ホッスモ Najas graminea  Del. イバラモ科 イバラモ属
水生植物 > 沈水植物
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池 2007.8/16)

Fig.2 (兵庫県篠山市・用水路 2009.8/14)

貧栄養〜中栄養な溜池、水田、流れの緩い用水路などに生育する1年草。
全草やや革質で、トリゲモ類ではもっとも手ざわりが柔らかく、緑黄褐色。
茎は著しく分枝して、基部付近の節から白いひげ根を出し、高さ10〜60cm。
葉は3輪生状、基部は葉鞘となり、その先が耳状に飛び出してとがる。
葉身は線形、長さ1〜2.5cm、幅0.2〜0.7mm、鋸歯は小さく目立たない。
雄花、雌花ともに苞鞘に包まれず裸出する。
種子は長楕円形で、長さ2〜3mm、表面には格子模様があるが、細かく稜も低いため目立たない。
果実はふつう1節に1個つくが、2個つくこともあるので、果実の個数だけでは同定はできない。

トリゲモ類には似たものが多い。多くは葉鞘と種子または雄蕊の葯室数によって区別する。
オオトリゲモN, ogurraensis)は葉身基部の葉鞘は切り形で縁に小刺があり、葉縁には多数の鋸歯がある。
雄花は苞に包まれ、葯室が4つある。種子は長楕円形で長さ3〜3.5mm、横に長い梯子状の網目模様がある。本州以南の湖沼や溜池に見られる。
トリゲモN. minor)は前種のオオトリゲモに酷似する。溜池や湖沼に稀産。
葉の長さ1〜2cm。雄蕊の葯室は1室であることにより前種とかろうじて区別できる。関西では絶滅した可能性が高いとされる。
イトトリゲモN. japonica)は全国の溜池や水田に生育し、葉は5輪生状、葉鞘は切り形、葉身は糸状で幅約0.2mm。
雄花は苞鞘に包まれ葯は1室、種子は各節にふつう2個つき、長楕円形で長さ2〜2.5mm、縦長の網目模様がある。
ヒロハトリゲモN. foveolata)は溜池や水田に生育し、葉鞘は切り形または円形でホッスモのように突出しない。
種子は長楕円形で長さ2.5〜3mm。表面には四〜六角形の大きな網目模様がある。
ムサシモN. ancistrocarpa)は本州と四国の溜池や水田にきわめて稀に生育し、葉鞘は切り形、葉は糸状で細く、幅0.15〜0.2mm。
種子は湾曲して弧を描いた形となり、他種との区別は容易。絶滅寸前の種である。
近似種 : オオトリゲモヒロハトリゲモイトトリゲモトリゲモ
■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ アジア、ヨーロッパ、北アフリカ、オーストラリア
■生育環境:貧栄養な溜池や水田、用水路。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:中〜北部の水田とその周囲の用水路内で確認。
             兵庫県下ではトリゲモ属中最も普通に見られる種であり、自生地・個体数ともに多い。

Fig.3 ホッスモの葉鞘。(西宮市・水田 2007.9/6)
  葉鞘は切り形にならず、耳状に突出して先がとがる。

Fig.4 種子。(西宮市・用水路 2006.10/5)
  長さ2〜3mm。表面の格子模様は細かく、稜も低いため目立たない。

Fig.5 秋期に紅葉した草体。(兵庫県三田市・溜池 2009.10/16)

西宮市内での生育環境と生態
Fig.? 現在画像はありません。

他地域での生育環境と生態
Fig.6 貧栄養な溜池で生育するホッスモ。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/16)
溜池にはヒツジグサの大きな群落があり、ホッスモはイトモとともに池底に広がっている。
湿生植物ではサワトウガラシ、ヒメホタルイ、ニッポンイヌノヒゲ、イヌノヒゲが見られた。

Fig.7 湛水休耕田で密生するホッスモ。(兵庫県篠山市・休耕田 2010.7/31)
湛水休耕田の開水面の一画をホッスモ群落が占めていた。丹波地方ではホッスモは溜池よりも湛水休耕田や素掘りの水路内で見られることが多い。
ここではコナギ、イボクサ、ヒシ、クログワイが優占するが、それらの間にミゾハコベ、ホッスモ、ヤナギスブタ、イヌノヒゲ、ヒロハイヌノヒゲが小群落をつくる。

Fig.8 溜池で密生するホッスモ。(兵庫県丹波市・溜池 2010.8/25)
丹波地方でこのような溜池に密生している状態は稀である。氷上盆地のやや中栄養な溜池で見られた。
流入部にはやや密なヒメガマ群落が見られ、沈水植物は大群生するホッスモと、エビモが少量見られた。
水際にはヒメホタルイとミズガヤツリが抽水状態で生育し、ハリイ、アゼガヤツリ、コアゼガヤツリ、ヒナガヤツリ、セイヨウハッカが見られた。
ホッスモは普通種ではあるが、このような環境は稀であり、ぜひ環境教育に取り入れて残して貰いたい場所である。
溜池土堤ではカワラナデシコ、スズサイコなども生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982. イバラモ科イバラモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.18. pls.10. 平凡社
北村四郎, 2004 イバラモ科イバラモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.407〜409. pls.106. 保育社
大滝末男, 1980. イバラモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 211〜215. 北隆館
角野康郎, 1994 イバラモ科. 『日本水草図鑑』 52〜58. 文一統合出版
内山寛. 2001. イバラモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 187〜190. 神奈川県立生命の星・地球博物館
北村四郎. 1968. トリゲモ,オオトリゲモ. 北村四郎(編)『滋賀県植物誌』 178. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ホッスモ. 『六甲山地の植物誌』 215. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ホッスモ. 『近畿地方植物誌』 198. 大阪自然史センター
角野康郎 2007. ホッスモ. 兵庫県産維管束植物9 イバラモ科. 人と自然18:90. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:14th.Jan.2011

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