イトテンツキ Bulbostylis densa (Wall.) Hand.-Mazz. var. capitat  (Miq.) Ohwi カヤツリグサ科 ハタガヤ属
湿生植物  環境省絶滅危惧U類(VU)
Fig.1 (兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)

Fig.2 (兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2013.9/24)

湿地周辺の粘土質の湿った草地や裸地などの日当たりのよい場所に稀に見られる一年草。
叢生し、花茎は糸状で高さ10〜20cm。葉は混生状で線形、花茎よりも短い。基部の鞘は淡褐色。
花序は散房状で、小穂を頭状につけ、苞葉の葉身は花序と同長または長い。
小穂は狭卵形で長さ約4mm、5〜10個の花がつき、熟すと褐色を帯びる。鱗片は卵形、長さ約1.5mm、濃褐色、短い芒を持ち、先はとがる。
痩果は倒卵形で長さ約0.7mm、3稜形で表面にはしわ状の突起が多数あり、頂部に扁平なこぶ状の柱基が残る。柱頭は3岐する。

【メモ】 兵庫県下ではイトハナビテンツキはふつうに見られるが、本種の自生地は非常に少なく、この10年で見つけた自生地はわずか1箇所にすぎない。
     過去の記録地を含め、早急に調査すべき種だと考えられれ、レッドデータブックに最低でもBランクあたりに記載されるべき種だろう。
同様な環境によく見られる母種イトハナビテンツキ(var. densa)は花序が散形で、花序枝の先に小穂が単生し頭状とならない。
海岸の砂地などに生育するハタガヤ(B. barbata)は小穂が淡緑色〜黄褐色で、鱗片の先は芒状となり、外曲することで区別がつく。
近似種 : イトハナビテンツキハタガヤメアゼテンツキヒメヒラテンツキ

■分布:本州(福島県以西)、四国、九州、石垣島 ・ 朝鮮半島南部、中国、台湾、インアドシナ、インド
■生育環境:湿地、湿った草地など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認していない。

Fig.3 全草標本。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)
  叢生する。花茎、葉ともに糸状で、草体は小型で非常に繊細。葉は花茎よりも短い。

Fig.4 基部と根。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)
  基部の鞘は淡褐色、有毛。根はひげ根状であまり発達しない。

Fig.5 花序。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)
  花序は散房状で、小穂を頭状につけ、苞葉の葉身は花序と同長または長い。

Fig.6 花序の拡大。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)
  花序は花序枝を分けず、小穂は頭状に集まる。

Fig.7 小穂。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)
  小穂は狭卵形で長さ約4mm、5〜10個の花がつき、熟すと褐色を帯びる。
  鱗片は卵形、濃褐色、短い芒を持ち、先はとがるが、同属のハタガヤのように先は外曲しない。

Fig.8 痩果。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)
  痩果は倒卵形で長さ約0.7mm、3稜形で表面にはしわ状の突起が多数あり、頂部に扁平なこぶ状の柱基が残る。

Fig.9 イトテンツキ(左)とイトハナビテンツキ(右)。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2012.10/15)
  同一箇所に生育していたもの。同一条件下ではイトハナビテンツキのほうが大きくなる。

生育環境と生態
Fig.10 禿山山麓の粘土質の林道脇に生育するイトテンツキ。(兵庫県姫路市・林道脇粘土質半裸地 2011.8/30)
兵庫県西播磨地方には流紋岩質凝灰岩の禿山が点在し、その山麓の各所に小規模な貧栄養湿地が見られる。
多くは林道脇の凝灰岩の風化によってキメ細かな粘土質の土壌が表層に溜り、降雨時には滞水するような場所で多少とも湧水が滲出する。
このような場所では表土が少ないことと、貧栄養な土壌条件のため生育できる草本は限られ、半裸地状の草丈の低いまばらな草地となり、
このような条件を好む湿生植物が生育する。
ここでは画像に見えるアイナエ、アリノトウグサ、ヒメオトギリ、ヒメカリマタガヤなどのほか、ニガナ、イシモチソウ、コモウセンゴケ、テンツキ、
イトイヌノハナヒゲ、イヌノハナヒゲ、イガクサ、イトハナビテンツキ、トダシバなどとともにイトテンツキが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982 カヤツリグサ科ハタガヤ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.173. pl.156. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科ハタガヤ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.237〜238. pl.59. 保育社
牧野富太郎, 1961 イトテンツキ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 773. 北隆館
勝山輝夫・堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ハタガヤ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 422. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 イトテンツキ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 164,165. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 ハタガヤ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 139. 全国農村教育協会
星野卓二・正木智美, 2011 イトテンツキ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 604,605. 山陽新聞社
村田源. 2004. イトテンツキ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. イトテンツキ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:140.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:3rd.Mar.2014

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