タチモ Myriophyllum ussuriense  (Regel) Maxim. アリノトウグサ科 フサモ属
抽水〜沈水植物  環境省準絶滅危惧種
Fig.1 (兵庫県加西市・溜池 2008.11/2)

Fig.2 (兵庫県三田市・溜池 2009.10/16)

貧栄養〜中栄養な溜池、湖沼などに生育する多年草。水位にあわせて沈水形、抽水形、陸生形と多様な生育形態を見せる。
地下にはやや節間の短い根茎があり、節から1〜数個の茎をたちあげる。
水中では茎の長さ20〜60(〜100)cm、陸生形では高さ5〜15cm。
葉は下部は対生、上部は3〜4輪生。沈水葉は羽状に細裂し、長さ15〜25mm、裂片は10個以下で繊細。
気中葉、陸生葉は線形、または羽状で、長さ4〜10mm。
雌雄異株で、花は気中葉の葉腋に単生する。萼片は4個で微細。
雄花は花弁4個で淡紅色、雄蕊8個。雌花は短い萼筒先端に白毛を密生した柱頭を4個つける。
果実は石果で卵円形、背面に小さないぼ状突起をつけ、浅い4溝があり、長さ約0.7mm、幅約0.5mm。
冬期、陸生形のものは殖芽を形成する。殖芽は細長く赤色、長さ6〜20mm、径1.5〜2mm。
沈水形では、一部がそのまま越冬する。

フサモ属には他に4種がある。
フサモ(M. verticillatum)は山間の溜池など貧栄養な水域に生育する。葉は4〜5輪生。花茎には気中葉をつけ、上部には雄花を、下部に雌花をつける。
冬期は長さ1.5〜3cmの根棒状の殖芽を形成して越冬する。殖芽葉は羽毛状で、裂片は細長く、裂片間は広く空く。
オグラノフサモM. oguraense)は中〜やや富栄養でアルカリ性の湖沼、溜池、水路などに生育する。花茎はフサモと同様であり、フサモとは殖芽で見分ける。
殖芽は6〜8cmの長い根棒状で、殖芽葉は板状で、裂片の幅は広く、裂片間はV字状となる。
ホザキノフサモM. spicatum)は湖沼、河川、溜池などに生育する。葉は4輪生。花茎には気中葉をつけず、上部に雄花、雌花がつく。殖芽をつくらない。
オオフサモM. aquaticum)は南米原産の帰化植物で、主に抽水状態で生育し、葉は5〜6輪生することで他種と見分けられる。
各地で大繁殖して猛威を振るい駆除も難しいため、現在では特定外来種に指定され栽培・移動などが禁じられている。
近似種 : フサモハリマノフサモオグラノフサモホザキノフサモオオフサモ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国、ロシア東部、北米北部
■生育環境:貧栄養の溜池、湖沼など。
■花期:6〜10月
■西宮市内での分布:兵庫県内には多産する自生地が多いが、西宮市内では見られない。

Fig.3 雄花。(兵庫県加東市 2010.8/8)
  上から開花直前のもの、開花中のもの、葯が開ききっているもの。雄蕊は8個。
  図鑑では花弁は淡紅色とあるが、ここに生育しているものは淡緑色〜白色であり、紅色の色素は欠いていた。
  最上段のものはつぼみの内側の葯が透けて見えている。

Fig.4 雌花。(自宅植栽 2007.6/12)
  雌花には花弁はなく、萼筒先端部に4個の白毛が密生する柱頭がつき、風媒花の様相である。
  同所的に雄株が成育していなければ、受粉は難しいだろう。
  これまで観察した自生地では雌株のみの場所が圧倒的に多く、雌雄両株が生育している場所はまだ見たことが無い。
  タチモの果実に関する資料は少なく『日本の野生植物 草本編 2』と『日本水生植物図鑑』に記述が見られるのみである。
  果実の詳細な観察が課題として残った。

Fig.5 沈水状態で生育するタチモ。(兵庫県加東市・溜池 2010.8/8)
  水位変動のある溜池では多様な生育形態で適応する。画像は沈水形。

Fig.6 沈水形。(愛知県・溜池 2005.10/13)
  沈水形は黄褐色を帯び、頂芽は赤褐色を帯びる。葉は細裂し、繊細な感じを受ける。

Fig.7 水槽内で育成中のタチモ。(自宅植栽 2005.11/25)
  やや水質にうるさいが、水質が合えば水槽内での育成は容易である。
  画像左後方に見えるキクモや、同属のフサモに比べて生長速度はゆっくりとしている。

Fig.8 沈水葉の葉身。(兵庫県加東市・溜池 2008.1/20)
  葉身は繊細な羽状裂葉で、裂片は非常に細い。中央脈は明瞭。
  側小片は気中葉と同様、中央脈に互生してつき、頂小片は側小片よりもやや幅が広い。
  頂小片、側小片ともに鋸歯や突起は見られない。

Fig.9 沈水葉の側小片先端の拡大。(兵庫県加東市・溜池 2008.1/20)
  沈水葉の側小片には1脈があり、先端部には黒腺らしきものがある。
  この黒腺は、中央脈から延長した頂小片の先端には見られない。

