トサカホウオウゴケ Fissidens cristatus  Wils. ex Mitt. ホウオウゴケ科 ホウオウゴケ属
湿生・岩上の蘚類
Fig.1 (兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)

山地の湿った岩上や地上、ときに樹幹で見られる蘚類で、ホウオウゴケ属では中型。雌雄異株。
茎は単一またはまばらに分枝し、多くの葉を密につけ、高さ3〜5cm。乾くと葉先が少し縮れる。
葉は広い披針形で、長さ2.5〜3.5mm、鋭頭。葉身上部の縁には重鋸歯があって鶏のトサカを思わせる。
葉縁は1細胞層の厚さ、全周にわたって3〜4列の圧膜、平滑な細胞があって葉身部よりも明るい、明瞭な淡黄色の帯となる。
葉身細胞はふつう1細胞層、ときに2細胞層の部分があり、不規則な6角形、長さ8〜10μ、中央がふくらみ、暗い。
中肋は明瞭で葉頂に達する。剳ソは葉腋に生じ、淡赤色、長さ10〜13mm。凾ヘ傾き、非対称。雌苞葉は小さい。n=16。

ナガサキホウオウゴケ(P. geminiflorus)は葉の長さ2〜3mm、葉身は1細胞の厚さ、葉縁上部は微歯が並ぶ程度。
ミヤマホウオウゴケ(P. perdecurrens)は葉の長さ1〜2mm、葉身は2細胞層、葉縁上部は重鋸歯とならない。
ホソホウオウゴケ(P. grandifrons)は大型で茎は長さ10cmに達し、葉が硬く、葉縁上部には明瞭な鋸歯がなく微歯がある程度。
ホウオウゴケ(P. nobilis)は大型で、流水中には生育せず、葉はやわらかく、長さ3〜6mm、葉縁上部には明瞭な重鋸歯がある。葉縁の細胞は2〜3。
近似種 : ナガサキホウオウゴケホウオウゴケホソホウオウゴケ、 ミヤマホウオウゴケ

■分布:日本全土 ・ アジア、ヨーロッパ、北アメリカ、アフリカ
■生育環境:山地の湿った岩上や地上、ときに樹幹など。
■発生期:ほぼ1年中
■西宮市内での分布:北部の渓流畔の岩上に見られる。

Fig.2 全草標本。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  茎は単一またはまばらに分枝し、多くの葉を密につけ、高さ3〜5cm。

Fig.3 苔体の拡大。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  茎の下方につく葉はやや小さく、上部に向かうにつれ次第に大きくなる。

Fig.4 葉の腹面からの拡大。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  葉は左右2列に規則正しく並び、葉の基部の腹側は2枚となり、基部は茎を抱く。
  葉は広い披針形で、長さ2.5〜3.5mm、鋭頭。

Fig.5 葉先の拡大。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  中肋は明瞭で葉頂にまで達する。葉身上部の縁には重鋸歯があって鶏のトサカを思わせる。
  このような明瞭な重鋸歯は近縁種には見られず、同定のキーとなる。

Fig.6 葉縁細胞と葉身細胞。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  葉縁は1細胞層の厚さ、全周にわたって3〜4列の厚膜、平滑な細胞があって葉身部よりも明るい、明瞭な淡黄色の帯となる。
  葉身細胞はふつう1細胞層、ときに2細胞層の部分があり、不規則な6角形、長さ8〜10μ、中央がふくらみ、暗い。

Fig.7 凾上げた苔体。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  剳ソは葉腋に生じ、淡赤色、長さ10〜13mm。凾ヘ傾き、非対称。

Fig.8 凾フ拡大。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)

Fig.9 雌苞葉と剳ソ。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  雌苞葉は小さく葉状で、先には鋸歯がある。剳ソは平滑。

Fig.10 剋普B(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
  剋浮ヘ1列で、16本並ぶ。表面の緑色の粒は胞子で、直径13〜20μ。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.11 濡れた岩上に群生していたトサカホウオウゴケ。(兵庫県篠山市・濡れた岩上 2014.2/26)
林道の切り通しの露岩上の湧水に濡れた場所にパッチ状に群生していた。
同様な濡れた場所にコバノチョウチンゴケ、ゼニゴケsp.が、やや乾いた場所ではクサゴケやフトリュウビゴケが見られた。
シカの食害の激しい場所で、岩上の被植はごく少なく、高い位置にぽつぽつとオクマワラビ、イノデ、オオバノイノモトソウが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
水谷正美, 1972. ホウオウゴケ科ホウオウゴケ属. 岩槻善之介・水谷正美 『原色日本鮮苔類図鑑』 p.49〜58. pl.4. Fig.36,37. 保育社

最終更新日:1st.Mar.2014

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