イトトリゲモ Najas japonica  Nakai イバラモ科 イバラモ属
水生植物 > 沈水植物    環境省準絶滅危惧(NT) ・ 兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (西宮市・用水路 2012.8/31)

貧栄養な溜池、水田、流れの緩い用水路などに生育する1年草。
全長は10〜30cm程度。茎はよく分枝して、基部付近の節から白いひげ根を出し、節は折れやすい。
葉は5輪生状、葉鞘の先は切形。葉身は線形、長さ1〜2cm、幅約0.2mm、細鋸歯があり、トリゲモ類の中では最も細く繊細である。
花は葉腋につき、ふつう1節に1個の雄花と2個の雌花が並んでつく。雄花は苞鞘に包まれ葯は1室。
雌花は苞鞘に包まれず柱頭は2裂。種子は各節に(1〜)2個つき、長楕円形で長さ2〜2.5mm、表面に縦長の網目模様がある。

トリゲモ類には似たものが多い。多くは葉鞘と種子または雄蕊の葯室数によって区別する。
オオトリゲモN, ogurraensis)は葉身基部の葉鞘は切り形で縁に小刺があり、葉縁には多数の鋸歯がある。
雄花は苞に包まれ、葯室が4つある。種子は長楕円形で長さ3〜3.5mm、横に長い梯子状の網目模様がある。本州以南の湖沼や溜池に見られる。
トリゲモN. minor)は前種のオオトリゲモに酷似する。溜池や湖沼に稀産。
葉の長さ1〜2cm。雄蕊の葯室は1室であることにより前種とかろうじて区別できる。関西では絶滅した可能性が高いとされる。
ヒロハトリゲモN. foveolata)は溜池や水田に生育し、葉幅0.3〜0.6mm、葉鞘は切り形または円形。
雄花と雌花はふつう別の葉腋につく。種子は長さ2.5〜3mm、表面にはルーペでも確認できる4〜6角形の大きな網目模様がある。
ホッスモN. graminea)は溜池や水田に生育し、葉鞘の先は耳状に突出することで区別できる。
ムサシモN. ancistrocarpa)は本州と四国の溜池や水田にきわめて稀に生育し、葉鞘は切り形、葉は糸状で細く、幅0.15〜0.2mm。
種子は湾曲して弧を描いた形となり、他種との区別は容易。絶滅寸前の種である。
近似種 : ホッスモヒロハトリゲモオオトリゲモトリゲモ
■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 東アジア、イタリア(帰化)
■生育環境:貧栄養な溜池や水田、用水路。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:中・北部の水田とその周囲の用水路内1ヶ所で確認。

Fig.2 全草標本。(兵庫県洲本市・溜池 2009.7/5)
  茎はよく分枝する。葉はトリゲモ類の中では最も細く繊細で、5輪生状につく。

Fig.3 葉身。(西宮市・用水路 2011.8/27)
  葉身は線形、幅約0.2mmとごく細く、細鋸歯がある。

Fig.4 葉鞘。(西宮市・用水路 2011.8/27)
  葉鞘の口部は切形、刺状突起がある。

Fig.5 種子は各節にふつう2個つく。(西宮市・用水路 2011.8/27)

Fig.6 種子。(西宮市・用水路 2011.8/27)
  種子は長楕円形で長さ2〜2.5mm、表面に縦長の網目模様がある。

Fig.7 種子表面の網目模様。(西宮市・用水路 2011.8/27)
  網目模様の隆起は低く、やや不明瞭で、顕微鏡下でも熟したものでないと確認しにくい。

Fig.8 種皮と仮種皮?。(神戸市・休耕田 2014.11/4)
  未熟な種子は仮種皮らしき薄い細胞膜に覆われており、表面の網目は確認しにくい。
  尖った針で剥がすか、シャジクモ類の卵胞子膜を見る要領で、潰して内部の胚や胚乳を抜くようにカバーグラスとスライドグラスで
  こすり合わせると、種皮が露出して確認できるようになる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 用水路内に密生するイトトリゲモ。(西宮市・用水路 2011.8/27)
用水路のような人為的な影響の濃い場所では、水生植物の消長が激しい。
この用水路内でこれまでイトトリゲモを確認したことはなく、昨年は水田型のイヌタヌキモが密生し、ミズオオバコがまばらに見られた。
今年はイヌタヌキモのミズオオバコも確認できず、イトトリゲモの生育がいちじるしかった。
このような水生植物の消長には、水路に水を入れた時期、中干しの為に水を抜いた時期、農薬を使用した時期などの要因が絡んでいると考えられる。
周辺の水田ではホッスモ、ヒロハトリゲモ、ミズオオバコ、ミズマツバなどが生育するが、今年はヒロハトリゲモが確認できなかった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982. イバラモ科イバラモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.18. pl.10. 平凡社
北村四郎, 2004 イバラモ科イバラモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.407〜409. pl.106. 保育社
大滝末男, 1980. イバラモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 211〜215. 北隆館
角野康郎, 1994 イバラモ科イバラモ属. 『日本水草図鑑』 52〜58. 文一統合出版
角野康郎, 2014 トチカガミ科イバラモ属. 『日本の水草』 94〜102. 文一統合出版
内山寛. 2001. イバラモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 187〜190. 神奈川県立生命の星・地球博物館
角野康郎. 1998. イトトリゲモ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 528. 山と渓谷社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. イトトリゲモ. 『六甲山地の植物誌』 215. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. イトトリゲモ. 『近畿地方植物誌』 198. 大阪自然史センター
角野康郎 2007. イトトリゲモ. 兵庫県産維管束植物9 イバラモ科. 人と自然18:90. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Nov.2014

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