ニッポンイヌノヒゲ Eriocaulon hondoense  Satake ホシクサ科 ホシクサ属 合生萼節
湿生植物
Fig.1 (西宮市・溜池畔 2006.9/21)

溜池畔や貧栄養な湿地に生える無茎の1年草。抽水状態でも長期間耐えうる。
葉は多数束生し、披針状線形でやや厚味があり、草体の基部を指先で掴むとやや球状に膨らんだ感触がある。
葉の長さ10〜20cm、中部の幅は3〜5mm、11〜13脈あり格子状。先端はやや鈍頭。
花茎の高さは22cm以内で、5肋あり、ややねじれる。鞘は長さ5〜8cm、口部で2裂し裂片は鋭頭。
頭花は半球形〜倒円錐形で径6〜8mm。良く似たイヌノヒゲよりもかなり大きい(イヌノヒゲでは花径は3〜4mm)。
総苞片は披針形で鋭頭、頭花よりもかなり長く、裏面(外側)にはやや不明瞭な脈が3〜5脈あり、短い伏せ毛が生える。
花床には毛がなく、雌花の仏炎苞状の萼の内側と花弁内側に白色の長毛があるほかは、
外部から見える花苞や萼の外側にもほとんど毛がない
雄蕊、雌蕊ともに萼は仏炎苞状に合着し、合生萼節に分類される。
近似種 : シロイヌノヒゲヒロハイヌノヒゲイヌノヒゲイトイヌノヒゲ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:溜池畔や貧栄養な湿地など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:北部の3ヶ所の溜池畔で確認。市内では稀な種だが、自生地では群生する傾向が強い。

Fig.2 ニッポンイヌノヒゲの頭花。(西宮市・溜池畔 2006.9/21)
  総苞片は頭花より長く、イヌノヒゲと較べると幅が広く、やや開出気味に開き、先端は鋭頭。3〜5脈あり、裏面には短い伏せ毛が生える。
  外見からは、萼や花苞にはシロイヌノヒゲのような白色棍棒状毛は見られない。

Fig.3 雄花の拡大。雄花は長さ約2mm。左:花苞と雄花。右:雄花の萼の上部。(西宮市・溜池畔 2007.10/21)
  花苞は雄花と同長、倒卵状長楕円形で先端はとがる。上縁はほとんど無毛。
  雄花の萼は仏炎苞状に合着し、先端は浅く3裂する。合着部の隙間からは黒色円形の葯と3裂する花弁がのぞく。

Fig.4 雌花を展開して構造を観察する。(西宮市・溜池畔 2007.10/21)
  雌花は長さ約2.5mm。萼は仏炎苞状に合着し、先端は浅く3裂、先端にはほとんど毛がない。
  花弁は3個離生し、披針状ヘラ形。内側に白色長毛と黒腺が見える。
  刮ハは3室あり、表皮は薄く、たやすく破れる。花柱は刮ハとほぼ同長。

Fig.5 雌花の萼内側(左)と花弁内側(右)。(西宮市・溜池畔 2007.10/21)
  萼の内側、花弁の内側に白色長毛がある。
  花弁内側上部には黒腺がある。先端はシロイヌノヒゲのようには2裂せずにやや凹頭。

Fig.6 果実期の全草。(西宮市・溜池畔 2007.10/21)
  無茎で葉は根元から束生する。
  花茎は長いもので約22cm。   頭花の総苞片は頭花よりも長い。
  果実期に入り、根生葉は枯れつつあるが、新しい花茎を次々に上げ続け開花する。

Fig.7 花茎の横断面。(西宮市・溜池畔 2007.10/21)
  花茎には5肋あり、ややねじれる。

Fig.8 葉身は中部で3〜5mm。11〜13脈あり格子状。(西宮市・溜池畔 2007.10/21)
  画像のものは葉幅5mmで、12脈ある。

Fig.9 ニッポンイヌノヒゲの成熟した痩果。(西宮市・溜池畔 2006.12/24)
  種子は楕円形で長さ約0.7mm、透明感のある淡褐色。

Fig.10 痩果の拡大。(兵庫県加東市・溜池畔 2014.10/31)
  表面には横長の6角状の細かい格子模様が見られ、微小な鉤毛がある。

Fig.11 成長期のニッポンイヌノヒゲ。(西宮市・溜池畔 2007.8/19)
  草体は約12cm。この時期のものは他のイヌノヒゲ類と区別するのは難しい。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.12 小さな溜池畔の裸地部分に生育するニッポンイヌノヒゲ。(西宮市・溜池畔 2006.9/21)
イヌノハナヒゲやヌマガヤなどが水際まで群落をつくるような場所では生育できず、水位があがると水没するような裸地に多い。

Fig.13 溜池畔で足の踏み場もないほどに群生するイッポンイヌノヒゲ。(西宮市・溜池畔 2006.9/21)
他には少数のアオコウガイゼキショウとイグサ、ハリイ、ヒナザサ、数株のアブラガヤのみで、ニッポンイヌノヒゲの純群落に近い。

参考画像----------ニッポンイヌノヒゲの種間雑種----------
Fig.14 ニッポンニヌノヒゲとツクシクロイヌノヒゲの種間雑種と推定される個体。   (兵庫県加東市・溜池畔 2008.10/5)
両種が混生する溜池畔で稀に見られる。雨に濡れて頭花の様子が判りにくい。
溜池の一画に数十株がかたまって見られた。

Fig.15 後日撮影した同一個体の頭花の様子。   (兵庫県加東市・溜池畔 2008.10/12)
花苞が灰白色を帯びるほかは、黒藍色である。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
佐竹義輔, 1982 ホシクサ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       75〜84 平凡社
村田源, 2004 ホシクサ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.175〜185. pl.48. 保育社
大滝末男, 1980 ヒロハイヌノヒゲ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 126〜127 北隆館
福留正明. 2001. ホシクサ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 253〜256. 神奈川県立生命
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ニッポンイヌノヒゲ. 『六甲山地の植物誌』 214. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ニッポンイヌノヒゲ. 『近畿地方植物誌』 150. 大阪自然史センター
高田順, 1996 ホシクサ属数種の種子形態(1). 水草研究会会報 58:18〜24
高田順, 1998 ホシクサ属数種の種子形態(2). 水草研究会会報 63:29〜34
高田順, 2000 ホシクサ属数種の種子形態(3). 水草研究会会報 69:22〜34
高田順, 2001 ホシクサ属数種の種子形態(4). 水草研究会会報 72:17〜23
高田順, 2007 オオホシクサの変異と推定雑種. 水草研究会会報 88:17〜24
矢内正弘, 2008 県内のホシクサ科植物について. 兵庫植物誌研究会会報 75:1〜3

最終更新日:3rd.Nov.2014

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