スズサイコ Cynanchum paniculatum  (Bunge) Kitag.
  里山・草地の植物 
 環境省準絶滅危惧種(NT)
ガガイモ科 カモメヅル属
Fig.1 (西宮市・棚田の草地 2010.6/24)
里山の日当たり良い草地に生育する多年草。
茎は細く、直立して高さ40〜100cm、地下には多数のやや太いひげ根がある。
葉は狭披針形〜線状長楕円形、ごく短い柄があり、やや厚く、無毛か、または表面の縁にわずかに短毛があり、長さ6〜13cm、幅4〜15mm。
花序は茎の先や上部の葉腋から出て、2〜3cmの総花柄があり、集散状にまばらに花をつけ、小花柄は細く長さ1〜1.5cm。
萼裂片は3角状披針形。花冠は黄褐色で裂片は開出し、無毛、長さ5〜8mm。副花冠は直立し、卵形、鈍頭で蕊柱より短い。
花は夜間に開き、日が当たると閉じる。袋果は細長い披針形で長さ5〜8cm。
種子は卵形でやや翼があり、長さ4〜5mm、先には長い白毛がある。

【メモ】 日本国内で絶滅危惧種に指定していないのは兵庫、愛知、岐阜の3県だけであり、それだけ全国的に草原環境が減少していることがわかる。
     兵庫県では溜池土堤などの草原環境が比較的よく残っているため、眼にする機会が多い。
     フナバラソウとの推定種間雑種にヤナギフナバラが両種の混生地に稀に生じる。
近縁種 : フナバラソウ  タチカモメヅル、 クサタチバナ、クサナギオゴケ、コバノカモメヅル、 コカモメヅル

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、アムール、バイカル
■生育環境:里山の草地など。
■花期:7〜8月

Fig.2 茎と葉。(西宮市・棚田の草地 2010.6/24)
  茎は直立し、細いがやや硬い。葉は対生してつき、ごく短い柄があり、狭披針形〜線状長楕円形、鋭頭。
  中央脈で若干内に折れ、裏面はやや粉白を帯びて見える。

Fig.3 午後4時ごろの花序。(西宮市・棚田の草地 2010.6/24)
  花は日没ごろから開花しはじめ、夜間に開花し続け、午前中に日が当たると閉じる。
  そのため昼間はこのような姿のものばかりを見ることになり、まるでその姿が鈴のように見えるため「鈴柴胡」となった。
  「柴胡」のほうは、薬草として用いられるミシマサイコのことで、その草体と似るためにあてられた。

Fig.4 花茎。(西宮市・棚田の草地 2010.6/21)
  花序は茎の先や上部の葉腋につく。

Fig.5 花序。(西宮市・棚田の草地 2010.6/21)
  花序は集散状で柄のある花をまばらにつける。

Fig.6 複雑な形態の花。(西宮市・棚田の草地 2010.6/21)
  花冠は5裂し、裂片は開出、光沢があり、縁は外側に反る。黄緑色の副花冠は直立し、蕊柱を囲む。
  花の構造についてはここで中途半端に述べるよりも 『石川の植物 別館 mizuaoiの植物記』の「FILE94 スズサイコ」の記述が素晴らしい。
  花にはアリがよく採蜜に来ている。キイロシリアゲアリという種によく似ているが、定かではない。

Fig.7 訪花したセマダラコガネ。(西宮市・棚田の草地 2010.6/21)
  セマダラコガネは植物の葉を食べているのをよく見かけるが、花の蜜もお好みのようで、近づいても熱心に蜜を吸っていた。
  他にはクサカゲロウや小型のガガンボが蕊柱の溝に引っ掛かって死んでいるのをよく見かける。

Fig.8 スズサイコの袋果。(兵庫県三田市・溜池土堤 2010.8/15)
  袋果は披針形で、1個が垂れ下がってつく。開花は多く見られても結実率は悪く、果実の見られない個体も多い。

Fig.9 袋果の内部。(西宮市・棚田の草地 2010.12/20)
  種子は殻の内側に並んでつき、割れた面には種髪が袋果の先端まで詰まっている。

Fig.10 種髪のついた種子。(西宮市・棚田の草地 2010.12/20)
  種子の先についた白い毛束は種髪といい、裂開果に特有のものらしい。
  種髪には冠毛に見られるような羽毛や小刺はなく平滑。

Fig.11 種髪を取り除いた種子。(西宮市・棚田の草地 2010.12/20)
  種子は卵形で、長さ4〜5mm、2稜あり、縁はやや翼状となる。種髪は容易に取り除くことができた。

Fig.12 秋期に黄葉した草体。(兵庫県篠山市・棚田の土手 2011.11/3)

生育環境と生態
Fig.13 棚田の草深い斜面に生育するスズサイコ。(西宮市・棚田の草地 2010.6/21)
草深い斜面であるが、年1回の草刈りが行われており、またネザサが侵入していない場所であるため良好な状態で生育している。
斜面にはススキ、ワラビ、アキカラマツ、ホタルブクロ、ナンテンハギ、コマツナギ、ヤマハッカ、タツナミソウ、ミヤコグサ、ナツフジ、
エビヅルといった草原環境を好む種と、ワレモコウ、ノアザミ、ウマノアシガタ、キツネノボタン、アキノタムラソウ、クルマバナ、ヤブマメ、
ゼンマイ、ハナビゼキショウ、チドメグサ、マツバスゲなどの湿性草原を好む種が生育している。

Fig.14 刈り込みの多い棚田の草地に生育するスズサイコ。(西宮市・棚田の草地 2010.6/24)
ここではネザサが生育しているが、頻繁に刈り込みが行われるためネザサは矮小化し、ススキ草原が保たれスズサイコの生育が可能となっている。
周囲の草の丈よりも丈高く伸び、その生長速度はかなり速いことがうかがえる。
ここではノアザミ、コウゾリナ、ウツボグサ、ミヤコグサなどとともに生育している。

Fig.15 丘陵部の水田の畦に生育するスズサイコ。(西宮市・水田の畦 2010.6/28)
比較的自生地の多い西宮市内ではときに水田の畦でもスズサイコに出会うことがある。
ここではムラサキサギゴケ、コナスビ、トウバナ、チドメグサ、ミゾカクシ、アオカモジグサ、ヌカボ、スギナといった畦畔植物とともに生育していた。

Fig.16 溜池土堤に生育するスズサイコ。(兵庫県三田市・溜池土堤 2011.7/3)
自然度の高い溜池土堤でススキ、チガヤ、ノハナショウブ、カキラン、ノテンツキなどとともに生育していた。
ここでは他にキキョウ、ワレモコウ、リンドウ、オミナエシ、コシンジュガヤ、ミヤコアザミ、キセルアザミ、ユウスゲ、コバギボウシ、ヤマラッキョウ、
サワヒヨドリ、スイラン、ヤマハッカ、イシモチソウ、ナンテンハギ、クララなど湿生〜草原性植物が豊富に生育している。


最終更新日:5th.Nov.2011

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