フサタヌキモ Utricularia dimorphanta  Makino タヌキモ科 タヌキモ属
浮遊植物  環境省絶滅危惧TB類(EN)・兵庫県RDB Aランク種
Fig.1 (滋賀県・溜池 2007.11/8)

Fig.2 (滋賀県・溜池 2011.8/18)

やや富栄養な湖沼や溜池、水路などに生育する多年草。
環境改変などの影響により多くの産地が消滅し、絶滅が危惧される。
茎は30〜80cm、ややまばらに分枝し、葉は長さ2〜6cm、多数の細裂片に分かれ、非常に柔らかい。
捕虫嚢はごく少数しかつけず、水槽内で育成した場合、全く捕虫嚢をつけないことがある。
花には正常花と閉鎖花の2型がある。
正常花は、水面上に伸びた7〜14cmの花茎に、3〜5個つく唇形花で、淡黄色、上唇より下唇が大きく、横に広い楕円形。
閉鎖花は水中茎の数節おきに1個づつ単生し、球状で径1〜2mm、ごく短い花柄があり、蕾の状態のまま自家受粉する。
正常花、閉鎖花ともに結実し、刮ハは球状で径2〜3mm。
殖芽は秋遅くに頂端に形成され、ほぼ球形で緑色、長さ12〜20mm、幅10〜15mm
近似種 : イヌタヌキモノタヌキモヒメタヌキモ、 コタヌキモ、 イトタヌキモ、 タヌキモ

■分布:本州
■生育環境:やや富栄養な湖沼や溜池、水路など。
■花期:7〜8月(正常花)、6〜9月(閉鎖花)
■西宮市内での分布:西宮市では見られない。兵庫県では1ヵ所のみで知られ、全国的にもきわめて稀。

Fig.3 フサタヌキモの全草の様子。(滋賀県・溜池 2007.11/8)
  タヌキモ属の中でも大型で、捕虫嚢はほとんど付けない。茎の先端には球芽が見られる。

Fig.4 葉身は基部から3〜5本に別れ、さらに多数の細裂片に別れる。(滋賀県・溜池 2007.11/8)
  非常に柔らかく、水から揚げると葉を展開しづらい。
  この個体には捕虫嚢が全く見られないが、他の個体も同様だった。

Fig.5 捕虫嚢をつけた葉。(滋賀県・溜池 2011.8/18)
  夏期、よく成長した個体の葉身に、少数の捕虫嚢がついていた。


Fig.6 小裂片(上)と葉先付近の拡大(右)。(滋賀県・溜池 2007.11/8)
  裂片は草体が柔らかいためか、一見スムーズに見えるが(上)、
  拡大すると先端に2本の刺毛(ときに1または3本)が生え、葉縁にはごくまばらに歯状突起が生じる(下)。

Fig.7 茎の先端に形成された球芽。(滋賀県・溜池 2007.11/8)
  大きさは6mm程度だが、個体によって大小があり、生育条件によって変わるものと思われる。
  11月という時期からして、殖芽になる可能性が高い。

Fig.8 フサタヌキモの殖芽。(滋賀県 2007.12/12)
  Fig.5 の個体を屋外で維持したところ、球状の頂芽だけが残り、やはり殖芽を形成していることがわかった。
  殖芽は明緑色。

Fig.9 茎の断面。(滋賀県・溜池 2007.11/8)
  中心部には髄のような組織があり、その周囲を維管束組織が取り囲む。
  その外側には隔壁に仕切られた気室が同心円状に並ぶ。

Fig.10 閉鎖花をつけた草体。(滋賀県・溜池 2008.9/8)
  フサタヌキモは花茎を上げて開花することは稀で、水中の葉腋に柄のある閉鎖花をつけることが多い。閉鎖花は球状で径1〜2mm。

Fig.11 花茎を上げたフサタヌキモ。(自宅植栽 2010.8/23)
  Fig.7の殖芽から生じた草体を維持していたところ、次の年から花茎を上げて開花する様子が観察できた。
  花序は総状で淡黄色の唇形花を3〜5個つける。花柄の基部にはごく小さな鱗片葉がある。

Fig.12 花冠。(自宅植栽 2010.8/23)
  上唇よりも下唇のほうが大きく、横に広い楕円形。ふつう距は下唇よりも短いが、画像のものは少し出ている。
  距は前方に真直ぐ伸び、有毛。

Fig.13 刮ハ。(自宅植栽 2009.9/4)
  成熟途上の刮ハ。花後、花柄は曲がって下を向き、柄は肥厚する。
  この後、刮ハは球形に充実し、花柱は宿存する。

生育環境と生態
Fig.14 浅瀬を埋め尽くすフサタヌキモ。(滋賀県・溜池 2007.11/8)
現存する自生地では、このように群生する傾向が強いようだ。
池の岸辺には無数のフサタヌキモが打ち上げられていた。

Fig.15 ヒシとともに生育するフサタヌキモ。(滋賀県・溜池 2011.8/18)
この池ではヒシとフサタヌキモが浮葉・浮遊植物群落をつくっていた。池の中央部は浅瀬になっているのか、コウホネの群落も見られた。
この池では近年雑種アゾラらしき浮草がかなり繁殖していたが、2011年度は発生が少なかった。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
田村道夫, 1981. タヌキモ科タヌキモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 p.137〜139. pls.112〜114. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 タヌキモ科タヌキモ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 p.120〜123. pls.39. 保育社
大滝末男, 1980. タヌキモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 12〜21. 北隆館
角野康郎, 1994. タヌキモ科タヌキモ属. 『日本水草図鑑』 148〜155. 文一統合出版
村田源. 2004. フサタヌキモ. 『近畿地方植物誌』 37. 大阪自然史センター
小林禧樹. 1989. フサタヌキモ. 『西神戸の植物』 25〜26. 自費出版
兵庫県. 2010. フサタヌキモ. 『兵庫の貴重な自然 兵庫県版レッドデータブック2010(植物・植物群落)』 94. (財)ひょうご環境創造協会
佐藤安司, 1982. 岐阜県のフサタヌキモ自生地に就いて. 水草研究会会報 8:7.
角野康郎, 1985. 兵庫県東播磨地方の水生植物追記(1). 水草研究会会報 19:9〜10.
角野康郎 2006. フサタヌキモ. 兵庫県産維管束植物7 タヌキモ科. 人と自然16:115. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Oct.2011

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