ホザキノフサモ Myriophyllum spicatum  L. アリノトウグサ科 フサモ属
水生植物 > 沈水植物
Fig.1 (滋賀県・河川 2008.9/8)

Fig.2 (滋賀県・水路 2011.9/27)

湖沼、溜池、河川、水路などで沈水状態で生育する常緑の多年草。
中〜冨栄養な水域から汽水域にかけて生育し、フサモ属中最も普通な種。
茎は基部で分岐して株をなす場合と、上部で盛んに分枝する場合とがある。全長は流水中では2mを超えることもある。
葉は細裂した羽状葉で茎の各節に4輪生、ふつう鮮緑色ときに赤味を帯びる。羽状葉は中軸とその両側の糸状羽片からなり、全長1.5〜3cm、
各羽片の長さ3〜15mmで軸側に向かって湾曲する。
花序は長さ3〜10cm、水面上に伸びて開花するが、気中葉がないことが他のフサモ属の種と異なる。
雌雄同株で上部のの3〜8節に雄花、下部の4〜6節に雌花がつく。
雄花の花弁は淡紅色で開花時には8個の雄蕊の葯が露出して花粉を放出する。
雌花は4溝のある鐘状の子房の先に羽毛状の4個の柱頭が並ぶ。
果実は4つの分果が一つになり、卵形で長さ約2mm。
水位が低下し生育地が陸地になると陸生形をつくり、その場合は茎の基部から分枝する。
フサモ、オグラノフサモ、ハリマノフサモのような殖芽は形成せず、種子または根茎、あるいは植物体の一部がそのまま残って越冬する。

フサモ属の水生植物には他にフサモオグラノフサモタチモオオフサモがあり、タチモとオオフサモを除いた3種は非常によく似ている。
フサモM. verticillatum)は貧栄養または腐植栄養質な溜池や湖沼で見られることが多く、羽状葉の羽片は湾曲せずに直線的に伸びる。
花序の各節には緑色の気中葉がつき、1.5〜3cmの根棒状の太く短い殖芽を形成して越冬する。殖芽葉は羽毛状、裂片は細く、裂片間の隙間は広くあく。
オグラノフサモM. oguraense)は中〜やや冨栄養でアルカリ性の水域に見られることが多く、フサモ同様、花序の各節に気中葉をつける。
秋期には2.5〜8cmの細長い棒状の殖芽を形成して越冬する。殖芽は6〜8cmの長い根棒状で、殖芽葉は板状、裂片の幅は広く、裂片間はV字状となる。
タチモM. ussuriense)は貧栄養〜中栄養な溜池の浅水域や水辺に見られ、沈水葉は羽状に細裂してきわめて繊細で、羽片は10個以下。
花は抽水〜陸生形の水上茎の葉腋につき、雌雄異株。
オオフサモM. aquaticum)は南米原産の帰化植物で、主に抽水状態で生育し、葉は5〜6輪生することで他種と見分けられる。
各地で大繁殖して猛威を振るい駆除も難しいため、現在では特定外来種に指定され栽培・移動などが禁じられている。
近似種 : フサモオグラノフサモ ハリマノフサモタチモオオフサモ

■分布:日本全土 ・ ユーラシア大陸。北米に帰化。
■生育環境:湖沼や溜池、河川、水路など。
■花期:5〜10月
■西宮市内での分布:市内では平野部の水路内の1ヶ所で生育を確認した。

Fig.3 全草の様子。(滋賀県・小河川 2008.9/8)
  茎は軟らかく、よく分枝する。葉はフサモやオグラノフサモのようには平開しない。

Fig.4 輪生する葉。(滋賀県・河川 2008.9/8)
  細裂した羽状葉が茎の各節に4輪生する。

Fig.5 沈水葉の葉身。(滋賀県・河川 2008.9/8)
  各羽片の長さ3〜15mmで裂葉中軸側に向かって湾曲する。裂片の先は顕微鏡で観察すると鋭頭だった。

Fig.6 花茎を水面上にあげて開花する。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)
  この溜池にはコイが多数放たれているため、倒伏している花序が目立った。

Fig.7 花序。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)
  花序は長さ3〜8cm程度で、花は各節に4個ずつつ、上部は雄花が、下部には雌花がつき、雌性先熟。

Fig.8 伸長前の若い花序。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)
  各花の基部には苞葉がつくが、雄花の苞葉は楕円形で鋸歯があり、雌花の苞葉は披針形で縁は細裂する。

Fig.9 開花前の雄花群。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)
  開花前の雄花の花弁は赤紫色を帯びている。

