オニビシ Trapa natans  L. var. japonica  Nakai ヒシ科 ヒシ属
水生植物 > 浮葉植物
Fig.1 (兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)

湖沼や溜池などに生育する1年生の浮葉植物。
葉の形やサイズは生育環境によって大きく変異し、ヒシの変異幅とほぼ重なるため、果実の確認なしに正確な同定は不可能。
水底の果実の中央から1個の線形をした子葉を伸ばして発芽し、狭長楕円形の水中葉を経たのち、浮葉を出す。
水中茎は節から葉緑素をもち同化作用を行う長さ5〜20cmの羽状の水中根を2〜4個づつ出す。
葉は茎の頂部から放射状に出し、はじめの数個は細長いが、後にひし形の葉を出す。水中茎の上方では節から分枝して順次浮葉を広げる。
花期には葉数は20〜30個に増え、ふつう葉の広がりは径30〜40cmとなる。葉は中心部が若く、周囲は古く、古いものほど葉柄は長く、葉身は広くなる。
成長葉の葉柄は淡緑色または赤紫色を帯び、長さ20〜25cm、表面に茶褐色で多細胞の微毛があり、葉柄中央部は紡錘状長楕円形または球形に膨らみ、
内部に海綿質の浮嚢ができる。
葉身は光沢があり、卵状ひし形または扁菱形、長さ3〜6cm、幅4〜8cm、先端の両縁に15〜20個づつの三角状の粗い鋸歯がある。
花は1日花で、1個づつ茎頂部の葉腋について開花し、花柄があり、径約1cmで白色。萼片4個、披針形で長さ5mm、幅約2.5mmで宿存する。
花弁は4個、白色膜質で、倒長卵形、長さ約15mm、幅約5mm。雄蕊は4個で、葯は黄色。雌蕊1個で、子房下位で2室ある。
花後、花柄は垂れ下がって水没して結実し、結実後果実は水に流され沈下する。
果実は初め外皮に包まれ黄緑色だが、後に外皮は腐って、内皮は硬化して骨質で灰黒色の腐らない堅果となる。
宿存した4個の萼片のうち、外萼片は果実の両側にある2個の太い刺針となり、内萼片は背腹にある2個の太い刺針となる。
果実は大型で、全幅45〜75mmとなり、子房突起が突出せず、果実の肩とほぼ同じ高さになる。

ヒシ属の種はどれもみな変異が多く、草体や花での区別は不可能であり、果実で判断するが、それでも同定保留となるものも出てくる。
コオニビシ(var. pumila)は、果実に4刺あるが、全幅は3〜5cmと中型、果実中央の子房突起が突出する。
現在のところオニビシの変種とされているが、最近の研究ではヒメビシとオニビシの種間雑種が起源となった可能性が示唆されている。
ヒシ(T. japonica)はヒシ属中もっとも普通に見られ、果実には2刺があり、区別は容易である。
ヒメビシ(T. incisa)はやや稀。果実は細く長い4刺があり、全幅20mmと小型。果体は縦長で、刺は果体より長いことが多い。
近似種 : コオニビシヒシヒメビシ

■分布:本州、四国、九州(?) ・ 東アジア(分類群の取り扱い方によって分布域は変化する。)
■生育環境:湖沼、溜池など。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。

Fig.2 開花したオニビシ。(兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)
  花は白色で1日花。花弁は4個。雄蕊4個。

Fig.3 水中根を出した水中茎の頂部から浮葉を広げる。(兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)
  黄色の矢印で示したのが水中茎。

Fig.4 水中茎の節からは水中根を出す。(滋賀県・湖岸の港 2011.9/27)
  水中画像。ヒシの仲間は水底に固着さるための根のほか、水中茎に羽状の水中根を出す。
  水中根は葉の変形したものといわれ、光合成を行う。

Fig.5 浮葉を放射状に広げるオニビシ。(兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)
  浮葉の柄は長く、柄には気質の発達した浮嚢がある。
  ヒシの葉はよく食害に遭っているのを眼にするが、これはジュンサイハムシまたはヒシハムシによるもの。
  ここではジュンサイハムシの食害が見られ、画像右下の葉上に黒色の幼虫がいるのがかろうじて判る。

Fig.6 水中で成熟する果実。(滋賀県・湖岸の港 2011.9/27)
  宿存した萼片が次第に刺へと変化してゆく。

Fig.7 溜池畔に吹き寄せられた形骸化した果実。(兵庫県明石市・溜池 2007.4/5)
  果実は大きく4刺ある。池畔に吹き寄せられたものは発芽できずに、内部の子葉が萎縮したものか、発芽を終えて浮上したもの。

Fig.8 ヒシ属3種の果実。(兵庫県明石市・溜池 2007.4/5 ほか)
  左からオニビシ、ヒシ、ヒメビシ。ヒシを除いた全種に4個の刺針がある(4刺性)。
  (ヒメビシの果実はMさんにご提供頂きました。お礼申し上げます。)

Fig.9 オニビシの果実。(兵庫県稲美町・溜池 2009.1/29)
  果実は非常に大きく、ふつう5cmを越える。

Fig.10 刺針の先につく逆刺。(兵庫県稲美町・溜池 2009.1/29)
  4本ある刺針の先端部から5〜10mmにかけて、逆刺が両側に並ぶ。
  これは水鳥の羽毛や羽根が絡みつくと容易には離れず、水鳥はオニビシの果実を長距離にわたって運ぶことになる。

生育環境と生態
Fig.11 オニバスとともに見られたオニビシ群落。(兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)
富栄養気味の溜池で水面を覆うことが多い。

Fig.12 琵琶湖の港湾内に生育するオニビシ。(滋賀県・湖沼の港 2011.9/27)
琵琶湖では沿岸部や港湾内、内湖などにオニビシがよく見られ、増加傾向にあるようである。
ここでは港湾内にトチカガミ、マツモ、オオカナダモなどとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994 ヒシ科ヒシ属. 『日本水草図鑑』 128〜131. 文一統合出版
大滝末男, 1980 オニビシ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 60,61. 北隆館
北川政夫, 1982. ヒシ科ヒシ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.262. pl.239. 平凡社
村田源, 2004 ヒシ科ヒシ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.44〜45. pl.12. 保育社
牧野富太郎, 1961 オニビシ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 422. 北隆館
村田源. 2004. オニビシ. 『近畿地方植物誌』 64. 大阪自然史センター
中井三従美. 1988. 愛知県知多半島とその周辺のヒシ属の果実形態について. 水草研究会会報 31:1〜6.
荻沼一男・高野温子・角野康郎. 1996. 日本産ヒシ科数種の核形態. 植物分類・地理 47:47〜52.
角野康郎 2003. オニビシ. 兵庫県産維管束植物5 ヒシ科. 人と自然14:145. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:23rd.Nov.2011

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