ヒロハトリゲモ
(サガミトリゲモ)
Najas foveolata  A.Br. イバラモ科 イバラモ属
水生植物 > 沈水植物  環境省絶滅危惧U類(VU)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (西宮市・水田 2006.8/15)

Fig.2 (兵庫県小野市・用水路 2011.9/17)

溜池、水田、流れの緩い用水路などに生育する1年草。
茎はよ分枝して、基部付近の節から白いひげ根を出す。
葉身は線形、長さ1〜3cm、幅0.3〜0.6mm、細鋸歯がある。
葉鞘は円形または切り形で、ホッスモのように突出しない。
種子は長楕円形で、長さ2.5〜3mm、表面には四〜六角形の大きな網目模様がある。

トリゲモ類には似たものが多い。多くは葉鞘と種子または雄蕊の葯室数によって区別する。
オオトリゲモN, ogurraensis)は葉身基部の葉鞘は切り形で縁に小刺があり、葉縁には多数の鋸歯がある。
雄花は苞に包まれ、葯室が4つある。種子は長楕円形で長さ3〜3.5mm、横に長い梯子状の網目模様がある。本州以南の湖沼や溜池に見られる。
トリゲモN. minor)は前種のオオトリゲモに酷似する。溜池や湖沼に稀産。
葉の長さ1〜2cm。雄蕊の葯室は1室であることにより前種とかろうじて区別できる。関西では絶滅した可能性が高いとされる。
イトトリゲモN. japonica)は全国の溜池や水田に生育し、葉は5輪生状、葉鞘は切り形、葉身は糸状で幅約0.2mm。
雄花は苞鞘に包まれ葯は1室、種子は各節にふつう2個つき、長楕円形で長さ2〜2.5mm、縦長の網目模様がある。
ホッスモN. graminea)は溜池や水田に生育し、葉鞘の先は耳状に突出することで区別できる。
ムサシモN. ancistrocarpa)は本州と四国の溜池や水田にきわめて稀に生育し、葉鞘は切り形、葉は糸状で細く、幅0.15〜0.2mm。
種子は湾曲して弧を描いた形となり、他種との区別は容易。絶滅寸前の種である。
近似種 : ホッスモイトトリゲモオオトリゲモトリゲモ
■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ アジア東部
■生育環境:溜池や水田、用水路。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:中・北部の水田とその周囲の用水路内数ヶ所で確認。

Fig.3 全草標本。(兵庫県三田市・用水路 2011.9/17)
  茎はよ分枝して、基部付近の節から白いひげ根を出す。

Fig.4 茎上部。(西宮市・水田 2007.9/6)
  茎は折れやすく、葉身はあまり反り返らない。

Fig.5 葉。(兵庫県三田市・用水路 2011.9/17)
  葉身は線形、長さ1〜3cm、幅0.3〜0.6mm、細鋸歯がある。

Fig.6 葉鞘。(西宮市・水田 2007.9/6.)
  葉鞘は切り形。耳状に突出するホッスモと区別できる。

Fig.7 種子。(兵庫県篠山市・ダム湖 2015.9/14)
  長さ2.5〜3mm。表面の格子模様は大きく、ルーペでも確認できる。

西宮市内での生育環境と生態
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他地域での生育環境と生態
Fig.8 水田の素掘りの排水路内でヤナギスブタなどとともに生育するヒロハトリゲモ 。(兵庫県三田市・水田 2011.9/17)
扇状地状に丘陵の裾に広がった水田の排水路内に多くの水田雑草とともに生育していた。
素掘りの排水路内にはコナギやイボクサに混じってヒロハトリゲモが密に生育し、スブタ、ヤナギスブタ、ミズオオバコ、キカシグサなどが生育していた。

Fig.9 小規模なダム湖に生育するヒロハトリゲモ 。(兵庫県篠山市・ダム湖 2015.9/14)
2年前に竣工された小規模なダム湖の水際近くの浅水域にヒロハトリゲモが生育していた。
施工前には数枚の水田と休耕田があったが、ヒロハトリゲモは確認できなかったため、埋土種子からの発芽と考えられる。
同様に埋土種子から発芽したと考えられるミズオオバコが生育し、上流の溜池から流入したホソバミズヒキモ、ミズニラ、
かつて休耕田で見られたヘラオモダカ、ヒロハイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982. イバラモ科イバラモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.18. pls.10. 平凡社
北村四郎, 2004 イバラモ科イバラモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.407〜409. pls.106. 保育社
大滝末男, 1980. イバラモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 211〜215. 北隆館
角野康郎, 1994 イバラモ科. 『日本水草図鑑』 52〜58. 文一統合出版
内山寛. 2001. イバラモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 187〜190. 神奈川県立生命の星・地球博物館
北村四郎. 1968. トリゲモ,オオトリゲモ. 北村四郎(編)『滋賀県植物誌』 178. 保育社
角野康郎. 1998. サガミトリゲモ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 528. 山と渓谷社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. サガミトリゲモ. 『六甲山地の植物誌』 215. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヒロハトリゲモ. 『近畿地方植物誌』 198. 大阪自然史センター
角野康郎 2007. ヒロハトリゲモ. 兵庫県産維管束植物9 イバラモ科. 人と自然18:90. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:5th.Aug.2016

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