ナガサキホウオウゴケ Fissidens geminiflorus  Dozy et Molk. ホウオウゴケ科 ホウオウゴケ属
湿生・岩上の蘚類
Fig.1 (西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)

Fig.2 (西宮市・渓流中 2015.3/12)

渓流沿いの水のかかるような湿った岩上に見られる蘚類で、ホウオウゴケ属では中型。雌雄異株。
茎は多数の葉をややまばらにつけ、高さ2〜8cm。乾くと多少縮れる。
葉は鮮緑色〜濃緑色で披針形、鋭頭または微凸頭、長さ2.0〜3.0mm。
葉縁には規則的に微歯があり、背翼の基部は長く茎の上に下延する。
中肋は強く、葉頂に達する。葉身は常に1細胞の厚さで、葉身細胞は円状六角形、長さ4〜8μ、薄膜、表面は盛り上がり、暗い。
剳ソは側生し、長さ6〜9mm、黄褐色〜赤褐色。凾ヘ直立〜やや斜上、相称。蓋には長いくちばしがある。剋浮ヘ赤い。n=12。

ホウオウゴケ(P. nobilis)は大型で、流水中には生育せず、葉はやわらかく、長さ3〜6mm、葉縁上部には明瞭な重鋸歯がある。葉縁の細胞は2〜3。
ホソホウオウゴケ(P. grandifrons)は大型で茎は長さ10cmに達し、葉が硬く、葉縁上部には明瞭な鋸歯がなく微歯がある程度。
トサカホウオウゴケ(P. dubius)は葉の長さ2.5〜3.5mm、葉身の細胞はふうつ1層ときに2層、葉身上部はトサカ状の重鋸歯となる。
ミヤマホウオウゴケ(P. perdecurrens)は葉の長さ1〜2mm、葉身は2細胞層、葉縁上部は重鋸歯とならない。
近似種 :  トサカホウオウゴケホウオウゴケホソホウオウゴケ、 ミヤマホウオウゴケ

■分布:日本全土 ・ 台湾、フィリピン、インドネシア、中国、ロシア、オセアニア
■生育環境:渓流沿いの水のかかるような湿った岩上など。
■発生期:ほぼ1年中
■西宮市内での分布:濡れた渓流畔の岩上などに、やや普通に見られる。

Fig.3 全草標本。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
  茎は多数の葉をややまばらにつけ、高さ2〜8cm。

Fig.4 苔体の拡大。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
  茎の下方につく葉はやや小さく、上部に向かうにつれ次第に大きくなる。

Fig.5 葉の腹面からの拡大。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
  葉は左右2列に規則正しく並び、葉の基部の腹側は2枚となり、基部は茎を抱く。
  葉は披針形で、長さ長さ2.0〜3.0mm、鋭頭または微凸頭。

Fig.6 葉先の拡大。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
  中肋は明瞭で葉頂にまで達し、先は鋭頭または微凸頭。

Fig.7 葉縁細胞と葉身細胞。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
  葉縁には規則的な微歯がある。
  葉身は常に1細胞の厚さで、葉身細胞は円状六角形、長さ4〜8μ、薄膜、表面は盛り上がり、暗い。

Fig.8 凾上げた苔体。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
  剳ソは側生し、黄褐色〜赤褐色。凾ヘ直立〜やや斜上、相称。蓋には長いくちばしがある。

Fig.9 剳ソは長さ6〜9mm。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)

Fig.10 剋普B(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
  剋浮ヘ1列で、赤く、2深裂し、16本並ぶ。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 濡れた砂防ダムの壁面に生育するナガサキホウオウゴケ。(西宮市・砂防ダム壁面 2014.4/3)
古い石造りの濡れた砂防ダム壁面の継ぎ目から表面にかけて、ナガサキホウオウゴケが群生していた。
ナガサキホウオウゴケは渓流の岩上や、渓流から水を引いてきた用水路のコンクリート護岸などにも生育しているのを見る。
ここでは砂防の歴史を感じるような古い花崗岩の砂防ダムに清冽な流れが流下し、直下の渓流中にはタニガワカワモズクが生育している。

Fig.12 導水路の壁面に生育するナガサキホウオウゴケ。(西宮市・導水路 2013.1/29)
山際に農業用水を導水する水路の水中壁面にナガサキホウオウゴケが点々と生育していた。
水路壁面からは湧水も供給されているようで、他にホソバミズゼニゴケ、ヒロハツボミゴケ、フジウロコゴケなどが見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
水谷正美, 1972. ホウオウゴケ科ホウオウゴケ属. 岩槻善之介・水谷正美 『原色日本鮮苔類図鑑』 p.49〜58. pl.4. Fig.36,37. 保育社

最終更新日:18th.Mar.2015

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