地すべり地の貧栄養湿地で群生するミカヅキグサ。(兵庫県三田市・湿地 2013.8/23)
丘陵の地すべり地に湧水によってできたと見られる貧栄養な湿地に、夥しい数のミカヅキグサが群生している。
ここではイヌノハナヒゲ、イトイヌノハナヒゲ、コマツカサススキ、ケシンジュガヤ、ホザキノミミカキグサ、ミミカキグサ、サギソウなどが生育する。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑や一般書籍を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ミカヅキグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.170〜171. pls.152〜153. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科イヌノハナヒゲ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.251〜254. pl.63. 保育社
牧野富太郎, 1961 ミカズキグサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 774. 北隆館
星野卓二・正木智美, 2003 ミカヅキグサ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 194〜207. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 ミカヅキグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 119〜122. 全国農村教育協会
小林禧樹. 1989. ミカヅキグサ. 『西神戸の植物』 33. 自費出版
近藤浩文, 1982 甲山周辺の湿地植物. 『六甲の自然』 85〜87. 神戸新聞出版センター
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ミカヅキグサ. 『六甲山地の植物誌』 251. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ミカヅキグサ. 『近畿地方植物誌』 165. 大阪自然史センター
矢野悟道・竹中則夫. 1978. 甲山湿原(仁川地区)の植生調査並びに保全に関する報告書. 西宮市自然保護課
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ミカヅキグサ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:174.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:25th.May.2014

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