ナガエミクリ Sparganium japonicum  Rothert ミクリ科 ミクリ属
抽水植物  環境省準絶滅危惧(NT)・兵庫県RDB Cランク種
Fig.1 (兵庫県三田市・溜池 2007.9/16)

湖沼、溜池、河川や用水路などに生育する多年草。抽水〜浮葉、沈水状態まで見られる。
根茎は短く、地下に長い走出枝を出して群生することが多く、高さ70〜130cm。
葉は幅5〜14mm、抽水葉では背稜が顕著で断面は三角状、浮葉や沈水葉では背稜は目立たない。
花序は分枝せず、上部には雄性頭花が4〜9個、主軸に着生して接近してつき、下部では雌性頭花が3〜7個つく。苞は花序よりも長い。
雌性頭花のうち、少なくとも下側の1〜3個は長さ7〜50mmの柄があり、主軸とは合着しない(腋性)。
雌性頭花は果時には径1.5〜2cmになり、上部の頭花は接近する。
果実は紡錘形で長さ4〜6mm、幅約2mm、全体に流線形で他種の果実に比べて細長く、先端は嘴状にとがる。

ミクリ科ミクリ属のものは同定の難しいものが多く、花序の観察が必須となる。以下に近縁種とその特徴を列記。
ミクリS. erectuma)は葉幅7〜20mm。花序枝は3本以上(ふつう5本以上)。果時の頭花2〜3cm。果実は紡錘形で長さ6〜8mm(嘴を除く)、
幅3〜6mm、断面は3〜6角形、上部がドーム状に円く盛り上がる。西日本ではやや稀。
オオミクリS. eurycarpum subsp. coreanum)は果実が際立って幅広く、長さ5〜9mm、幅5〜8mm、上部は低いドーム状。本州に稀産。
ヤマトミクリS. fallax)は葉幅3〜20mm。花序は分枝せず、下側には3〜6個の雌性頭花がやや離れて付き、柄の全部または一部が
主軸と合着する(腋上性)。果実は紡錘形で長さ5〜6mm、中央部がくびれる。東日本では稀。
エゾミクリS. emetsum)は、葉幅5〜16mmでナガエミクリに似るが、花柱と柱頭の長さが3〜4mmと長く、花柄と主軸が合着する
腋上性の雌性頭花が多い。分布は中部以北。
タマミクリS. glomeratum)は葉幅5〜16mm、背稜は他種はど顕著ではない。雄性頭花は1〜2個と少なく、雌性頭花と接近して付く。
花柱と柱頭の長さ約2mm。果実は紡錘形で長さ3〜5mm、中央部付近でくびれる。分布は中部以北。
ヒメミクリS. subglobosum)は葉幅2〜6mm。花序が分枝せず、頭花が全て着生するものと、下部の苞の腋から1〜2本の短い枝が
出るものとがあり、分枝した枝には0〜2個の雌性頭花と、数個の雄性頭花がつく。果実は長さ4〜5mm、幅2〜3mm、倒卵形で、
嘴を除くとドーム状に低く盛り上がった形となる。日本全土に分布。
ナガエミクリを含めた以上の種は、生育環境の破壊や改変、水質の悪化、自生地の管理放棄などによって各地で激減している。
近似種 : ヤマトミクリミクリオオミクリヒメミクリ、 エゾミクリ、 タマミクリ

■分布:北海道(南西部)、本州、四国、九州 ・ アジア極東地域。
■生育環境:湖沼、溜池、河川や用水路など。
■花期:6〜9月
■西宮市内での分布:分布しない。

Fig.2 花序。(兵庫県三田市・溜池 2007.9/16)
  花序の上部には雄性頭花がやや接近して、主軸に着生し、下部には雌性頭花が付く。

Fig.3 雌性頭花の付き方。(兵庫県三田市・溜池 2007.9/16)
  下側の1〜3個は長さ7〜50mmの柄があり、主軸とは合着しない。雌花の花柱と柱頭の長さは約2mm。

Fig.4 果実期の花序。(滋賀県・水路 2007.11/4)
  雄性頭花は落脱し、上部の雌性頭花は接近する。

Fig.5 果時の雌性頭花。(兵庫県三田市・溜池 2007.9/16)
  径2cmほどになる。

Fig.6 浮葉状態のナガエミクリ。(滋賀県・小河川 2007.11/4)
  水深のある場所では葉身は1mを超えて、浮葉状となる。

Fig.7 ナガエミクリの冬期の地下部。(兵庫県三田市・溜池 2007.2/4)
  地下で長い走出枝を伸ばし、先端に新芽をつけ、そこから発根する。

生育環境と生態
Fig.8 溜池で群生するナガエミクリ。(兵庫県三田市・溜池 2007.8/23)
溜池の一画を広く占有しているが、開花するものは数少ない。
画像に見られる浮葉植物はオグラコウホネとヒツジグサ。他にミズニラ、イトモ、ホッスモ、ヒロハトリゲモ、ヒメホタルイ、カンガレイ、
マツバイ、オオハリイ、サワトウガラシ、ニッポンイヌノヒゲなど豊富な植生が見られる。

Fig.9 河川の流水域で生育するナガエミクリ。(滋賀県・河川 2007.11/8)
湧水の流入があると思われる河川内に生育する。ナガエミクリはこのような流水域で目にすることが最も多い。
河川内にはクロモ、オオカナダモ、オヒルムシロ、ササバモなどが見られた。

Fig.10 湧水河川で沈水形の純群落をつくるナガエミクリ。(滋賀県・河川 2008.9/8)
混生するものはわずかにエビモが見られる程度で、見事な純群落となっていた。河床の泥中では横走する根茎がマット状に発達している。
この河川の上流部ではバイカモ、ササバモ、エビモ、センニンモ、ミズハコベなどとの混生が見られる。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
山下貴司, 1982 ミクリ科. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)『日本の野生植物 草本T 単子葉類』
       p.142〜143. pls.123〜124. 平凡社
北村四郎, 2004 ミクリ科. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.418〜421. pls.108. 保育社
角野康郎, 1994. ミクリ科ミクリ属. 『日本水草図鑑』 p.77〜84. 文一統合出版
大滝末男, 1980. ヒメミクリ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 254〜255. 北隆館
内山寛. 2001. ミクリ科. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 389〜391. 神奈川県立生命の星・地球博物館
角野康郎. 1998. ミクリ. 矢原徹一(監修)『絶滅危惧植物図鑑 レッドデータプランツ』 471. 山と渓谷社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ナガエミクリ. 『六甲山地の植物誌』 241. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ナガエミクリ. 『近畿地方植物誌』 153. 大阪自然史センター
石居天平, 2006. ミクリ(広義)の分類と生態 -環境修復・保全生態の基礎情報として-. 水草研究会会報 85:1〜11.
角野康郎 2008. ナガエミクリ. 兵庫県産維管束植物10 ミクリ科. 人と自然19:221. 兵庫県立・人と自然の博物館
久米修, 2008. 香川県のミクリ属. 水草研究会会報 90:20〜23.
井上尚子. 2009. 日本の野生植物栽培記録1 -ミクリ属の生態的特徴について-. 広島市植物公園栽培記録 30:14-17. 広島市植物公園

最終更新日:17th.Jan.2011

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