クロホシクサ Eriocaulon parvum  Koernicke. ホシクサ科 ホシクサ属 離生萼節
湿生植物  環境省絶滅危惧U類(VU)・  兵庫県絶滅種 
Fig.1 (兵庫県・溜池畔 2014.10月)

Fig.2 (愛知県・溜池畔 2005.10月)

溜池畔と周辺の湿地に生える1年草。茎はごく短い。
葉は多数がロゼット状につき、線形で長さ4〜10cm、3〜5脈あり格子状。先端は鋭頭。
花茎は高さ10〜20cmになり、ふつう同一条件下ではホシクサよりも大きくなる。花茎には5〜6肋あり、すこしねじれる。
頭花は球形で4〜5mm、花床には毛が生え、雄花、雌花の先端部分や花苞にはいずれも短い白色棍棒状毛が生える。
雄花は長さ約1.5mm、萼は合着して先は浅く3裂し、花弁3個は上部を残して筒状に合着する。
雌花は長さ約1.8mm、萼片は3個で離生し、花弁は3個で離生し、先は凹まない。
雌花の萼片は離生することから離生萼節に分類される。
総苞片は頭花よりも短く、倒卵形で鈍頭。
ゴマシオホシクサ、オオホシクサ、ホシクサ黒化型(ホシクサのページ参照)と似る。

【メモ】 もともと分布が局限される上に、除草剤の使用や圃場整備、溜池の改修工事などで急激に減少した。
     兵庫県では過去に採集された地域で近年生育が確認できず絶滅種とされたが、新たに別の自生地が見つかった。
     自生地を案内していただいたE氏には感謝申し上げる。E氏は近く植物誌研究会の会報に報告される予定である。
     なお、本ページでは自生地保護の立場から具体的な市町村名、撮影日は表記していない。
ゴマシオホシクサE. senile)は葉幅が広く、基部近くで幅約4mmで9〜13脈ある。花床に毛はなく、雄花の萼は中部まで3裂する。本州中部〜九州。
アマノホシクサE. amanoanum)は花床に毛があるが、雄花の萼は中部まで3裂する。宮崎県以南。
スイシャホシクサE. nigrum var. suishaense)は頭花が灰白色で、雌花の萼片が2個。沖縄・台湾
近似種 : ゴマシオホシクサホシクサオオホシクサヒロハイヌノヒゲ

■分布:本州、九州
■生育環境:溜池畔、湿地など。
■花期:9〜10月
■市内での分布:市内では見られず、今後も発見される可能性は少ないと思う。

Fig.3 開花したクロホシクサ。(兵庫県 2010.10月)
  茎はごく短く、見た目は葉が根際から束生しているように見える。花茎はねじれている。

Fig.4 頭花。(兵庫県 2010.10月)
  頭花は球形または多少下部が平たくなり、径4〜5mm、全体に黒藍色を帯び、白色の毛が目立つ。総苞片は頭花よりも短い。

Fig.5 ねじれた花茎と頭花下部に並ぶ総苞片。(兵庫県 2010.10月)

Fig.6 花茎の横断面。(兵庫県 2010.10月)
  花茎には5〜6肋ある。画像のものは5肋あり、5角形となっている。

Fig.7 真上から見た頭花。(兵庫県 2010.10月)
  花は雌雄異花で雌雄同株、頭花には雄花と雌花が密集する。花弁は小さく、開花すると花糸と黒色の葯、雌蕊の柱頭が目立つ。
  雄花の雄蕊は6個あり、まだ伸びていない雄蕊の葯が、すでに伸びた花糸の基部近くにかたまって見えている。
  *注:花弁先端の毛には萼裂片先端の毛も混じっていて、判別しがたい。

Fig.8 花床には長白毛が生える。(兵庫県 2010.10月)
  ホシクサには花床に毛はなく、黒花型のホシクサにも花床に毛はない。

Fig.9 雄花。(兵庫県 2010.10月)
  萼は合着して先で3裂し、上縁に白色棍棒状毛がある。
  花弁は上部を残して合着して下部は花筒となり、裂片上縁には白色棍棒状があるが、無毛または脱落したものも見られた。
  花弁の裂片内側には黒腺があるが、画像では確認しがたい。雄蕊6個、花糸は花弁より長く、葯は黒色円形。

