オオミズゴケ Sphagnum palustre  L. ミズゴケ科 ミズゴケ属
湿生植物  環境省準絶滅危惧種・兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (西宮市・湿地 2009.11/4)

湿地や貧栄養な溜池畔、山間の細流脇などに生育する大型の蘚類。
草体は緑色〜白緑色。茎は10cm以上になり、頂端付近に多数の枝が集まってつく。
茎の表皮細胞には明瞭な螺旋状の肥厚があり、表面に1〜4個の孔がある。
茎葉は舌状で先端はささくれる。枝葉は鱗状につき、長さ1.5〜2mm、円状楕円形で深くくぼむ。
葉縁は内曲し、細かいやや不明瞭な鋸歯がある。
葉細胞には大型でひし形の透明細胞と、線形で目立たぬ葉緑細胞があり、交互に並ぶ。
透明細胞には数本の横線状の肥厚が見られ、表面にいくつか孔がある。
横断面では葉緑細胞は三角形で、透明細胞に挟まれるが、葉の腹面に偏るため、上方に開けて見える。
雌雄異株でめったに朔をつけない。
近似種 :  ハリミズゴケホソベリミズゴケ、 ホソバミズゴケ、 イボミズゴケ、 ヒメミズゴケ

■分布:日本全土 ・ 世界各地。
■生育環境:貧栄養な湿地や溜池畔、山間の細流脇、山地の高湿度の腐植土上など。
■西宮市内での分布:市内中・北部に普通。

Fig.2 全草標本。(西宮市・湿地 2009.11/4)
  茎は長く伸び、1〜数回分岐し、頂端付近に多数の枝が集まってつく。

Fig.3 茎の頂端付近。(西宮市・湿地 2009.11/4)

Fig.4 茎。(兵庫県篠山市・休耕田の湿地 2014.3/11)
  枝を取り除いた茎で、茎葉はまばらにつき、長さ1〜1.5mm。

Fig.5 茎の表皮細胞。(兵庫県篠山市・休耕田の湿地 2014.3/11)
  茎の表皮細胞には明瞭な螺旋状の肥厚があり、表面に1〜4個の孔がある。
  表皮細胞に螺旋状の肥厚があるのは、オオミズゴケ節の種の特徴である。

Fig.6 茎につく葉。(西宮市・湿地 2009.11/4)
  舌状で先は円頭となって、ささくれる。

Fig.7 茎葉先端部のささくれ。(兵庫県篠山市・休耕田の湿地 2014.3/11)

Fig.8 枝につく葉。(西宮市・湿地 2009.11/4)
  枝葉は円状楕円形。深くくぼんだ葉を無理にプレパラートに挟んだため上端左下部あたりが縦に少し裂けてしまっている。
  枝葉は内曲し、上端部ではわずかに鋸歯があることが確認できる。

Fig.9 茎葉の葉身細胞。(兵庫県篠山市・休耕田の湿地 2014.3/11)
  横線状に肥厚部がある大型の透明細胞の周囲を囲むように、線形の葉緑細胞が取り囲む。葉緑細胞中には多数の葉緑体が見られる。
  透明細胞にはまばらに孔がある。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 低山の樹林下の細流脇に群生するオオミズゴケ。(西宮市・細流脇 2009.5/25)
西宮市内の低山の日陰の細流脇に群生するようなミズゴケはほとんどがオオミズゴケである。
こういった場所では画像でも見られるようにヒメアギスミレ、ハリガネスゲのほかオタルスゲやショウジョウバカマが見られることが多い。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 溜池畔に群生するオオミズゴケ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2010.8/23)
溜池畔では増水期に水際となるような粘土質土壌の場所で群生していることが多い。
このようなオオミズゴケ群落は多くの湿生植物が生育する温床となる。画像ではオオミズゴケ群落上にサワギキョウの群落が見られる。

Fig.12 湿原に群生するオオミズゴケ。(滋賀県・湿原 2012.10/1)
湿原化した広大な隠田の野生動物による撹乱の受けにくい場所にオオミズゴケ群落が発達していた。
湿原内は野生動物、特にシカによる撹乱が激しく、オオミズゴケ群落はシカが入り込みにくい湿原中に点在しているノリウツギ、イヌツゲ、
ハンノキ、アカメヤナギなどの低木下に発達している。
周囲の撹乱の多い場所ではシロイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲなどの1年生草本、アブラガヤ、コマツカサススキなどの撹乱に強い種が見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. ミズゴケ科ミズゴケ属. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.29〜35. pl.1. Figs.27〜30. 保育社
兵庫県. 2010. オオミズゴケ. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック(植物・植物群落)』 156. (財)ひょうご環境創造協会

最終更新日:15th.Mar.2014

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