トラノオシダ Asplenium incisum  Thunb.
  里山・崖地・草地のシダ チャセンシダ科 チャセンシダ属

Fig.1 (西宮市・林縁の土崖 2010.6/21)
低地〜山地の道端の土崖、石垣、草地斜面などに普通な小型の常緑性シダ。
根茎は短く斜上し、黒褐色披針形の鱗片が生え、数本の葉を束生する。
葉は長さ10〜35cm、葉柄は短く、その下面または全体が赤紫褐色を帯びることが多く、光沢があり、上面には溝がある。
葉身は倒披針形で、緑色の草質、2〜3回羽状に分裂し、羽片は長卵形〜披針形、鈍頭または鋭頭で短柄がある。
羽片は下方に向かうにつれて次第に小形となり、基部よりでは耳状となり、まばらに中軸につく。
裂片は倒卵形、または楕円形、縁に鋭鋸歯があり、葉脈は叉状に遊離し、切れ込みの発達するものでは短柄がある。
胞子嚢群(ソーラス)は小脈に沿って小さな線形となってつくが、胞子嚢が熟すと大きく開いて目立つ。
近縁種 : コバノヒノキシダイワトラノオトキワトラノオ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、台湾、中国、シベリア東部
■生育環境:平地から山地の道端の土崖、石垣、草地斜面など。

Fig.2 全草標本。(西宮市・林縁の土崖 2010.6/21)
  葉は束生し、葉柄は短い。羽片は下方に向かうにしたがって小さくなって、まばらにつく。
  葉柄下面は赤紫褐色を帯びることが多いが、この個体は全面赤紫褐色となり、中軸下部も色づいている。

Fig.3 葉身の中軸と羽片。(西宮市・林縁の土崖 2010.6/21)
  中軸表面は凹み、その底面は平坦で溝状となる。
  羽片は生育の良い大きな葉では披針形となり、小さな葉では長卵形となる。

Fig.4 葉身下方の羽片。(西宮市・林縁の土崖 2010.6/21)
  羽片は下方ほど小形となる。最下付近の羽片は耳状。

Fig.5 中部の羽片の裂片。(西宮市・林縁の土崖 2010.6/21)
  羽片の中脈は凹み、中央が多少とも盛り上がり隆条となる。
  裂片は倒卵形または楕円形、縁にはとがった鋸歯があり、よく切れ込んだ裂片には短柄がある。
  裂片の脈は叉状に分枝し、鋸歯の先に達しない(遊離脈)。

Fig.6 裂片裏面。(西宮市・林縁の土崖 2010.6/21)
  胞子嚢群(ソーラス)は小脈に沿って小さな線形となってつく。

Fig.7 若い個体。(西宮市・公園の石垣 2011.2/25)
  若い小型の個体の葉は、単羽状となる。

生育環境と生態
Fig.8 農道脇の林縁土崖に生育するトラノオシダ。(西宮市・林縁の土崖 2010.6/21)
トラノオシダは里山の道端の裸地が生じたちょっとした土崖に点在していることが多く、ここもそのような場所である。
里山の竹林縁の日当たり良い場所で、同所的にカキドオシ、ヘビイチゴ、エビヅル、ヘクソカズラ、ミツバアケビなどが見られた。

Fig.9 里山の石垣に生育するトラノオシダ。(兵庫県三田市・道端の石垣 2011.1/20)
自然度の高い里山の日当たり良い乾いた石垣に、テイカカズラや大型の地衣類とともに生育していた。
石垣の湿った部分ではトラノオシダや地衣類は見られず、かわりにカニクサ、イノモトソウ、ベニシダ、ヤブソテツが出現する。


最終更新日:25th.Feb.2011

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