Fig.10 茎の横断面。(兵庫県加東市・溜池 2008.1/20)
 

Fig.11 冬期に採取した沈水形のタチモ。(兵庫県加東市・溜池 2008.1/20)
  沈水形のものは、冬期にも一部がそのまま越冬し、殖芽はつくらず、頂芽は赤味が強くなる。
  画像のものは、茎下部に気中葉の名残りが見られ、秋期に溜池が渇水した後、冬に降り続いた雨で満水になった経緯をとどめている。
  沈水葉を出し始めた部分から、茎は細くなっているのがわかる。これは浮力によって、茎で草体を支える必要がなくなったためだろう。

Fig.12 晩秋の陸生形のタチモ。(兵庫県三田市・溜池 2007.11/25)
  晩秋になると赤く色づき、冷気を避けるように茎は地表に倒れ込み、葉先だけが上を向いて伸びる。
  基部付近の分枝した枝先には多数の殖芽が形成されており、陸生形の場合、冬期は殖芽と根茎で越冬する。

Fig.13 ヨシの根元を埋め尽くした冬枯れのタチモ群落。(兵庫県加西市・溜池畔 2007.1/17)
  冬枯れた親株の下で殖芽は保護され、霜が降りたとしてもダメージを受けにくい。

Fig.14 春期に浮き上がった沈水形の茎の殖芽から生じた気中葉。(兵庫県三田市・溜池 2007.4/15)
  春には、このような状態の切れ藻が岸辺に多数吹き寄せられて、浅瀬に新芽が定着する。
  まだ殖芽のままで、生長を開始していないものも見える。

Fig.15 湧水のある池畔で春先に生育をはじめたタチモ。(兵庫県三田市・溜池 2008.3/20)
  湧水が微量に流れる池畔に生えたタチモは、殖芽を形成せず、葉を展開しない矮小化した越冬芽状で常緑のまま越冬する。
  早春になると、越冬芽は伸びはじめ、気温が上がると気中葉を展開しはじめる。
  画像のものは茎の下方から気中葉を展開しはじめている。

生育環境と生態
Fig.16 溜池畔に定着し、陸生形で生育するタチモ。(愛知県・溜池畔 2005.6/21)
  池中にはタチモの発達した沈水群落があり、打ち上げられた切れ藻の茎の節から、あるいは殖芽から新たに陸生形の茎を生じる。

Fig.17 干上がった溜池畔のタチモ。(兵庫県三田市・溜池 2007.11/25)
Fig.10 と同じ溜池のものだが、この場所のタチモは根際に殖芽を形成しつつも、さほど紅葉していない。
ここでは湧水が滲み出していて、地中の温度はあまり下がらないのだろう。
マツバイはまだ小穂を出しており、湧水が表面を流れる付近ではミミカキグサが開花中だった。
画像中にはヌメリグサ(出穂していない)、メリケンムグラ、サワトウガラシが見られるほか、ホシクサ科の合生萼節のものが3種、
コツブヌマハリイ、ミズニラ、ヒナザサなどの湿生植物が多く、フラスコモsp.などの淡水藻類も見られる。

Fig.18 減水した溜池畔で陸生状態のタチモ。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/19)
秋期に水の引いた溜池畔ではときに陸生形のタチモがマット状の群落をつくる。
点々と見られる痩せたタコ足状のものは、減水により岸辺に取り残されたガガブタの殖芽。

Fig.19 溜池で群生するタチモ。(兵庫県姫路市・溜池 2011.10/2)
やや中栄養な溜池の土堤側1/2をタチモの密な群生が覆っていた。
水面に見えるのはノタヌキモで、浅水域ではクログワイ、ヤナギタデ、ヒナザサ、アゼスゲ、タチスゲが生育し、溜池畔ではヌマガヤ、
アブラガヤ、コマツカサススキ、ヒメヒラテンツキ、サワシロギク、サワギキョウなどが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大滝末男, 1980. タチモ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 50,51. 北隆館
角野康郎, 1994 アリノトウグサ科フサモ属. 『日本水草図鑑』 133〜138. 文一統合出版
北川政夫, 1982. アリノトウグサ科フサモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.270〜271. pls.246〜247. 平凡社
村田源, 2004 アリノトウグサ科フサモ属. 北村四郎・村田源 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.35〜36. pl.10. 保育社
牧野富太郎, 1961 タチモ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 429. 北隆館
内山寛. 2001. フサモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 178〜183. 神奈川県立生命の星・地球博物館
浜島繁隆, 2001. タチモ. 浜島繁隆・土山ふみ・近藤繁生・益田芳樹 (編)『ため池の自然』 p.78. 信山社サイテック
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. タチモ. 『六甲山地の植物誌』 164. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. タチモ. 『近畿地方植物誌』 63. 大阪自然史センター
大滝末男, 1984. 日本産アリノトウグサ科の水草について. 水草研究会会報 17:6〜7.
布施静香・角野康郎・黒崎史平 2003. タチモ. 兵庫県産維管束植物5 アリノトウグサ科. 人と自然14:149. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:21st.May.2014

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