トリゲモ Najas minor  L. イバラモ科 イバラモ属
水生植物 > 沈水植物    環境省絶滅危惧TB類(EN) ・ 兵庫県RDB 要調査種
Fig.1 (京都府中丹地方・用水路 2013.8/19)

Fig.2 (京都府中丹地方・用水路 2015.7/31)

Fig.3 (兵庫県播磨地方・溜池 2016.8/25)

溜池、流れの緩い用水路などに生育する1年草。
全長は20〜30cm程度。茎はよく分枝して、基部付近の節から白いひげ根を出し、節は折れやすい。
葉は2個が対生または3輪生状につき、葉鞘の先は切形。葉身は線形〜狭線形、長さ1〜3cm、幅約0.5mm、細鋸歯がある。
花は葉腋につき、1節に1個の花をつける。雄花は苞鞘に包まれ葯は1室。
雌花の柱頭は2裂。種子は各節に1個つき、長楕円形で長さ2〜3mm、表面に横長の網目模様がある。

トリゲモ類には似たものが多い。多くは葉鞘と種子または雄蕊の葯室数によって区別する。
オオトリゲモN, ogurraensis)は雄花は苞に包まれ、葯室が4つある。種子は横長の網目模様がある。本州以南。
ヒロハトリゲモN. foveolata)は溜池や水田に生育し、葉幅0.3〜0.6mm、葉鞘は切り形または円形。
雄花と雌花はふつう別の葉腋につく。種子は長さ2.5〜3mm、表面にはルーペでも確認できる4〜6角形の大きな網目模様がある。
ホッスモN. graminea)は溜池や水田に生育し、葉鞘の先は耳状に突出することで区別できる。
ムサシモN. ancistrocarpa)は本州と四国の溜池や水田にきわめて稀に生育し、葉鞘は切り形、葉は糸状で細く、幅0.15〜0.2mm。
種子は湾曲して弧を描いた形となり、他種との区別は容易。絶滅寸前の種である。
イトトリゲモN. japonica)は葉が糸状で幅約0.2mm、種子は各節にふつう2個つき、種子表面には縦長の網目模様がある。
近似種 :  オオトリゲモヒロハトリゲモホッスモイトトリゲモ
■分布:本州、四国、九州 ・ 世界の温帯〜熱帯
■生育環境:溜池や用水路。
■花期:7〜9月
■西宮市内での分布:市内では見られない。多くの地方では絶滅したとされるが、再調査の必要がある。
          京都府では2015年に中丹地方で相次いで2ヶ所の自生地が見つかった。兵庫県では播磨地方で生育が確認された。

Fig.4 全草標本。(京都府中丹地方・用水路 2013.8/19)
  全長は20〜30cm程度。茎はよく分枝して、基部付近の節から白いひげ根を出し、節は折れやすい。
  池沼に見られるオオトリゲモより小さく、草体はやや軟らかく、葉もオオトリゲモほど反り返らない。

Fig.5 草体上部の拡大。(京都府中丹地方・用水路 2013.8/19)
  葉は2個が対生または3輪生状につき、葉身は長さ1〜3cm、幅約0.5mm、線形〜狭線形、細鋸歯がある。葉腋に苞鞘に包まれた果実が見える。

Fig.6 葉鞘。(京都府中丹地方・溜池 2014.9/29)
  葉鞘の口部は切形、刺状突起が並ぶ。

Fig.7 葉身。(京都府中丹地方・溜池 2014.9/29)
  葉幅は約0.5mm、鋸歯は明瞭。

Fig.8 葉表の拡大。(京都府中丹地方・溜池 2014.9/29)
  表皮細胞はオオトリゲモほど長くないが、長い部分もあって確実な区別点とはならない。

Fig.9 種子は葉腋に単生する(黄色円内)。(京都府中丹地方・溜池 2014.9/29)

