ヒメタヌキモ Utricularia minor  L. タヌキモ科 タヌキモ属
浮遊〜沈水植物  環境省準絶滅危惧種(NT)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)

Fig.2 (兵庫県摂津地方・溜池 2011.9/14)

貧栄養な溜池、湿地の水路などに浮遊〜沈水状態で生育する小型の多年草。食虫植物。
根はなく、茎は長さ5〜30cm。植物体は水中を浮遊するか、水底の泥中に固着する。
水底に固着するものでは泥中の茎はほとんど無色で、水中茎上の捕虫嚢よりも大きく目立つ捕虫嚢をつける。
葉はまばらに互生し、細裂片が2叉状に分枝、長さ5〜15mm。開花期は夏だが、開花が見られない場所が多い。
花茎は細く、長さ5〜25cm、2〜10花をつけ、花は細長い形をした唇形花で、下唇は広卵形で径8〜10mm、距は短く円錐形。
花の色は地域によって異なり、西日本では白色〜薄桃色、北日本では淡黄色のタイプが多い。
秋になると茎頂に直径7mm以下の殖芽を形成して越冬する。
近似種 : イヌタヌキモノタヌキモフサタヌキモ、 コタヌキモ、 イトタヌキモ、 タヌキモ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 北半球の温帯〜亜寒帯地域に広く分布。
■生育環境:貧栄養な湖沼や溜池、湿地など。
■花期:8〜9月
■西宮市内での分布:分布しない。

Fig.3 全草の様子。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
  茎はまばらに分枝し、根はない。葉はまばらに互生してつく。

Fig.4 泥上に固着した草体(上)と浮遊していた草体(下)。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
  泥上に固着する草体では葉身が大きく発達し、捕虫嚢はほとんど見られない。
  浮遊するものは葉身は小さいが、それぞれの葉には捕虫嚢をつけ、まばらに側枝を出す。

Fig.5 茎上端の頂芽。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
  シュート頂の頂芽は展葉前のシダ類のように、巻散状にクルリと巻いている。

Fig.6 葉身。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
  泥上に固着した草体の葉身。葉は2叉状に細裂し、裂片は扁平、ごくまばらに鋸歯がある。

Fig.7 裂片の拡大と捕虫嚢。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
  浮遊する草体の葉身裂片の拡大。細裂片の先は刺状にとがる。
  捕虫嚢の口部には長い糸状の組織体が生える。

Fig.8 水中茎の捕虫嚢(上)と地中茎の捕虫嚢。同倍率で撮影。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
  地中茎につく捕虫嚢は大きく、痕跡的で未発達な葉身についていた。捕虫嚢と地中茎はともに色が薄い。

Fig.9 地中茎の捕虫嚢の拡大。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)


Fig.10 水中茎の横断面。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)


Fig.11 ヒメタヌキモとイヌタヌキモ小型個体の比較。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
  イヌタヌキモの栄養状態の悪い小型の草体と似るが、葉身のつき方や細裂片の幅や分裂の状態が明らかに異なる。
  イヌタヌキモやノタヌキモでは、頂芽がヒメタヌキモのように巻くことはない。

Fig.12 晩秋に殖芽を形成しはじめたヒメタヌキモ。(兵庫県播磨地方・溜池 2013.11/4)

Fig.13 茎頂に形成された殖芽。(兵庫県播磨地方・溜池 2013.11/4)
  殖芽は径7mm以下の球形で、頂芽同様にシダのフィドルヘッド状に巻き、殖芽葉の裂片は幅広くなる。
  茎が枯れる頃には褐色を帯び、分離して、多くのものは水底に沈む。

生育環境と生態
Fig.14 溜池上部の湿地の水溜りに見られたヒメタヌキモ。(兵庫県播磨地方・湿地 2008.9/22)
貧栄養な湿地にある水溜りの泥底に固着している。軟泥中に伸びる地中茎には大きな捕虫嚢を生じていた。

Fig.15 溜池の浅水域にイヌタヌキモと混生するヒメタヌキモ。(兵庫県播磨地方・溜池 2008.9/22)
画像中央から左にかけて見られる細裂片の混み入った葉身を持つものがイヌタヌキモで、それ以外はヒメタヌキモ。
ヒメタヌキモの方がイヌタヌキモよりも池底に近い場所に生育しているのが解る。
この溜池にはノタヌキモの生育も見られる。3種が同時に見られることは珍しいが、このような場所では同定に注意を要する。
池内にはサイコクヒメコウホネとフトヒルムシロ、ジュンサイが多いやや腐植栄養質の溜池で、シズイ、イヌノハノヒゲ、イトイヌノハナヒゲ、
ヒメシロネ、シロイヌノヒゲ、スイランなどが同所的に見られた。

Fig.16 溜池の浅水域に生育するヒメタヌキモ。(兵庫県摂津地方・溜池 2011.9/14)
水中画像。山際にある比較的小さな、やや中栄養気味の溜池に生育している。
ヒメタヌキモは溜池の水深5〜30cm程度のハリイsp.が優占する浅水域に、ミズユキノシタ、イボクサ、ヤナギタデ、イトイヌノヒゲなどとともに生育している。
この溜池では浮遊するイヌタヌキモも見られるが、ヒメタヌキモは浮遊するものは少なく、草体の下部を泥中に埋没させて生育しているものが多く、個体数も多い。
水深が30cmを超えるとホッスモ、イトモ、ミズオオバコが出現し、ヒメタヌキモは少なくなる。
溜池内には他にヒツジグサ、フトヒルムシロ、サイコクヒメコウホネ、わずかにヒシなどが生育している。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
田村道夫, 1981. タヌキモ科タヌキモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.137〜139. pls.112〜114. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004. タヌキモ科タヌキモ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.120〜123. pl.39. 保育社
牧野富太郎, 1961 ヒメタヌキモ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 575. 北隆館
大滝末男, 1980 タヌキモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 12〜21. 北隆館
角野康郎, 1994 タヌキモ科タヌキモ属. 『日本水草図鑑』 148〜155. 文一統合出版
勝山輝男. 2001. タヌキモ科タヌキモ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 1282〜1283. 神奈川県立生命の星・地球博物館
村田源. 2004. ヒメタヌキモ. 『近畿地方植物誌』 37. 大阪自然史センター
角野康郎 2006. ヒメタヌキモ. 兵庫県産維管束植物7 タヌキモ科. 人と自然16:115. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:2nd.Aug.2014

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