ヤマトミクリ Sparganium fallax  Graebn. ミクリ科 ミクリ属
抽水植物  環境省準絶滅危惧(NT)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県三田市・湿地 2007.6/21)

Fig.2 (兵庫県篠山市・溜池 2011.7/13)

湖沼、溜池、河川、流れの緩い水路、湿地などに生育する多年生の抽水植物。流水域ではやや稀。
泥中に走出枝をのばして先端に新芽をつくり、栄養繁殖する。走出枝はしっかりしており、ナガエミクリよりも太く硬い。
全高50〜120cm。葉は幅10〜20mmで、背面に稜があり断面は3角状。
花序は分枝しせず、上方に4〜8個の雄性頭花が、下方に3〜6個の雌性頭花が互いにやや離れてつき、
雌性頭花の柄の全部または一部が主軸と合着する腋上性である。
合着する頭花柄が長いと、合着部が上の節まで達し、苞の反対側に頭花が付いているように見える。また雄性頭花と雌性頭花は1cm以上離れてつく。
雌性頭花のつく部分は主軸がジグザグ状に屈曲していることが多い。
果実期の雌性頭花の径は嘴状の柱頭部を除いて15〜20mmになる。果実は紡錘形で長さ5〜6mmで、中央部がくびれる。

ミクリ属のものはいずれの種もよく似ており、詳しくはナガエミクリの項を参照されたい。
近似種 : ミクリナガエミクリヒメミクリオオミクリ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州 ・ インド、ミャンマー
■生育環境:湖沼、溜池、河川、水路、湿地など。
■花期:6〜9月
■西宮市内での分布:市内では見られない。兵庫県内では東播磨、北摂、丹波南部が分布の中心域となる。

Fig.3 全草標本。(兵庫県篠山市・小池 2009.7/10)
  茎の基部は袴状に互生葉を出す。花序は単一で分枝しない。葉は背面に稜があり、断面は3角状。

Fig.4 根茎と地下部の根。(兵庫県篠山市・小池 2009.7/10)
  地下には径4mm前後の地下茎を横走し、茶褐色のひげ根を多数出す。

Fig.5 雄性頭花。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/21)
  花序の上部には雄性頭花がやや接近して、主軸に着生する。

Fig.6 雌性頭花は腋上性。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/21)
  雌性頭花は花序の下方にやや離れてつく。
  雌性頭花の柄の全部または一部が主軸と合着するため、苞葉は頭花の間についているように見える。
  合着する頭花柄が長い場合、合着部が上の節まで達し、苞の反対側に頭花が付いているように見える。

Fig.7 果実形成期の雌性頭花。(兵庫県三田市・溜池 2007.6/21)
  花後、雌性頭花は径1.5〜2cmとなる。

Fig.8 雌性頭花の一部拡大。(兵庫県篠山市・小池 2009.7/10)
  果実は両端が急に狭まる紡錘形で、長さは5〜6mm、中央部はくびれ、膜質さじ形で長さ4.5mmの4個の花被片が周囲につく。
  花柱は柱頭とともに嘴状にとがり、ややもろく折れやすい。

Fig.9 早春の溜池の個体群。(兵庫県三田市・溜池 2007.3/10)
  冬には果実を付けていた抽水形の株は立ち枯れ、浮葉〜沈水状態で越冬(兵庫県の例)。
  池面が氷結すると、おそらく浮葉の大半は枯れると思われるので、沈水状態で越冬するとするのが正しいかもしれない。

Fig.10 湧水のある湿地で越冬から覚めつつあるヤマトミクリ。(兵庫県三田市・湿地 2007.3/10)
  湧水の影響によるものなのか、ここでは多数の個体が常緑越冬していた。

Fig.11 ヤマトミクリの葉を後食するキンイロネクイハムシ。(兵庫県三田市・湿地 2007.6/21)
  幼虫・成虫ともにミクリ類に依存する。特に幼虫はミクリ類の根茎をホストとすることで知られる。
  自生地からミクリ類が消滅することは、この小さなハムシの消滅も意味する。
  キンイロネクイハムシは日本固有種であり、兵庫県RDB C種。

他地域での生育環境と生態
Fig.12 溜池で抽水状態で群生するヤマトミクリ。(兵庫県三田市・溜池 2007.6/21)
フトヒルムシロ、ヒツジグサ、ミズユキノシタがわずかに混じるヤマトミクリの純群落。Fig.8 と同一の場所。

Fig.13 山際の小さな池で密集して生育するヤマトミクリ。(兵庫県篠山市・小池 2009.7/10)

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982 ミクリ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       p.142〜143. pl.123〜124. 平凡社
北村四郎, 2004 ミクリ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.418〜421. pl.108. 保育社
角野康郎, 1994. ミクリ科ミクリ属. 『日本水草図鑑』 pp.77〜84. 文一統合出版
大滝末男, 1980. タマミクリ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 256〜257. 北隆館
内山寛. 2001. ミクリ科. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 389〜391. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤマトミクリ. 『六甲山地の植物誌』 241. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヤマトミクリ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター
角野康郎. 2008. ヤマトミクリ. 兵庫県産維管束植物10 ミクリ科. 人と自然19:221. 兵庫県立・人と自然の博物館
市川貴美代・森本幸裕. 2000. 移植によるヤマトミクリ群落の復元に関する研究. 日本緑化工学会誌 25(4):537〜538.
久米修, 2008. 香川県のミクリ属. 水草研究会会報 90:20〜23.
井上尚子. 2009. 日本の野生植物栽培記録1 -ミクリ属の生態的特徴について-. 広島市植物公園栽培記録 30:14-17. 広島市植物公園
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木元新作, 1984. キンイロネクイハムシ.林匡夫・森本桂・木元新作(編) 『原色日本甲虫図鑑(W)』 pls.29. pp.151. 保育社
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最終更新日:20th.Nov.2011

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