ムラサキサギゴケ (サギゴケ) Mazus miquelii  Makino ゴマノハグサ科 サギゴケ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県篠山市・水田の畦 2015.4/21)

Fig.2 (西宮市・水田の畦 2012.4/24)

水田の畦や休耕田、耕作地周辺の湿った場所、湿った土手などに生育する小型の越年草。
花期の半ばあたりから匍匐枝をのばし、節から発根して栄養繁殖する。
葉は倒長卵形または長楕円形、鈍頭、葉柄を含めて長さ4〜7cm、幅1〜1.5cm。匍匐枝の葉は短い。
花は総状花序にまばらに数個つき、花序にはふつう短毛がある。萼は5中裂し長さ7〜10mm。
花冠は長さ1.5〜2cm、2唇形。上唇は披針形、下唇より短く、2裂して裂片の先はややとがり、下唇は大きく3裂して開出し
基部に褐色の斑紋のある2本の畝がある。
雄蕊は4個で2個は長く、柱頭は2裂して裂片は円く、触ると閉じる。

ムラサキサギゴケには花色に変化が多く、白花の品種はサギゴケ(サギシバ)(f. albiflorus)とされ、桃花品もあって栽培されることも多い。
また、山地性で、長く伸びた走出枝に小さくて円い葉がつき、毛や腺毛の多いものは品種ヤマサギゴケ(f. routundifolius)とされる。
同属で似たものにトキワハゼM. pumilus)がある。水田の畦や休耕田から畑や道端、庭先など、ムラサキサギゴケよりも広範囲な場所に
ごく普通に見られ、花冠の長さ1〜1.2cmと小さく、匍匐枝は出さない点で区別できる。花期は4〜10月と長い。
近似種 : トキワハゼヤマサギゴケウリクサ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:水田の畦や休耕田、耕作地周辺の湿った場所、湿った土手など。
■花期:4〜5月
■西宮市内での分布:中・北部の棚田周辺に生育するが、あまり多くない。

Fig.3 開花中のムラサキサギゴケ。(兵庫県篠山市・水田の畦 2008.5/8)
  花は唇形花。花冠はトキワハゼよりも大きく、長さ1.5〜2cm。
  上唇は先がとがって2深裂。下唇は大きく、先は3裂し、中央の盛り上がりは大きい。

Fig.4 花冠。(兵庫県三田市・水田 2008.3/29)
  中央の隆起部分には赤褐色の斑紋があり、腺毛がまばらに生える。

Fig.5 訪花したジャコウアゲハ。(京都府福知山市・河川敷 2015.4/24)

Fig.6 花期の半ばあたりから匍匐枝を伸ばしはじめる。(兵庫県三田市・水田 2008.3/29)

Fig.7 夏期には匍匐枝の伸張が盛んになる。(兵庫県篠山市・水抜きされた溜池底 2008.7/27)
  匍匐枝にはさじ状の小さな葉が対生してつき、葉腋からさらに分枝し、節から発根する。
  茎や葉はほとんど赤紫色を帯びず、開花期のものとはまるで別種のように見える。

Fig.8 初秋に開花した個体。(滋賀県高島市・休耕田 2008.9/8)
  秋には返り咲きが見られることがあり、匍匐枝の先端付近の節から短いシュートを出して先端に花をつける。

Fig.9 ムラサキサギゴケの越冬態。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.2/11)
  冬期は小ぢんまりとしたロゼットとなり、紅葉して越冬しているものが多い。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.10 用水路脇にドジョウツナギと群生するムラサキサギゴケ。(西宮市・用水路脇 2007.5/17)
花期後半の個体で、花茎が長く伸びているので画像からはトキワハゼと見紛いやすいが、ドジョウツナギの小穂と比較することにより区別できる。
すでに匍匐枝を四方に伸ばし、現地ではムラサキサギゴケとすぐに判る状態であった。

Fig.11 棚田の畦に生育するムラサキサギゴケ。(西宮市・水田の畦 2011.4/18)
西宮市内ではムラサキサギゴケは北部の自然度の高い里山の向陽地の湿った場所に生育し、特に畦に多い。
ここではチガヤ主体の畦に点々と群生が見られた。市内のこのような場所では初夏になるとノテンツキが出現することが多い。
画像中の黄色い花は水田中で開花しているコオニタビラコ。

他地域での生育環境と生態
Fig.12 春の耕起前の水田の畦で開花したムラサキサギゴケ。(兵庫県三田市・用水路脇 2007.3/29)
画像にはヤハズエンドウ、オオジシバリ、チドメグサ、ヘビイチゴといった水田や耕作地によく見られる草本が写っている。

Fig.13 休耕田で群生するムラサキサギゴケ。(兵庫県篠山市・休耕田 2009.4/27)
自然度の高い休耕田だが、シカの食害の見られる場所で、地表をはって生育するムラサキサギゴケは食害の難を逃れ群生している。
ここでは同様に地表をはって生育するヘビイチゴの群落もよく発達している。

Fig.14 畦に群生するムラサキサギゴケ。(兵庫県丹波市・麦畑の畦 2010.5/14)
畦が紫色に染まるほどの群落となっており、遠くからでもよく目立っていた。
西宮市内ではこのような大きな集団は見られない。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山崎敬, 1981. ゴマノハグサ科サギゴケ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.104. pl.88. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 ゴマノハグサ科サギゴケ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.152. pl.46. 保育社
牧野富太郎, 1961 サギゴケ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 558. 北隆館
城川四郎. 2001. ゴマノハグサ科サギゴケ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1262〜1263. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. サギゴケ. 『六甲山地の植物誌』 191. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ムラサキサギゴケ. 『近畿地方植物誌』 40. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子 2006. サギゴケ. 兵庫県産維管束植物7 ゴマノハグサ科. 人と自然16:107. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:21st.June.2015

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