Fig.10 雌花。(兵庫県 2010.10月)
  萼片は3個で離生し、上方外縁に毛がある。
  花弁は3個離生し、線状倒披針形で上縁に毛が少しあり、上部内側には黒腺があるが、画像では見づらい。子房は3室。

Fig.11 雄花の変異。(兵庫県 2010.10月)
  クロホシクサの雄花は花筒内部に退化雌蕊を持つが、多くの雄花の中から両性花を思わせるような雌蕊を持つものが見られた。

Fig.12 クロホシクサの痩果。(兵庫県 2010.10月)
  結実は10月から12月にかけて。痩果は楕円形、長さ0.4〜0.5mm、淡黄色。
  表面には横長で6角状の格子模様があり、その稜上に乳頭状突起が上向きに櫛の歯状に並ぶ。乳頭状突起はときに下向きになる。

生育環境と生態
Fig.13 溜池畔の湧水がにじむ場所に生育するクロホシクサ。(兵庫県 2010.10月)
溜池畔の裸地の湧水箇所に背丈の低いミミカキグサやサワトウガラシ、フタバムグラなどとともに生育している。
ここで見られるクロホシクサはいずれも小型の個体だったが、この池でみられる1年生草本は全て小型のものばかりであった。
サワトウガラシにいたっては高さ1cm以下で、開花した形跡はなく、閉鎖花をつけて結実していた。

Fig.14 アゼスゲ群落の被植の少ない部分に生育するクロホシクサ。(兵庫県 2010.10月)
溜池畔にはアゼスゲ群落がよく発達していたが、その群落中の被植の少ない部分にもクロホシクサが生育していた。
アゼスゲの群度の高い場所では全く生育していないが、アゼスゲの背丈が低くなってややまばらとなっている場所では開花全盛期であったが、
アゼスゲの群度が低く、被植のまばらな画像のような場所では花茎をあげはじめたような個体が目立った。

Fig.15 溜池畔に点々と自生するクロホシクサ。(愛知県 2005.10月)
池畔の裸地の多い部分に見られた。同所的にヌメリグサ、アオコウガイゼキショウ、イヌノヒゲが見られた。

Fig.16 群生するクロホシクサ。(兵庫県 2014.10月)
2014年度は夏期に降雨日が多く、秋開花の湿生植物の当たり年となり、クロホシクサも例外ではなかったようだ。
例年であれば100〜300個体の間を移行していたが、1000個体は超えているだろう群生が見られた。立派な個体も多い。

Fig.17 池沼のミズゴケ湿地に生育するクロホシクサ。(京都府 2013.10/2)
ここではオオミズゴケとハリミズゴケが浮島を形成しており、その浮島の辺縁にクロホシクの立派な群落が見られた。
京都府RDBのカヤツリグサ科の調査であったが、湿生植物について多くの示唆を得られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や学会誌。)
佐竹義輔. ホシクサ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 75〜84 平凡社
村田源. 2004. ホシクサ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.175〜185. pl.48. 保育社
宮本太. 1998. クロホシクサ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 492. 山と渓谷社
村田源. 2004. クロホシクサ. 『近畿地方植物誌』 150. 大阪自然史センター
兵庫県. 2010. クロホシクサ. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック2010(植物・植物群落)』 118. (財)ひょうご環境創造協会
高田順. 1996. ホシクサ属数種の種子形態(1). 水草研究会会報 58:18〜24
高田順. 1998. ホシクサ属数種の種子形態(2). 水草研究会会報 63:29〜34
高田順. 2000. ホシクサ属数種の種子形態(3). 水草研究会会報 69:22〜34
高田順. 2001. ホシクサ属数種の種子形態(4). 水草研究会会報 72:17〜23
南山典子・竹岳秀陽・服部保. 2003. 絶滅危惧種クロホシクサの発芽特性. 人と自然・兵庫県立人と自然の博物館 14:93〜97
矢内正弘. 2008. 県内のホシクサ科植物について. 兵庫植物誌研究会会報 75:1〜3
橋本光政・宮本太・高橋晃 2007. クロホシクサ. 兵庫県産維管束植物9 ホシクサ科. 人と自然19:116. 兵庫県立・人と自然の博物館
江村伸二・松岡成久 2011. 兵庫県で再発見されたクロホシクサ(ホシクサ科)の生育環境. 兵庫の植物 21:27〜34. 兵庫県植物誌研究会

最終更新日:26th.Feb.2017

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