ツクシクロイヌノヒゲ
(サイコククロイヌノヒゲ)
Eriocaulon nakasimanum  Satake ホシクサ科 ホシクサ属 合生萼節
湿生〜抽水植物  環境省絶滅危惧U類
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2010.9/13)

Fig.2 (兵庫県加東市・溜池畔 2010.9/29)

主に貧栄養な溜池畔に生える無茎の1年草。沈水〜抽水状態で見かけることも多い。
比較的大きく古い時期に造られた溜池畔の、陸地から池底まで緩やかな傾斜がある遠浅な場所に好んで生育する。

葉は束生し線形で、長さ9〜18cm、基部の幅3〜6mm、中部の幅2〜3mm。7〜9脈あり無毛。
花茎は葉よりやや長く、ややよじれ、5〜6肋。鞘は円筒形で長さ4〜6cm、口部は斜切形。
頭花は倒円錐形で径4〜5mmで、藍黒色〜黒色。総苞片は頭花よりも少し短いか同長で、長楕円形で鈍頭。花床には毛がない。
萼は雄花、雌花ともに仏炎苞状に合着し、全体にほとんど毛がない。

当地の草体は「日本の野生植物 T 平凡社」の記述とは細部でやや異なる部分もあるが、それらの差は地域変異として捉え、
生態的な特徴も考慮したうえで、ツクシクロイヌノヒゲとした。

ツクシクロイヌノヒゲは他の合生萼節のものと時として種間雑種をつくる。推定雑種と思われるものを2例、他の種のページに収録してある。  1  2
近似種 : ツクシクロイヌノヒゲ(その2)ヒロハイヌノヒゲクロホシクサ

■分布:本州(関西以西)、四国、九州
■生育環境:貧栄養な溜池。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では中〜北部の4ヶ所の溜池で自生を確認している。いずれも古い時期に造られた溜池であると思われる。


Fig.3 陸生のツクシクロイヌノヒヒゲ。(西宮市・溜池畔 2007.10/25)
  溜池畔の陸地や湿地に生育するものは花茎は根生葉よりもやや長くなり、果実期には花茎を放射状に広げる。


Fig.4 沈水状態のツクシクロイヌノヒゲ。(芦屋市・溜池畔 2007.10/25)
  沈水状態のものは、水位にあわせて花茎が長く伸び、この個体は24cmほどあった。
  このような個体は、年間を通して沈水状態で生育し、開花期には花茎だけを水面上にあげて開花、結実する。
  クロイヌノヒゲでは、このように水位にあわせて花茎が伸張することはないという。

Fig.5 開花中のツクシクロイヌノヒゲの頭花。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  雄花の雄蕊が6本、放射状に開いている。頭花は4〜5mm。

Fig.6 横から見た頭花。(兵庫県加西市・溜池畔 2010.9/28)
  総苞片は厚膜質、頭花より短いか同長で、先端は鈍頭。画像の頭花は小花から柱頭が出ている。

Fig.7 雌花(左)と雄花(右)。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  雌花、雄花ともに長さ1.7〜2mm。雌花は刮ハが見やすいように、背軸面側の花弁を1枚取り除いています。

Fig.8 雄花(左)と、付属する花苞(右)。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  雄花の萼は黒藍色、無毛で、仏炎苞状に合着し、上縁が浅く3裂する。
  花苞は倒卵状長楕円形で上部に目立たない細い毛がある。

Fig.9 雌花の萼を裂いて、雄花弁を現わしたところ。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  花弁は下部〜中部が筒状に合着し、上部で3裂し、内側上部には黒腺がある(画像では先端に黒腺が透けて見える)。無毛。

Fig.10 雌花。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  萼は黒藍色で、仏炎苞状に合着。花弁は萼よりもやや短く、3個離生する。
  刮ハは3室で、花柱は刮ハと同長であるか、長い。

Fig.11 雌花の萼内側(左)と花弁の内側(右)。(西宮市・溜池畔 2007.9/20)
  萼は上部で浅く3裂する。
  「日本の野生植物 T 平凡社刊」では萼の内側には毛があるとなっているが、当地ではいずれの個体も無毛。先端は浅く3裂する。
  雌花弁は披針状ヘラ形で無毛。上部には黒腺がある。


