ウキゴケ(カヅノゴケ)複合種 Riccia fluitans complex ウキゴケ科 ウキゴケ属
湿生〜沈水〜浮遊植物 環境省準絶滅危惧種(NT)
Fig.1 (滋賀県・水路の側壁 2008.9/8)

Fig.2 (兵庫県三木市・用水路 2012.10/14)

Fig.3 (兵庫県加西市・溜池 2011.10/19)

溜池、水田、水路などの浅水域の水中、または溜池畔や休耕田、水田の泥土上で見られる苔類。
泥土上では胞子で越冬し、水中では枯れずに越冬し、多年草のようになる。
泥土上のものは気孔や腹鱗片が生じるが、水中のものにはそれらがなく、2叉分枝を繰り返した葉状体が他物に絡んで定着する。
葉状体は長さ1〜5cm、幅0.5〜1mm、厚さ約0.15mm、先端は凹頭、1〜2回規則的に2又分枝し、盛んに成長し、立体的に複雑な群体をつくる。
横断面は気室が1〜3層あり、その境は1層の細胞からなる。
雌雄同株で、夏から秋に雄器、雌器ともに葉状体に埋もれて形成されるが、泥土上に生育するものに限られるうえに稀である。
胞子嚢は葉状体内部に埋もれたまま成熟し、熟すと葉状体の下面が半球状にふくらむ。
胞子ははじめ淡黄褐色で半透明、熟すと黒褐色となり、球形。

泥土上のものはコハタケゴケ(R. huebeneriana)に似るが、ウキゴケはマット状に薄く広がるが、コハタケゴケは明瞭な円形のロゼットを形成する。
また、コハタケゴケが水中で生育することはない。

【メモ】 従来ウキゴケとされていたものは形態的に酷似した複数の生物学的種から成り立つことが指摘されており、その分類は染色体の倍数性と、
     腹鱗片の配列数と形態によって区別される。
     これまでウキゴケは陸生型と水生型の2型の生態的なタイプが知られているが、これをそのままそれぞれ別種とすることはできない。
     湧き水の豊富な水中に生育し、葉状体が扁平で常緑、生殖器官をつけないものは狭義ウキゴケ(R. fluitans)であろうと推定されている。
     また、泥土上で胞子体を形成し、葉状体の幅が狭くまばらに分枝するものは熱帯・南部アフリカ、南米、北米南部に分布するR. stenophylla
     と同種である可能性が指摘されている(秋山 1998)。
     しかしながら、一般的に形態から区別することは非常に難しく、ここで掲載しているものも様々な環境下で生育するものが含まれるため、
     ウキゴケ複合種 fluitans complex とした。
     これまで国内で確認されているものは、いずれも腹鱗片が1列のもので、これはR. fluitansR. stenophyllaの特徴と一致する。
     もし、腹鱗片が2列のものが見つかれば、是非ご一報頂きたい。
     アクアリウムのレイアウトに使用されるリシアは本複合種を指し、国内外のものが多量に流通しており、逸出により自生種との混同が懸念される。
謝辞:ウキゴケに関する文献を提供していただいたAさんに感謝申し上げます。
近似種 : カンハタケゴケハタケゴケ、 コハタケゴケ、 イチョウウキゴケ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 世界各地
■生育環境:溜池、水路、水田、休耕田など。
■発生期:沈水形はほぼ1年中、陸生形は冬期に枯れる。
■西宮市内での分布:西宮市内では確認できていないが、見つかる可能性は高い。

Fig.4 2叉分枝する葉状体。(兵庫県篠山市・水路 2010.7/31)
  葉状体は規則正しく2叉分枝を繰り返す。先は凹形。

Fig.5 葉状体の拡大。(兵庫県篠山市・水路 2010.7/31)
  水中で生育するものは、葉状体の幅は広く扁平となる。

Fig.6 沈水形から陸生形へと移行中の集団。(滋賀県・用水路 2009.6/11)
  葉状体の分枝の間隔が短くなっている。

他地域での生育環境と生態
Fig.7 水路の水中の壁面に生育するウキゴケ。(兵庫県篠山市・水路 2010.7/18)
湧水の流入があると見られる幅1.5m程度の灌漑用水路内の石垣に生育していた。
画像右の水中の水草はヒルムシロ。他に沈水形のアゼナがところどころに生育していた。

Fig.8 棚田の用水路内に生育するウキゴケ。(兵庫県宝塚市・用水路 2010.9/7)
棚田と土手の間にある素掘りの用水路内の壁面や水中にウキゴケが生育していた。
用水路内には画像に見えるヘラオモダカやイボクサ、チゴザサ、ウキクサのほか、水田型のイヌタヌキモが見られ、用水路脇には
ノハナショウブ、カキラン、ミズギボウシ、モウセンゴケなどが生育し、自然度の高い場所だった。

Fig.9 湧水の多い田園地帯の側溝に生育するウキゴケsp.。(滋賀県・側溝 2011.8/18
至る所から清水が湧出する盆地内の田園地帯の水枯れしない側溝にバイカモ、ナガエミクリ、ミズハコベなどとともに生育していた。

Fig.10 溜池の水面に浮遊するウキゴケsp.。(兵庫県加西市・溜池 2011.10/19
山間の寺院脇にある溜池で、ヒシ、オオヌトイ、クワイ、アシカキ、ミゾソバが生育し中栄養な溜池とみられる。
寺院脇からは細流が流入するが、水底からも湧水があると考えられ、ウキゴケsp.が生育しているものだろう。

Fig.11 溜池畔の地表を覆うウキゴケsp.。(兵庫県加西市・溜池 2011.11/6
播磨地方の平野部にあるガガブタ、ヒシが生育する中栄養な溜池畔のミソハギ群落の株元を覆って生育している。
ミソハギ群落の上部にはカモノハシ、イヌノハナヒゲ、ゴマクサ、ヤマラッキョウなどが生育し、湧水の滲出があると考えられる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
水谷正美, 1972. ウキゴケ科ウキゴケ属. 岩槻善之介・水谷正美 『原色日本鮮苔類図鑑』 368〜369. 保育社
大滝末男, 1980 カズノゴケ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 278〜279. 北隆館
秋山弘之・山口富美夫, 1997. ウキゴケ Riccia fluitans L. の胞子. 蘚苔類研究 7(2):50〜52.
秋山弘之, 1998. 無性的に繁殖する蘚苔類の遺伝的多様性 -ウキゴケとイチョウウキゴケの事例から-. 蘚苔類研究 7(5):152〜160.

最終更新日:2rd.Mar.2014

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