ハリマノフサモ | Myriophyllum harimaense Sakiyama & Kadono | アリノトウグサ科 フサモ属 |
水生植物 > 沈水植物 |
Fig.1 (兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 湖沼、溜池、河川など主に中栄養〜やや富栄養でアルカリ性の水域に生育する多年生の沈水植物。 フサモとオグラノフサモの中間的な形質が見られ、両種の種間雑種であると推定されている。 今のところ、フサモ、オグラノフサモ、ハリマノフサモは殖芽を調べることのみによって区別できる。 フサモ(M. verticillatum)はオグラノフサモに酷似するが、殖芽は1.5〜3cmの太く短い根棒状で、殖芽葉は羽毛状、裂片間は広く隙間が開く。 貧栄養または腐植栄養質な水域に生育する。 オグラノフサモ(M. oguraense)はフサモに酷似し、殖芽は長さ2.5〜8cmの細長い棒状で、殖芽葉は板状、裂片の幅が広く、裂片間はV字状となり狭い。 中栄養〜やや富栄養でアルカリ性の水域に生育する。 ホザキノフサモ(M. spicatum)の葉は茎側に湾曲する傾向が強く、花茎には気中葉をつけない。 また、種子と根茎、またはそのまま越冬し殖芽はつくらない。 タチモ(M. ussuriense)は貧栄養〜中栄養な溜池の浅水域や水辺に見られ、沈水葉は羽状に細裂してきわめて繊細で、羽片は10個以下。 花は抽水〜陸生形の水上茎の葉腋につき、雌雄異株。 オオフサモ(M. aquaticum)は南米原産の帰化植物で、主に抽水状態で生育し、葉は5〜6輪生することで他種と見分けられる。 各地で大繁殖して猛威を振るい駆除も難しいため、現在では特定外来種に指定され栽培・移動などが禁じられている。 近似種 : ホザキノフサモ、 フサモ、 オグラノフサモ タチモ、 オオフサモ ■分布:本州、四国、九州 ■生育環境:湖沼、溜池、河川、水路。 ■花期:7〜9月 ■西宮市内での分布:市内には分布しない。最近、兵庫県下でオグラノフサモとされていたものの多くが本種であると解った。 |
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↑Fig.2 沈水形。(兵庫県三田市・溜池 2010.9/2) 柔らかい羽状裂葉が水中茎に輪生してつく。 |
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↑Fig.3 葉は4〜5輪生する。(兵庫県三田市・溜池 2010.9/2) |
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↑Fig.4 羽状裂葉の拡大。(兵庫県三田市・溜池 2010.9/2) 裂片は線形、平滑、先は鈍頭。ホザキノフサモのように裂片の先は中軸に向かって内曲しない。 |
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↑Fig.5 水面上に花序をあげたハリマノフサモ。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 花序には気中葉が輪生し、上部には雄花が、下部には雌花がつく。雌性先熟。 |
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↑Fig.6 花序の拡大。(兵庫県三田市・干上がった溜池畔 2010.9/2) 下方には雌花が開花中で、上部には雄花のつぼみが沢山見える。気中葉は粉白色を帯びる。 |
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↑Fig.7 花序の気中葉。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) フサモの気中葉のような光沢は見られない。 |
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↑Fig.8 気中葉の表面拡大。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 葉面には微細な半透明の突起があるため、葉は粉白色を帯びて見える。 |
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↑Fig.9 雄花群。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 花は各葉腋に単生する。右のものはつぼみと開花直前のもの。中は開花中で葯が開き、花弁は落ち始めている。 左のものは葯裂開後のもので、葯が橙黄色に変わりつつある。 |
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↑Fig.10 雌花群。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 雄花と同じく各葉腋に単生する。萼筒の先に柱頭が外返気味に4個つく。萼裂片は三角状でごく小さい。 |
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↑Fig.11 開花中の雄花(上)と雌花(下)。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) |
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↑Fig.12 未熟な分果。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 萼筒先端の柱頭は宿存する。水上に見られた分果はいずれも未熟なもので、熟したと思われるものは水中にあって萼筒が溶けていた。 |
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↑Fig.13 花茎の横断面。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) |
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↑Fig.14 水中茎の横断面。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 花序の茎よりも気室の面積が多くなる。表面についている毛状のものは藻類。 |
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↑Fig.15 殖芽を形成しつつある個体。(兵庫県宝塚市・溜池 2010.9/7) 秋期になると、主茎とは別に分枝した枝先に殖芽を形成しはじめる。殖芽はフサモと較べるとはるかに長い。 |
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↑Fig.16 殖芽。(兵庫県三田市・溜池 2010.1/20) 殖芽は2.5〜8cmの細長い棒状となるが、殖芽葉の裂片間の隙間は広く開いている。 |
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↑Fig.17 殖芽がうかぶ冬期の溜池。(兵庫県三田市・溜池 2010.1/20) 推定種間雑種であるためか、様々な大きさや長さの殖芽が現れる。 |
生育環境と生態 |
Fig.18 中栄養な溜池に生育するハリマノフサモ。(兵庫県三田市・溜池 2010.9/2) ヒシと勢力を二分するように群生していた。水中には他にミズオオバコが見られた。 |
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Fig.19 植生豊富な溜池に生育するハリマノフサモ。(兵庫県三田市・溜池 2010.9/2) 腐植栄養質でやや中栄養な溜池で見られたもの。ハリマノフサモは画像中央から左上にかけて見える。 浮葉植物はジュンサイが多く、少数のヒツジグサとホソバミズヒキモが混じる。またイヌタヌキモも生育しており、画像右に花が見える。 |
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Fig.20 灌漑用水路に群生するハリマノフサモ。(兵庫県三田市・水路 2010.9/2) 土嚢によって堰き止められ、止水域となった水路内に密な群落が見られた。 白い花は倒れ込んで開花したムカゴニンジン。ほかに水路内にはイボクサ、チゴザサが見られ、水路脇にはイヌシカクイ、キセルアザミ、ヤマイなどが見られた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大滝末男, 1980 フサモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 46,47. 北隆館 角野康郎, 1994 アリノトウグサ科フサモ属. 『日本水草図鑑』 133〜138. 文一統合出版 北川政夫, 1982. アリノトウグサ科フサモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.270〜271. pls.246〜247. 平凡社 村田源, 2004 アリノトウグサ科フサモ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.35〜36. pl.10. 保育社 内山寛. 2001. フサモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 178〜183. 神奈川県立生命の星・地球博物館 村田源. 2004. オグラノフサモ. 『近畿地方植物誌』 63. 大阪自然史センター 大滝末男, 1984. 日本産アリノトウグサ科の水草について. 水草研究会会報 17:6〜7. 角野康郎, 1985. 兵庫県東播磨地方の水生植物追記(1). 水草研究会会報 19:9〜10. 布施静香・角野康郎・黒崎史平 2003. オグラノフサモ. 兵庫県産維管束植物5 アリノトウグサ科. 人と自然14:149. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:21st.May.2014 |