イバラモ | Najas marina L. | イバラモ科 イバラモ属 |
水生植物 > 沈水植物 兵庫県RDB Cランク種 |
Fig.1 (三重県・溜池 2015.8/9) 湖沼、溜池、稀に河川や水路などに生育する1年生の沈水植物。 茎は水底をはって節から発根し、水中枝を分枝しながら横に広がる。茎には多数の刺がある場合と、ほとんど刺が無い場合とがある。 葉は対生(分枝部では3輪生状)、基部は葉鞘となり、葉身は線形で長さ2〜6cm、幅(0.5〜)1〜2mm(鋸歯高除く)。 葉縁に刺状の大きな鋸歯があるのがふつうだが、鋸歯の形状は産地により高さ1mmになる顕著なものから、肉眼ではほとんど目立たないものまで 変異が多く、外観は大変異なる。葉の裏面の中肋上にも刺のある場合とない場合がある。 雌雄異株で、雄株はふつう雌株よりも葉が小さく、水中枝も短く、葉腋に膜質の花被の中に1個の雄蕊の入った雄花がつく。葯は4室。 雌花は雌株の葉腋につき、花被がなく、1個の雌蕊からなる。種子は左右不相称の楕円形、淡緑褐色〜黒褐色、長さ4〜6mm、幅2〜3mm。 【メモ】 兵庫県下では山間〜丘陵部の溜池でやや稀に見られ、RDB Cランクとされている。しかし、自生地の消失、環境改変などで減少傾向がいちじるしく、 現状ではさらに危機的状況にあると見られる。 水槽内で冬期に水温を低下させずに育成すると2年程度は育成可能だが、以後は徐々に勢いが劣り、やがて消えてしまい、1年または短命な多年草 といった印象を受ける。この傾向は他のイバラモ科の水生植物にも見られる。 ヒメイバラモ(N. tenuicaulis)が独立種として記載されているが、その実態は不明であるという。 産地は少なく、イバラモに似るが、葉が細く葉縁の鋸歯が2〜4個と少数で、茎の皮下細胞が1層(イバラモはふつう2層)。 近似種 : オオトリゲモ、 ホッスモ、 ヒロハトリゲモ、 イトトリゲモ、 トリゲモ ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 世界中に広く分布 ■生育環境:湖沼、溜池、稀に河川や水路など。 ■花期:7〜9月 ■西宮市内での分布:市内での生育は確認していない。 |
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↑Fig.2 全草標本。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) |
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↑Fig.3 主茎と水中枝。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) 主茎は水底をはって分枝し、節から発根するが、砂泥中に埋もれた水中枝の節からも発根する。 |
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↑Fig.4 茎。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) 茎には多くは多数の刺があるが、ほとんど無い場合もある。 |
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↑Fig.5 葉はふつう対生する。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) |
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↑Fig.6 3輪生状についた葉。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) 分枝部では分枝した枝の基部に葉がついて3輪生状に見える。葉の基部は葉鞘となっている。 |
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↑Fig.7 葉の拡大。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) 葉縁にはふつう刺状の大きな鋸歯があるが、産地によっては全く目立たないものもある。 画像のものでは中肋にもまばらに刺を生じている。 |
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↑Fig.8 雌雄異株(水中枝の比較)。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) イバラモは雌雄異株で、ふつう雄株の水中枝は雌株のものよりも小柄で、葉も小さい。 |
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↑Fig.9 雄花。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) 雄株には葉腋に膜質の花被の中に1個の雄蕊の入った雄花がつく。 |
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↑Fig.10 雌花。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) 雌花は雌株の葉腋につき、花被がなく、1個の雌蕊からなり、水中で受粉する。 |
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↑Fig.11 秋に池畔に打ち寄せられた雌株の切れ藻。(兵庫県福崎町・溜池 2010.9/29) 切れ藻の長さはほぼ一定しており、最下の葉腋の果実はいずれも熟していた。 イバラモは開花・結実前は草体も柔軟であるが、結実すると硬く、もろくなって切れ藻を生じやすい。 最下の果実がいずれも熟していたことから、果実が熟すと草体が切れて浮遊して生育領域を広げる戦略をとっているのだろうと予想できる。 切れ藻上部には未熟な果実がついているが、これも浮遊中の葉の同化作用で養分を供給されて熟すのだろう。 |
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↑Fig.12 果皮に包まれた種子(上段)と、取り出した種子(下段)。(滋賀県・湖沼 2011.9/28) 果実には2岐する柱頭を持った花柱が宿存し、種子1個が硬い果皮に包まれている。 |
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↑Fig.13 種子。(兵庫県福崎町・溜池 2010.9/29) 種子は左右不相称の楕円形、淡緑褐色〜黒褐色、長さ4〜6mm、幅2〜3mm、表面には隆起した網目模様が見られる。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.14 減水した溜池の流れ込み部に生育するイバラモ。(三重県・溜池 2015.8/9) 丘陵部の谷津に造営されているやや大きな溜池広く繁茂しており、流れ込み部の細流内にも生育し、底質は砂泥質だった。 他にホソバミズヒキモが生育し、溜池畔にはサイコクヌカボの大きな群落が見られ、やや中栄養な溜池と考えられる。 琵琶湖ではふつうに見られ、砂質または砂泥質の水深1〜3mの水底に主茎を匍匐して広がって生育している。 2011年9月28日に調べた場所では、水底全体にわたって浮葉を欠いたホソバミズヒキモが生育し、そこにネジレモ、ヒロハノエビモ、オオササエビモ、 ササバモ、ホザキノフサモなどどともに生育していた。水中画像の撮影を試みたが、琵琶湖特有の北東の強風が吹き荒れ、波濤によって巻き上げられた軟泥が 視界を遮り、身体が波に翻弄されるためイバラモの生態画像は来年の宿題となってしまった。 Fig.10の切れ藻が見られた山間の小さな溜池では、腐食栄養質な水質で茶褐色を帯びて池畔からは自生状態は確認できなかったが、ここではクロモ、 セキショウモ、イトモ、フトヒルムシロ、ジュンサイ、ヒツジグサなどが生育していた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 山下貴司, 1982. イバラモ科イバラモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.18. pl.10. 平凡社 北村四郎, 2004 イバラモ科イバラモ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.407〜409. pl.106. 保育社 大滝末男, 1980. イバラモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 211〜215. 北隆館 角野康郎, 1994 イバラモ科. 『日本水草図鑑』 52〜58. 文一統合出版 内山寛. 2001. イバラモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 187〜190. 神奈川県立生命の星・地球博物館 村田源. 2004. イバラモ. 『近畿地方植物誌』 198. 大阪自然史センター 角野康郎 2007. イバラモ. 兵庫県産維管束植物9 イバラモ科. 人と自然18:90. 兵庫県立・人と自然の博物館 M. Agami et al. 1986. The morphology and physiology of turions in Najas marina L. in Israel. Aquatic Botany 26:371〜376. Elsevier 最終更新日:4th.Aug.2016 |