Fig.12 ツクシクロイヌノヒゲの種子。(西宮市・溜池畔 2007.10/25)
  楕円形で長さ0.7〜0.8mm。ここでも「日本の野生植物 T 平凡社」の記述と食違うが、クロイヌノヒゲにも該当しない。
  種子表面にはやや横長の6角形の網目模様があり、縦の網目隆起線上に微小な鉤毛をややまばらに散布する。

Fig.13 葉身(沈水状態のもの)の下部。上は表面、下は裏面の様子。(西宮市・溜池畔 2007.10/25)
  葉の長さ9〜18cm。基部の幅3〜6mm。中部では2〜3mm。7〜9脈の格子状。

Fig.14 花茎は葉より長い。花茎の鞘は4〜6cm、円筒形で、口部は斜切形で終わる(上)。(西宮市・溜池畔 2007.10/25)
  花茎はややよじれて、5〜6肋ある(下)。

Fig.15 溜池で沈水状態で生育する成長期の個体。(西宮市・溜池畔 2008.7/7)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.16 晩秋、浅瀬で結実期を迎えたツクシクロイヌノヒゲ。(西宮市・溜池畔 2006.11/5)
ここでは、池畔の陸地寄りにシロイヌノヒゲ、イヌノヒゲも見られる。
溜池の流れ込みの部分にはヌマガヤ群落が発達していて、ツクシクロイヌノヒゲが自生する溜池には必ずヌマガヤやイヌノハナヒゲが見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.17 遠浅の溜池の沿岸部に抽水状態で群落をつくるツクシクロイヌノヒゲ。(兵庫県芦屋市・溜池畔 2006.9/22)
この溜池ではコツブヒメホタルイとともにパッチ状に群落を形成していた。

Fig.18 干上がった溜池の底に生育するツクシクロイヌノヒゲ。(兵庫県加東市・溜池 2006.9/22)
自生する溜池は晩夏から秋期にかけて水抜きされ、池底の大部分が露出する場所である。
この溜池ではイヌノヒゲ、シロイヌノヒゲ、ツクシクロイヌノヒゲ、イトイヌノヒゲのホシクサ科4種が生育し、それぞれ生育箇所が微妙に異なる。
生育箇所が最も限られるのはイトイヌノヒゲで、満水時にほとんど水につからず、かつ湧水が滲出する場所に生育している。
シロイヌノヒゲはもっとも広い面積を占め、湧水のある陸地から満水時に水没する斜面、とくに礫の多い場所に見られる。
イヌノヒゲは水際付近でシロイヌノヒゲと混生し、土壌が軟泥質の場所を好む傾向が見られる。
ツクシクロイヌノヒゲは満水時には水没してしまうような斜面から池の底面に生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1982. ホシクサ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       75〜84. 平凡社
村田源, 2004 ホシクサ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.175〜185. pl.48. 保育社
大滝末男, 1980. クロイヌノヒゲ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 122〜123. 北隆館
村田源. 1998. ツクシクロイヌノヒゲ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 493. 山と渓谷社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ツクシクロイヌノヒゲ. 『六甲山地の植物誌』 223. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ツクシクロイヌノヒゲ. 『近畿地方植物誌』 150. 大阪自然史センター
下田路子. 1983. ため池の水辺に生育する小型の「両性植物」について. 水草研究会会報 11:1〜3.
高田順. 1996. ホシクサ属数種の種子形態(1). 水草研究会会報 58:18〜24.
高田順. 1998. ホシクサ属数種の種子形態(2). 水草研究会会報 63:29〜34.
高田順. 2000. ホシクサ属数種の種子形態(3). 水草研究会会報 69:22〜34.
高田順. 2001. ホシクサ属数種の種子形態(4). 水草研究会会報 72:17〜23.
宮本太・大場秀章. 2005. 屋久島産クロイヌノヒゲとその近縁種の花形態および生態的特性. 植物研究雑誌 80(2):96〜105.
高田順. 2007. オオホシクサの変異と推定雑種. 水草研究会会報 88:17〜24.
矢内正弘. 2008. 県内のホシクサ科植物について. 兵庫植物誌研究会会報 75:1〜3
橋本光政・宮本太・高橋晃 2007. ツクシクロイヌノヒゲ. 兵庫県産維管束植物9 ホシクサ科. 人と自然18:116. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:6th.Dec.2011

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