Fig.10 種子。(京都府中丹地方・溜池 2014.9/29)
  種子は長楕円形で長さ約3mm、表面に横長の網目模様があるが、ルーペでの確認は難しい。

Fig.11 種子表面の網目模様。(京都府中丹地方・溜池 2014.9/29)
  種子表面の格子模様は40倍程度の実体顕微鏡や光学顕微鏡で明瞭に見ることができる。
  格子模様は横に長い6角形が規則的に縦に並んでいることが解る。
  オオトリゲモも種子表面には同様な格子模様が見られるため、種子表面の模様だけで区別はできない。

Fig.12 雄花のつぼみ。(京都府中丹地方・用水路 2015.8/27)
  つぼみ内部の葯は仕切りが無く、葯は1室で、長さ0.7〜1mm。オオトリゲモでは葯は4室、長さ約1.5mm。

Fig.13 雄花の拡大。(京都府中丹地方・用水路 2015.8/27)
  雄花=葯は苞鞘に包まれ、葯の内部には花粉が詰まっているのがわかる。

Fig.14 雌花の拡大。(京都府中丹地方・用水路 2015.8/27)
  雌花は下方に楕円形の子房があり、花糸が伸びて柱頭は2岐している。基部には小苞らしきものが付いていた。

Fig.15 トリゲモとオオトリゲモの雌花の比較。
  左はトリゲモ、右はオオトリゲモの雄花。実際にはトリゲモの雄花はかなり小さい。
  トリゲモの雄花は透明感があるが、オオトリゲモの雄花にはあまり透明感がない。

Fig.16 トリゲモの雄花とオオトリゲモの葯の比較。(1目盛=25μm)
  左はトリゲモの苞に包まれた葯、右はオオトリゲモの葯。
  トリゲモは苞に包まれた状態でも内部の花粉粒が確認できるが、オオトリゲモは苞から取り出した葯でも花粉粒が確認できない。

生育環境と生態
Fig.17 用水路内に生育するトリゲモ。(京都府中丹地方・用水路 2015.8/27)
農道脇にある用水路枡内に生育しており、水源は上部にある小さな溜池で、溜池内にも発生し、用水枡内にも毎年見られる。
溜池内では広範囲にイトモが優占するが、用水枡内ではトリゲモが密生している。

Fig.18 溜池に生育するトリゲモ。(兵庫県播磨地方・溜池 2015.8/6)
自然度の高い中栄養な溜池の一画にトリゲモが密生していた。
以前はオオトリゲモだろうとタカを括っていたが、Y氏によりトリゲモではないかとの連絡を受け、調べるとトリゲモだった。
この溜池ではヒシモドキ、オニバス、ヒシ、クロモ、ヒルムシロ、ミズユキノシタなどの水草のほか、ナガフラスコモと思われる
ものが生育しており、高度経済成長期以前の面影を残すホットスポット言ってよい場所である。

Fig.19 ネジレモとともに生育するトリゲモ。(滋賀県・湖沼 2011.8/28)
琵琶湖でかつて記録されたトリゲモはオオトリゲモの誤認と言われていたが、昨年Y氏により琵琶湖の北西岸のものは全てトリゲモと確認された。
この集団はY氏にオオトリゲモの集団としてご紹介したが、この場所のものもオオトリゲモではなくトリゲモだと解明された。
ここでは湖岸の枯れたヨシの株元にネジレモとともに生育している。周辺にはオトメフラスコモの小型な個体、水際にはササバモの陸生形が見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982. イバラモ科イバラモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.18. pl.10. 平凡社
北村四郎, 2004 イバラモ科イバラモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.407〜409. pl.106. 保育社
大滝末男, 1980. イバラモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 211〜215. 北隆館
角野康郎, 1994 イバラモ科. 『日本水草図鑑』 52〜58. 文一統合出版
角野康郎, 2014 トチカガミ科(イバラモ科)イバラモ属. 『日本の水草』 94〜102. 文一統合出版
内山寛. 2001. イバラモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 187〜190. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. トリゲモ. 『六甲山地の植物誌』 215. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. トリゲモ. 『近畿地方植物誌』 198. 大阪自然史センター
角野康郎 2007. トリゲモ. 兵庫県産維管束植物9 イバラモ科. 人と自然18:90. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:14th.Mar.2017

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