コオニビシ Trapa japonica  Flerov.
  var. pumila  (Nakano) Kadono
ヒシ科 ヒシ属
水生植物 > 浮葉植物
Fig.1 (神戸市・溜池 2016.8/22)

ヒシの変種で、ヒシと同じくヒメビシとオニビシの雑種起源とされ、独立した集団を形成するものを指す。
湖沼、溜池、よどんだ水路など、中〜富栄養な水域に生育する1年生の浮葉植物。水深2m以下の水域に生育する。
葉や花などの形態はヒシと変わりないが、当地のものは開花期がヒシよりも若干早い。
果実は4個ある萼片が発達して刺針となり、その先端には細かい逆刺が並び、全幅は3〜5cm。

ヒシ(T. japonica)は、果実に2刺あり、全幅は3〜5cmとコオニビシと同等の大きさ。各地に広くふつうに見られる。
オニビシ(T. natans var. japonica)は、果実が大きく全幅45〜75mmで、4個の刺針を持ち、子房突起は果実の肩の高さにとどまる。時にヒシと混生する。
ヒメビシ(T. incisa)はやや稀。果実は細く長い4刺があり、全幅20mmと小型。果体は縦長で、刺は果体より長いことが多く、ヒシより開花が早い。
近似種 : ヒシオニビシヒメビシ
「ヒシの実の変異」のページ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 東アジア
■生育環境:湖沼、溜池など。
■花期:7〜8月
■西宮市内での分布:北部で隣接する神戸市北区道場町では見られるが、西宮市内では生育していない。

Fig.2 根と水中根。(神戸市・溜池 2016.8/22)
  水中茎からは植物体を固着するために地中に伸びる根と、茎の各節から葉緑体を持ち、同化作用を行う水中根とが出る。

Fig.3 浮葉。(神戸市・溜池 2016.8/22)
  浮葉はロゼット状に配列し、間には気室のある浮嚢があるが、著しく膨らむものからやせているものまで変異に富む。
  葉身は三角形で長さ2〜5cm、幅2〜8cm、不整な鋸歯がある。

Fig.4 水面下で形成された果実。(神戸市・溜池 2016.8/22)
  開花後、花柄は下向きに曲がり、長さ2〜4cmに伸びて水没し、果実を形成する。

Fig.5 果実。(神戸市・溜池 2016.8/22)
  ヒシが2本の刺針を持つのに対して、コオニビシは4本の刺針を持つ。

Fig.6 典型的な果実殻。(神戸市・溜池 2016.8/22)
  果実は4個ある萼片が発達して刺針となり、全幅は3〜5cm。

Fig.7 刺針の先には微細な逆刺が並ぶ。(神戸市・溜池 2016.8/22)
  この部分が水鳥の羽毛に引っ掛かって果実が他所へと運ばれる。

Fig.8 刺針の変異。(兵庫県加西市・溜池 2011.1/26)
  4本の刺針のうち、2本の発達が悪く、先に逆針がなく、コブ状に退化しているものも見られる。
  4本のうち2本がコブ状となるものは便宜上イボビシと呼ばれることがある。

他地域での生育環境と生態
Fig.9 富栄養な溜池に生育するコオニビシ。(神戸市・溜池 2016.8/22)
周囲を農耕地とまばらな住宅に囲まれた生活排水の流入もある溜池に生育しており、他にウキクサが生育している。
ヒシよりも生育期間は短く早くも開花は終わり、水面下に多数の果実を形成していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
角野康郎, 1994 ヒシ科ヒシ属. 『日本水草図鑑』 128〜131. 文一統合出版
角野康郎, 2014 ミソハギ科ヒシ属. 『日本の水草』 247〜250. 文一統合出版
大滝末男, 1980 ヒメヒシ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 63. 北隆館
中井三従美. 1988. 愛知県知多半島とその周辺のヒシ属の果実形態について. 水草研究会会報 31:1〜6.
荻沼一男・高野温子・角野康郎. 1996. 日本産ヒシ科数種の核形態. 植物分類・地理 47:47〜52.
角野康郎 2003. コオニビシ. 兵庫県産維管束植物5 ヒシ科. 人と自然14:145. 兵庫県立・人と自然の博物館


最終更新日:4th.Sep.2016

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