オオトリゲモ Najas ogurraensis  Miki イバラモ科 イバラモ属
水生植物 > 沈水植物
Fig.1 (西宮市・水路 2013.8/16)

Fig.2 (神戸市・溜池 2016.9/11)

Fig.3 (兵庫県加東市・溜池 2011.9/19)

中栄養〜やや富栄養な溜池、湖沼、水路などに生育する1年草。
茎はほぼ全ての節で2叉状に分枝を繰り返しながら成長し、ときに長さ50cmを超える。茎はもろく折れやすい。
葉は基本的に対生だが、分枝する節では3輪生状となる。葉身は線形、長さ2〜4cm、幅0.3〜0.7mm、多数の鋸歯がある。
葉鞘は長さ2〜4mm、先は切り形で、縁には小刺が並ぶ。雄花の葯室は4個ある。
種子は長楕円形で、長さ3〜3.5mm、表面には横に長い梯子状の網目模様がある。

トリゲモ類には似たものが多い。多くは葉鞘と種子または雄蕊の葯室数によって区別する。
トリゲモN. minor)はオオトリゲモに酷似する。溜池や湖沼に稀産。
葉の長さ1〜2cm。雄蕊の葯室は1室であることにより前種とかろうじて区別できる。関西では京都・兵庫・滋賀で確認された。
ヒロハトリゲモN. foveolata)は溜池や水田に生育し、葉鞘は切り形または円形でホッスモのように突出しない。
種子は長楕円形で長さ2.5〜3mm。表面には四〜六角形の大きな網目模様があり、ルーペでも確認できる。
イトトリゲモN. japonica)は全国の溜池や水田に生育し、葉は5輪生状、葉鞘は切り形、葉身は糸状で幅約0.2mm。
雄花は苞鞘に包まれ葯は1室、種子は各節にふつう2個つき、長楕円形で長さ2〜2.5mm、縦長の網目模様がある。
ホッスモN. graminea)は溜池や水田に生育し、葉鞘の先は耳状に突出することで区別できる。
ムサシモN. ancistrocarpa)は本州と四国の溜池や水田にきわめて稀に生育し、葉鞘は切り形、葉は糸状で細く、幅0.15〜0.2mm。
種子は湾曲して弧を描いた形となり、他種との区別は容易。絶滅寸前の種である。
近似種 : トリゲモヒロハトリゲモホッスモイトトリゲモイバラモ
■分布:本州、四国、九州、沖縄 ・ 中国
■生育環境:中栄養〜やや富栄養な溜池や湖沼、まれに水路。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:平野部の水路内にかろうじて残存している。

Fig.4 溜池のオオトリゲモ。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  茎はほぼ全ての節で2叉状に分枝を繰り返しながら成長し、ときに長さ50cmを超える。茎はもろく折れやすい。

Fig.5 Fig.4の一部を拡大。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  反り返った葉には、多数の明瞭な鋸歯がある。

Fig.6 葉縁の鋸歯(上)と葉身の表皮細胞(下)。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  鋸歯の先端は小刺状にとがる。表皮細胞は縦に長い。

Fig.7 葉鞘と果実。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  葉鞘の口部は切形。花は雌雄異花で、葉腋に直につく。

Fig.8 雄花。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  雄花は葉鞘に包まれて、葉腋に直につき長さ約2.5mm。画像は葉を1枚取り除いて雄花を露出したところ。

Fig.9 雄花の葯(1目盛=25μm)。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  葯は苞に包まれ、長さ1.5mm内外。トリゲモの葯は0.7〜1mmでかなり小さい。
  トリゲモの葯は透過光で葯室内の花粉粒が確認できるが、オオトリゲモでは苞と葯壁が厚く、花粉粒を透過光で確認できない。

Fig.10 ごく若い雄花の透過画像。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  葯が成長途上のもので、中央に葯隔が見える。

Fig.11 葉鞘の上端部。(神戸市・溜池 2016.9/11)
  葉鞘の上端には小刺が並ぶ。

Fig.12 種子。(神戸市・溜池 2016.10/11)
  長さ3〜3.5mm。非常に細かい横長の格子模様がある。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.13 水路内に生育するオオトリゲモ。(西宮市・水路 2012.9/21)
大潮時には上汐がある平野部住宅地を流れる小水路内にエビモ、コカナダモとともに生育している。
水路内にはメダカ、フナ、コイ、遡上したボラの稚魚などが見られる。

他地域での生育環境と生態
Fig.14 やや富栄養な溜池で生育するオオトリゲモ。(兵庫県明石市・溜池 2008.8/31)
オオトリゲモは平野部のやや富栄養な溜池に見られることが多い。しかし、このような平野部の溜池は埋め立てや開発、排水の流入による
水質の悪化に遭いやすく、自生地は減少傾向にある。
ここでは大規模なハス池中に、ノタヌキモ、クロモ、マツモ、ヒシなどとともに見られた。

Fig.15 溜池の浅水域で生育するオオトリゲモ。(神戸市・溜池 2016.9/11)
この溜池ではヒシの群落がよく発達し、アイノコイトモやシャジクモとともに生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982. イバラモ科イバラモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.18. pl.10. 平凡社
北村四郎, 2004 イバラモ科イバラモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.407〜409. pl.106. 保育社
大滝末男, 1980. イバラモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 211〜215. 北隆館
角野康郎, 1994 イバラモ科. 『日本水草図鑑』 52〜58. 文一統合出版
角野康郎, 2014 トチカガミ科(イバラモ科)イバラモ属. 『日本の水草』 94〜102. 文一統合出版
内山寛. 2001. イバラモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 187〜190. 神奈川県立生命の星・地球博物館
北村四郎. 1968. トリゲモ,オオトリゲモ. 北村四郎(編)『滋賀県植物誌』 178. 保育社
村田源. 2004. オオトリゲモ. 『近畿地方植物誌』 198. 大阪自然史センター
角野康郎 2007. オオトリゲモ. 兵庫県産維管束植物9 イバラモ科. 人と自然18:90. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:14th.Mar.2017

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