ヒメミズゴケ Sphagnum fimbriatum  Wilson in Hook ミズゴケ科 ミズゴケ属
湿生植物  兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)

湿地や山間の細流脇などに生育する蘚類。
オオミズゴケよりも小型で、茎の表皮細胞に螺旋状の肥厚はない。
草体は細長く、緑色で赤くならず、枝も細長く伸びるが、開出枝よりも下垂枝のほうがずっと長い。
茎葉は茎に接着し、扇状舌形、先端と側方上部はささくれる。透明細胞はふつう薄い膜で2〜6個に仕切られる。
枝葉は舟形の長卵形で、先端付近の葉縁は内側に巻き込む。

ホソバミズゴケS. girgensohnii)は茎葉先端のみがささくれ、枝葉の先は外曲する。
スギバミズゴケS. capillifolium)は茎葉が茎に接着せず、舌状三角形、先はわずかにささくれる。ときに紅紫色を帯びる。
近似種 :  ホソバミズゴケ、 スギバミズゴケ、 ホソベリミズゴケオオミズゴケハリミズゴケ、 イボミズゴケ

■分布:北海道、本州 ・ 世界各地。
■生育環境:湿地や山間の細流脇など。
■西宮市内での分布:兵庫県では高所の湿地に生育し、市内では見られない。

Fig.2 全草標本。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  植物体はオオミズゴケよりも小型で枝も細く繊細。長さは10cmを超える。

Fig.3 新鮮な植物体は緑色。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  近縁のスギバミズゴケ、ホソベリミズゴケのように紅紫色を帯びたり、褐色を帯びたりしない。
  ホソバミズゴケは緑色なので、細部を調べる必要がある。

Fig.4 開出茎と下垂茎。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  ミズゴケ科のものは開出枝と茎に沿って下垂枝を出すが、ヒメミズゴケとその近縁種では明らかに下垂枝が長い。

Fig.5 茎葉は茎に接着する。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  茎葉は近縁のスギバミズゴケのように開出したり下垂したりせず、茎に接着する。

Fig.6 茎葉。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  茎葉は扇状舌形、先端と側方上部はささくれる。酷似するホソバミズゴケの茎葉は先端のみがささくれる。

Fig.7 茎葉の上部辺縁の葉身細胞。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  茎葉の上部辺縁には透明細胞が不規則な薄膜によって0〜4室に仕切られている。
  薄膜が一定方向ではなく、縦横が生じているのは、仕切りが葉緑細胞の名残りであることを思わせるが…。

Fig.8 開出枝。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  枝葉は鱗片状につき、先は反り返らない。酷似するホソバミズゴケの枝葉先端は反り返る。

Fig.9 開出枝の茎葉。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  枝葉は舟形の長卵形で、先端付近の葉縁は内側に巻き込み、先端は切形〜鈍頭。

Fig.10 茎葉基部付近の葉身細胞。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
  透明細胞は披針状の長い菱形で折れ曲がり、薄膜で仕切られて3〜6室、ときに7室となって、楕円形の孔がある。

他地域での生育環境と生態
Fig.11 温帯の緩斜面の小湿地で群生するヒメミズゴケ。(兵庫県但馬地方・湿地 2014.5/30)
尾根筋の周氷河的な緩斜面が続く林縁部で、残雪と湧水によって生じたと思われる小湿地に群生していた。
同所的にヤマテキリスゲは確認できたが、他の植物は生長途上で、萌芽中のイグサとミヤマシラスゲらしきものが見られた程度だった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻善之助, 1972. ミズゴケ科ミズゴケ属. 岩槻善之助・水谷正美『原色日本蘚苔類図鑑』 p.29〜35. Figs.27〜30. 保育社
兵庫県. 2010. オオミズゴケ. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック(植物・植物群落)』 156. (財)ひょうご環境創造協会

最終更新日:12nd.Jun.2014

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