ヒメミクリ Sparganium subglobosum  Morong. ミクリ科 ミクリ属
抽水植物  環境省準絶滅危惧(NT)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)

Fig.2 (三重県志摩地方・湧水河川 2015.8/9)

湖沼、溜池、湿原などに生育する多年生の抽水〜湿生植物。
泥中に走出枝をのばして先端に新芽をつくり、栄養繁殖する。走出枝はふつうナガエミクリよりも細い。
全高40〜90cm。葉は幅2〜6(〜10)mmで、背面に稜があり断面は3角状。
花序は分枝しないものと、分枝するものがあり、分枝しないものでは2〜4個の雌性頭花は全て軸に着生し、下部の苞から分枝するものは、
枝に0〜2個の雌性頭花と、数個の雄性頭花が着生する。主軸に付く雄性頭花は5〜11個。
果実は長さ4〜5mm、幅2〜3mm、倒卵形で、先端は長さ1〜2mmの嘴を除けばドーム状に低く盛り上がった形となる。

ミクリ属のものはいずれの種もよく似ており、詳しくはナガエミクリの項を参照されたい。
近似種 : ミクリナガエミクリヤマトミクリオオミクリ

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ 東アジア、インド、オーストラリア、ニュージーランド
■生育環境:湖沼、溜池、湿原など。
■花期:6〜9月
■西宮市内での分布:市内では見られない。近年では兵庫県内でも激減している。

Fig.3 全草標本。(兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)
  植物体基部から袴状に互生葉を出す。花序は分枝しないものと、下方の苞から枝を出すものがある。
  画像のものでは花茎最下の苞から枝を出している。

Fig.4 葉幅と葉先の拡大。(兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)
  葉は幅2〜6(〜10)mmで、他の兵庫県産ミクリ類に比べて細い。葉先は近似種同様、鈍頭となる。

Fig.5 葉の横断面。(兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)
  横断面は3角状で背面に稜がある。これはミクリ類共通の特徴。

Fig.6 花序。(兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)
  花序は分枝しないものと、下方の苞から枝を出すものがある。画像は分枝しているもの。
  花序主軸の上部には小さな雄性頭花がやや接近して着生し、下部には雌性頭花がやや離れてつく。
  分枝した枝には雄性頭花のみが着生していた。

Fig.7 雌性頭花。(兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)
  雌性頭花には柄はなく、苞葉の上に直に着生する。
  腋上性のヤマトミクリでは柄の全部または一部が主軸と合着するため、苞葉は頭花の間についているように見える。
  ナガエミクリでは花茎は分枝せず、下方の1〜2個の雌性頭花に柄がある。

Fig.8 果実形成期の雌性頭花。(兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)
  雌性頭花は花後、径1.5〜2cm程度になる。

Fig.9 果実。(兵庫県阪神地方・水路 2013.10/22)
  果実は長さ4〜5mm、幅2〜3mm、倒卵形で、先端は長さ1〜2mmの嘴を除けばドーム状に低く盛り上がった形となる。
  近似種のミクリ類はいずれも紡錘形となるため、果実期のものは区別しやすい。
  果実基部についているのは花披片で、ふつう3個まれに4〜5個、くさび形で、先には細かい鋸歯がある。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 湿原で生育するヒメミクリ。(兵庫県播磨地方・湿原 2013.7/15)
イヌシカクイとチゴザサが優占する湿原にヒメミクリが点在していた。
この湿原は有志によって管理されているが、イヌシカクイの繁茂によって裸地が減少し、次第に遷移が進みつつある。
わずかに見られる裸地ではサギソウ、トキソウ、ムラサキミミカキグサ、モウセンゴケなどが生育し、湿原内にはアオコウガイゼキショウ、
コウガイゼキショウ、コウガイゼキショウ、アブラガヤsp.、ウシノシッペイ、アギスミレ、ヒメシロネ、スイラン、キセルアザミなどが見られた。
この湿原でヒメミクリをはじめとした稀少種を残すには、イヌシカクイの繁茂をくい止める必要があると思うが、選択的な駆除は大変な作業となるだろう。

Fig.11 水路内で生育するヒメミクリ。(兵庫県阪神地方・水路 2013.10/22)
溜池跡の横を流れる素掘りの水路内にヒメミクリが生育していた。
かつては溜池内にも生育していたものだが、水がなくなってからはアシ原となり、溜池跡からは姿を消したという。
横を流れる水路内にミゾソバ、ヤノネグサ、アメリカセンダグサ、ヌマトラノオに混じってわずかに生き残っている。

Fig.12 湧水河川で生育するヒメミクリ。(三重県志摩地方・小河川 2015.8/9)
湿原状となった休耕田の間を流れる湧水の流入する小河川にヒメミクリの群落が見られた。
湧水河川内にはナガエミクリ、ヒルムシロ、コカナダモ、イボクサ、ヤナギタデ、オオバタネツケバナ、ミズハコベ、ヒメコウホネ、
ミズトラノオ(画像右)などが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982 ミクリ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       p.142〜143. pl.123〜124. 平凡社
北村四郎, 2004 ミクリ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.418〜421. pl.108. 保育社
角野康郎, 1994. ミクリ科ミクリ属. 『日本水草図鑑』 pp.77〜84. 文一統合出版
大滝末男, 1980. ヒメミクリ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 254〜255. 北隆館
内山寛. 2001. ミクリ科. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 389〜391. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヒメミクリ. 『六甲山地の植物誌』 241. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヒメミクリ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター
角野康郎. 2008. ヒメミクリ. 兵庫県産維管束植物10 ミクリ科. 人と自然19:221. 兵庫県立・人と自然の博物館
久米修, 2008. 香川県のミクリ属. 水草研究会会報 90:20〜23.
井上尚子. 2009. 日本の野生植物栽培記録1 -ミクリ属の生態的特徴について-. 広島市植物公園栽培記録 30:14-17. 広島市植物公園

最終更新日:4th.Aug.2016

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