Fig.10 開花する雄花。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)
  花は花茎の下方から順次開花する。
  雄花の花弁は早落性で、開花直前に花床から全て脱落する。この頃の花弁は淡紅色〜黄緑白色となる。

Fig.11 開花した雄花。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)
  花弁は4個で、楕円形、長さ約2.5mm。脱落したものが葯と茎の間に引っかかっている。
  葯は8個、長さは花糸と同長で約2mm。萼片は三角状卵形で微小。

Fig.12 花茎の下方の雌花群。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)

Fig.13 雌花。(兵庫県三田市・溜池 2013.9/27)
  花弁はなく、子房はやや鐘状で4個の溝があり、長さ約1mm。柱頭は白色ときに淡紅色を帯び、羽毛状。
  萼片は雄花同様、三角状卵形で微小。

Fig.14 果実をつけた花序。(兵庫県加古川市・溜池 2014.10/11)

Fig.15 果実。左は側面から、右は上から見たもの。(兵庫県加古川市・溜池 2014.10/11)
  果実は熟すと長さ約2mmとなり、卵形、花柱は宿存し、完全に熟すと4分果に分離する。
  果実の背面に硬い突起の並ぶものは変種トゲホザキノフサモ(var. muricatum)とされることがある。

Fig.16 陸生形。(滋賀県・湖岸 2007.11/4)
  生育域が減水などにより陸地化すると、陸生形となって適応する。
  陸生形では茎は沈水形のものよりもしっかりとしてやや硬くなり、茎下部から分枝して、葉の裂片は幅広く、短くなる。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.17 水路に生育するホザキノフサモ。(西宮市・農業用水路 2015.10/17)
武庫川から取水した流速の強い農業用水路に、エビモ、オオカナダモと混生していた。
現在では武庫川下流域でホザキノフサモは生育していないが、この水路内のものは武庫川に生育していたものの名残だろう。
武庫川下流域の水路内では本種のほかササバモ、ヒルムシロ、ヤナギモ、エビモ、ナガエミクリ、オオトリゲモなどが見られ、
かつての自然豊かだった武庫川下流の様子を彷彿とさせる。

他地域での生育環境と生態
Fig.18 河川に群生するホザキノフサモ。(滋賀県・河川 2008.9/8)
分枝した茎の先端は赤味を帯びて、花茎が伸びはじめる直前だった。

Fig.19 汽水湖に群生するホザキノフサモ。(兵庫県豊岡市・汽水湖 2011.7/27)
汽水湖というよりも厳密にいえば、上げ潮時に塩水の流入する河川河口部にある潟状の池に生育している。
毎日、一定な水量の増減あるため、干潮帯に生育するものは小型化した気中葉を生じている。

Fig.20 湖岸の浅水域に生育するホザキノフサモ。(滋賀県・湖沼 2011.7/27)
琵琶湖の水深1m付近に生育している個体で、ヒロハノエビモやオオササエビモなどとともに生育している。
ホザキノフサモは水深2m付近で最も密度の濃い群落をつくり、帯状に群生し、水中茎を水面に向かって長く伸ばしている。

Fig.21 湧水の流入する住宅街の水路に生育するホザキノフサモ。(滋賀県・水路 2011.9/27)
琵琶湖周辺では湧水の流入する水路が多く、湖東一帯にはそのような水路でホザキノフサモが多く生育している。
この水路内ではホザキノフサモとともにエビモ、センニンモ、コカナダモ、ナガエミクリ、ネジレモなどが生育していた。

Fig.22 海岸近くの止水河川に生育するホザキノフサモ。(兵庫県赤穂市・河川 2013.8/8)
海へと流入する河川の堰き止められた止水域にガガブタ、マツモなどとともに成育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. ホザキノフサモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 48〜49. 北隆館
角野康郎, 1994 アリノトウグサ科フサモ属. 『日本水草図鑑』 133〜138. 文一統合出版
北川政夫, 1982. アリノトウグサ科フサモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.270〜271. pls.246〜247. 平凡社
村田源, 2004 アリノトウグサ科フサモ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.35〜36. pl.10. 保育社
内山寛. 2001. フサモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 178〜183. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ホザキノフサモ. 『六甲山地の植物誌』 164. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ホザキノフサモ. 『近畿地方植物誌』 63. 大阪自然史センター
大滝末男, 1984. 日本産アリノトウグサ科の水草について. 水草研究会会報 17:6〜7.
青木雅夫, 1985. 水生植物フサモ属の異形葉の発現機構とその生態的意義(要旨). 水草研究会会報 21:4〜6.
布施静香・角野康郎・黒崎史平 2003. ホザキノフサモ. 兵庫県産維管束植物5 アリノトウグサ科. 人と自然14:149. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:22nd.Jul.2016

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