ホシクサ Eriocaulon cinereum  R. Br. ホシクサ科 ホシクサ属 無弁節
湿生植物  兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県加東市・溜池畔 2011.9/19)

Fig.2 黒花型 (兵庫県稲美町・溜池畔 2014.7/2)

水田や休耕田、農耕地周辺の湿地、やや古くて大きな溜池畔に生える1年草。
除草剤の使用や圃場整備によって著しく減少した水田雑草で、環境良好な水田でないと見られないが、
自生地、特に水田や休耕田では群生する傾向が強い。
雌花には花弁が無く、ホシクサ属中の無弁節に分類される。
普通、頭花は白色だが、時には、花苞や萼が黒藍色の黒化型ホシクサが出現する。
水田雑草には史前帰化植物と考えられているもの−アゼナ、アゼトウガラシ、チョウジタデ、タマガヤツリなど−が多数あって、
ホシクサも史前帰化植物だとする説が有力である。
近似種 : クロホシクサゴマシオホシクサヒロハイヌノヒゲ

■分布:本州、沖縄 ・ 朝鮮半島、東アジア、インド、アフリカ、オーストラリア
■生育環境:水田とその周辺の湿地、溜池畔など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では北部の限られた数枚の水田で自生が確認できた。

Fig.3 開花中のホシクサの頭花。(岡山県真庭市・水田 2007.9/23)
  外縁からはじまって、複数の雄花が輪生状に開花してゆく。

Fig.4 開花した黒花型の頭花。(兵庫県稲美町・溜池畔 2014.6/20)


Fig.5 黒花型ホシクサの頭花。(滋賀県・水田 2007.11/8)
  上:頭花を横から見る。総苞片は頭花よりもかなり小さい。
    黒化型ホシクサは、通常のホシクサに較べると花茎が少し捩れることが多く、クロホシクサと間違え易いが、
    クロホシクサは花苞や萼に白色棍棒状毛が生えているのでルーペで頭花を観察すれば、区別は容易である。
  下:頭花の俯瞰。小花は藍黒色の花苞に覆われ、花苞の隙間からは糸状の雌蕊花柱が出ている。
    花苞の間にところどころ見える、白い球形のものは雄花から頭を出した、雄蕊の葯。


Fig.6 黒花型ホシクサの雄花。(滋賀県・水田 2007.11/8)
  上:雄花は仏炎苞状に合着した萼に包まれ、萼は上部で3裂する。長さ1.5〜2mm。
  下左:萼を内側(背軸面)から見る。上部で3裂しているのが判る。
  下左:判りにくい画像だが、雄花の様子。花弁と葯だけは白いのが面白い。
     花弁は3個で下部は筒状に合着、上端には短毛がある。

Fig.7 黒化型ホシクサの雌花。(滋賀県・水田 2007.11/8)
  花苞が3枚写っているが、両側の2枚の花苞は別の花もので、1つの雌花は1個の花苞に覆われる。
  雌花には花弁はなく、2個の萼片が付く。

Fig.8 雌花の核心部。(滋賀県・水田 2007.11/8)
  花弁はなく、萼片は2個離生して付き、膜質、線状披針形。縁にはごくまばらに2細胞からなる長毛を付ける。
  刮ハには柄があり、3室からなる。花柱は刮ハよりはるかに長く、基部には短毛が見られる。

Fig.9 痩果。(三重県熊野市・水田 2014.9/26)
  長さ0.3〜0.4mmで、広楕円形、透明感のある褐色〜淡褐色。

Fig.10 痩果の拡大。(三重県熊野市・水田 2014.9/26)
  表面には低い隆起の6角状の格子模様があり、無毛。

Fig.11 成長期のホシクサ。(自宅植栽 2007.8/12)
  線形の葉を根際から束生する。
  栽培は非常に容易である。

Fig.12 水田中の成長期のホシクサ。(兵庫県篠山市・水田 2008.7/27)
  形はツメクサの成長初期と似るところもあるが、それよりも葉の質は硬く、葉脈は格子状となる。

Fig.13 裏面から見た根生葉。(滋賀県・水田 2007.11/8)
  葉は線形で、先はとがり、3脈あり、格子状。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.14 水田雑草群落を形成するホシクサ。(西宮市・水田 2015.9/4)
緩斜面が広がる山裾の水田に多様な水田雑草とともにホシクサが残存していた。
稲刈り後も完全には乾かず適湿な土壌が見られ、タマガヤツリ、ヒナガヤツリ、イヌホタルイ、ウリカワ、オモダカ、コナギ、セリ、
チドメグサ、ヒメミソハギ、ミズマツバ、アゼナ、アブノメ、サワトウガラシ、ミゾカクシ、トキンソウなどの豊富な植生が見られた。

