ツクシクロイヌノヒゲ(その2) Eriocaulon nakasimanum  Satake ,ホシクサ科 ホシクサ属 合生萼節
湿生植物  環境省絶滅危惧U類
Fig.1 (西宮市・池畔 2007.10/18)

近隣にはツクシクロイヌノヒゲの自生地があり、最初はツクシクロイヌノヒゲであろうと考えましたが、頭花の形状が異なるため
暫定的にヤマトホシクサとした。
また、自生地では他のホシクサ科植物は無く、複数種が生育する場所で見られる種間雑種と推定されるものとは考えにくく、
さらに多数の個体を観察する必要がある。

ここに掲載したものは、暫定的にヤマトホシクサとしましたが、文献の記述と相違する点もあり、他種、あるいは交雑種の
可能性も大いにあります。
画像の草体に関して、ご意見やご教唆などがあれば、是非お聞かせください。宜しくお願いします。


その後、兵庫県内のホシクサ科植物に詳しいYさんに標本を見て頂ける機会があり、ツクシクロイヌノヒゲと同定して頂きました。
同定して頂いたYさんをはじめとして、仲介の労をお取り頂いたMさん、KT先生、KN先生に感謝の意を表します。
また、本ページは変異に富んだホシクサ科植物のひとつの例として一部訂正して残すことにしました。

近似種 : ツクシクロイヌノヒゲヒロハイヌノヒゲクロホシクサ

■分布:本州(関西以西)、四国、九州
■生育環境:貧栄養な溜池。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では中〜北部の4ヶ所の溜池で自生を確認している。いずれも古い時期に造られた溜池であると思われる。

Fig.2 全草の様子。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  画像の草体では、高さ15cm、葉は束生し線形で長さ約8cm。
  花茎の鞘の長さは2〜5cm。

Fig.3 葉は中部で幅2〜3mm前後。7脈あり、格子状。(西宮市・池畔 2007.10/18)

Fig.4 花茎の断面。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  花茎は4肋あり、花茎の捩れはごくわずか。

Fig.5 頭花。果実期に近く、膨らんだ刮ハが苞と萼の間からのぞいている。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  花期の新鮮なものと違い、黒藍色はやや色あせ、苞や萼の先端部に多少色味が残っている。
  頭花は上部で半球形、下部では倒円錐形で径5mm。総苞片は頭花よりも少し長い。
  雄花は中心部に7個、雌花はその周囲を囲むように14個あった。

Fig.6 まだ黒味の強い花期終わり頃の頭花。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  頭花よりも長い大きな5個の総苞片と、先端が凹形の雄萼片が目立つ。

Fig.7 花床と総苞片。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  花床に毛はない。

Fig.8 総苞片は卵状楕円形〜披針形で先端は鋭頭。無毛。(西宮市・池畔 2007.10/18)

Fig.9 雌花の構造。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  花苞は倒長卵形で鋭頭、先端部付近がやや黒味をおびる。
  萼は仏炎苞状に合着し、先端部は浅く3裂し、中部より上は黒藍色を帯びる。
  花弁は離生して3個つく。刮ハは3室ある。

Fig.10 雌花の花弁は披針状へら形。先端はやや鋭頭。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  内側は無毛で上部には黒腺がある。

Fig.11 雄花。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  萼は倒長卵形で仏炎苞状に合着し、上部で3裂するが、中央の裂片は痕跡的で小さく、左右の裂片は大きい。
  このため、一見すると凹形に見える。
  雄花弁は萼と同長かやや短く、花弁は円筒状に合着し、上部で3裂。裂片は3角形。先端部は黒褐色を帯び、無毛。
  雄蕊は6個で、葯は黒色円形。  

Fig.12 種子は長さ約0.8mm。(西宮市・池畔 2007.10/18)
  長楕円形で表面には網目模様がある。鉤状の毛は見られず、ほとんど無毛。  

西宮市内での生育環境と生態
Fig.13 干上がった池畔で群生するツクシクロイヌノヒゲ。(西宮市・池畔 2007.10/18)
足の踏み場もない程の個体数で、同所的にサワトウガラシ、ヒナザサ、ハリイが見られ、所々で混生している。
干上がった池の中心部はイノシシのヌタ場となっており、その周辺には陸生形のフトヒルムシロが見られる。
なお、この溜池畔には他のホシクサ科植物は見られない。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や学会誌。)
佐竹義輔, ホシクサ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 75〜84 平凡社
村田源. 2004 ホシクサ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.175〜185. pl.48. 保育社
大滝末男. クロイヌノヒゲ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 122〜123 北隆館
村田源. 2004. ホシクサ科. 『近畿地方植物誌』 150. 大阪自然史センター
高田順. 1996. ホシクサ属数種の種子形態(1). 水草研究会会報 58:18〜24
高田順. 1998. ホシクサ属数種の種子形態(2). 水草研究会会報 63:29〜34
高田順. 2000. ホシクサ属数種の種子形態(3). 水草研究会会報 69:22〜34
高田順. 2001. ホシクサ属数種の種子形態(4). 水草研究会会報 72:17〜23
宮本太・大場秀章. 2005 屋久島産クロイヌノヒゲとその近縁種の花形態および生態的特性. 植物研究雑誌 80(2):96〜105
高田順. 2007 オオホシクサの変異と推定雑種. 水草研究会会報 88:17〜24
矢内正弘. 2008. 県内のホシクサ科植物について. 兵庫植物誌研究会会報 75:1〜3

最終更新日:24th.Mar.2009

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