Fig.15 水田に群生するホシクサ。(西宮市・水田 2015.9/4)
先のものと同一地域の別の水田で見られるもので、ここではクログワイととも多数のホシクサが群生していた。

生育環境と生態
Fig.16 稲の刈り取り直前の落水した水田で群生するホシクサ。(岡山県真庭市・水田 2006.9/27)
稲の株元で元気にホシクサが育つ光景は、都市近郊ではほとんど見ることができない。
ホシクサは水田耕作とともに渡来した史前帰化植物であるとの可能性が指摘されている。
おそらくは、近代化が進行した60年代以前には平野部の水田でも、このような光景が見られたはずだと思う。

Fig.17 ホシクサ、アゼトウガラシ、ミズマツバ、アブノメ、チョウジタデ…。(岡山県真庭市・水田 2006.9/27)
失われゆく多様性が、ここでは極当たり前のように展開されていた。

Fig.18 管理休耕田で大群生するホシクサ。(岡山県真庭市・休耕田 2007.9/23)
まるで絨毯のように群生していて驚かされた。

Fig.19 水田で湛水状態で生育するホシクサ。(岡山県真庭市・水田 2007.9/23)
ホシクサは長期間にわたって水没するような場所でも生育可能である。

Fig.20 刈り取り後の水田でヒロハイヌノヒゲと混生するホシクサ。(滋賀県・水田 2006.11/8)
根生葉がはっきりと判り、花茎が螺旋状に外に広がっているのがヒロハイヌノヒゲで、花茎を直線的にあげているのがホシクサ。
自生個体数はヒロハイヌノヒゲのほうがやや多く、ホシクサのほうが開花期が早い。
タウコギ、ミズワラビ、アゼトウガラシ、ヒロハノスズメノトウガラシ、シソクサ、マルバノサワトウガラシ、ミズマツバ、ヒメミソハギなどの
現在では稀になってしまった水田雑草が多数生育する楽園のような水田だった。
ここではシソクサが、まるでアゼナのような頻度で出現していて、もっとも個体数の少ないものはミズマツバ(1株のみ確認)だった。
この水田に関しては、毎年数回足を運んで継続的な植生調査を行いたいと考えています。

Fig.21 中栄養な溜池畔に生育するホシクサ。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.11/2)
すでに草体は黄変し、痩果が熟していた。この場所のものは他の地域のものと比べ、葉の数が多く大きかった。
周辺には湧水による貧栄養な湿地が見られ、ヒメカリマタガヤ、イヌノハナヒゲ、シロイヌノヒゲ、ミミカキグサ、トウカイコモウセンゴケ
などが生育し、池畔にはオオホシクサ、ツクシクロイヌノヒゲ、サワトウガラシなどが見られた。

Fig.22 刈取り後に姿を現したホシクサ群落。(兵庫県神戸市・水田 2011.10/16)
圃場整備された水田だが、山際の1区画にはホシクサの大群落が見られ、水田一面にびっしりと生育していた。
周辺にはシソクサが多数生育している水田も見られた。

Fig.23 湿田の排水路内で生育するホシクサ。(兵庫県小野市・水田 2011.9/19)
水中画像。山際の湧水の多い湿田の素掘りの排水路内で生育しているもの。
水田は刈取り前で落水されていたが、排水路内には湧水が滞水しており、多数の水田雑草が生育していた。
水田中ではホシクサは排水路内にのみ見られ、イトトリゲモ、ヤナギスブタ、シャジクモ、沈水状態のサワトウガラシやキカシグサ、チョウジタデ、
ミゾハコベなどとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や学会誌。)
佐竹義輔, ホシクサ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 75〜84 平凡社
村田源, 2004 ホシクサ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.175〜185. pl.48. 保育社
牧野富太郎, 1961 ホシクサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 816. 北隆館
大滝末男, ホシクサ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 120〜121 北隆館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ホシクサ. 『六甲山地の植物誌』 223. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ホシクサ. 『近畿地方植物誌』 150. 大阪自然史センター
矢内正弘. 2008. 県内のホシクサ科植物について. 兵庫植物誌研究会会報 75:1〜3
松岡成久・丸岡道行. 2010. 千種町山間部の水田に見られた水田雑草. 兵庫県植物誌研究会会報 82:4

最終更新日:25th.Oct2015

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