ノタヌキモ Utricularia aurea  Lour. タヌキモ科 タヌキモ属
浮遊植物  環境省絶滅危惧U類
Fig.1 (兵庫県明石市・溜池 2008.8/31)

Fig.2 (兵庫県小野市・溜池 2011.9/19)

貧栄養〜中栄養な湖沼や溜池、水路などに生育する1年生または多年生の浮遊植物。
茎はよく分枝し、長いものでは1.5mに達し、葉は基部から3個の枝に分かれ、外形は卵状披針形で長さ3〜8cm、
2〜3回立体的に羽状に枝分かれし、長さ2〜2.5mmの捕虫嚢を、各裂片の基部のほか、葉片上に多数つける。
冬期には他種のような殖芽は形成せず、枯死するが、花は秋遅くまで開花し、自家受粉によって結実、種子で越冬する。
花茎は水中茎よりも太く、長さ7〜20cmで、鱗片葉はなく、花茎上方に3〜11個の唇形花をつける。
花冠は径6〜7mm、淡黄色で、上唇は立ち、下唇は半円形に大きく開出。
距は円錐状鈍頭で屈折し、下唇の下面とともに毛があり、下唇と同長かやや短い。
花後、花柄は20mmほどに伸て肥大し、先端に向かうにつれて太く、刮ハは下向きになり、
萼は5〜9mmに伸びて、やや厚味を増し、花柱も宿存して肥大する。
刮ハは径4〜7mmの球形で、内部は1室からなり、胎座上に種子が嵌め込み状につく。
種子は数が少ないと扁平円形、種子数が多い場合には、互いに密着して5〜6稜ある円盤状となり、径0.8〜1.3mm。

本種は1年草で殖芽を形成しないが、湧水に涵養される場所ではそのまま越冬し、亜熱帯地域では多年草であるという。
近似種 : イヌタヌキモフサタヌキモヒメタヌキモ、 コタヌキモ、 イトタヌキモ、 タヌキモ

■分布:本州新潟以南、四国、九州、沖縄 ・ インド〜東アジア、オーストラリア
■生育環境:貧栄養〜中栄養な湖沼や溜池、水路など。
■花期:7〜11月
■西宮市内での分布:兵庫県内には自生地が各地に点在するが、西宮市では見られない。
              全国的には生育環境の減少から稀となっており、23の都道府県で絶滅危惧種に選定されている。

Fig.3 全体像。(兵庫県明石市・溜池 2007.7/12)
  盛んに分枝して、長いものでは1mを超え、イヌタヌキモよりも大きな印象を受ける。


Fig.4 茎につく葉(上)と裂葉(下)。(兵庫県明石市・溜池 2008.8/31)
  葉は大きく、羽状裂葉で、基部から3個(ときに4個)の枝を分け、さらに立体的に2〜3回分岐する。
  近縁のタヌキモやイヌタヌキモよりも各裂片は細く長い。
  タヌキモ、イヌタヌキモともに、基部から分ける枝の数は2個で、この点に注意すれば区別は容易。

Fig.5 茎の断面。(兵庫県三木市・溜池 2008.1/20)
  茎には他種と同様な構造で、中心部に柔らかい髄があり、周囲には放射状に仕切られた大きめの気室がある。

Fig.6 花茎。(兵庫県明石市・溜池 2008.8/31)
  花茎は水中茎よりも太く、鱗片葉はなく、花茎上方に3〜11個の唇形花を互生してつける。

Fig.7 花茎の断面。(兵庫県三木市・溜池 2008.1/20)
  水上で花を支えるためか、水中茎よりも気室の占める割合は少なくなっている。

Fig.8 花冠。(兵庫県加西市・溜池 2008.11/2)
  花冠は径6〜7mm、淡黄色で、上唇は立ち、下唇は半円形に大きく開出。
  画像左のものは開花途上のもので、下唇は展開しきっておらず、距がよく見える。右は完全に開花しきったもので、上唇が立っている。

Fig.9 正面からの花のクローズアップ。(兵庫県加西市・溜池 2008.10/19)
  距と下唇の下面には短毛が生えている。下唇の仮面部と距の側面には黄橙色の斑紋がある。

Fig.10 果実(刮ハ)。(兵庫県加西市・溜池 2008.11/2)
  花後、子房は果実として熟すにつれて下を向くようになり、次第に花茎も倒伏し、果実が熟すと下垂して水没する。
  花茎は倒伏しても、開花直前の部分から立ち上がり、花が水没することを回避している。Fig.7画像でもその様子が解る。
  熟した果実の果柄は伸びて肥大し、刮ハ近くになるほど太くなり、萼や花柱も肥厚する。


Fig.11,12 熟した果実内部(上)と種子(下)。(兵庫県明石市・溜池 2008.8/31)
  種子は径0.8〜1.3mm、褐色をおびた濃緑色〜淡褐色。互いに密着して胎座上に並び鈍い5〜6稜の円盤状となる。
  種子の中心部に見えるのは胎座とつながっていた、いわばヘソのようなもの。


Fig.13,14 冬期に熟した種子。(兵庫県三木市・溜池 2008.1/20)
  ほとんど冬期に形成されたものは種子数が3〜4個と少なく、種子は互いに接することがないためか少し大きく円形をしている。

生育環境と生態
Fig.15 ハス田で開花中のノタヌキモ。(兵庫県明石市・ハス田 2008.8/31)
開花は陽光が一日中当たる開水面よりも、ハスの葉陰で適度に太陽光が当たるような半日陰の場所に多く見られた。

Fig.16 緩やかな流水中から花茎を上げて開花するノタヌキモ。(兵庫県加東市・溜池 2008.10/5)
減水した溜池の水路となった場所で、泥に固着して生育しているもの。草体は泥に半ば埋没しているためはっきりとしない。
手前の浮葉はヒルムシロのもので、周囲にはタチモ、ガガブタ、ミズニラ、クログワイ、ハリイが見られた。

Fig.17 多数の花茎を上げたノタヌキモ群落。(兵庫県加西市・溜池 2008.11/2)
中栄養な溜池の一画。水面上をノタヌキモが優占し多数の花茎をあげていた。
この溜池では浮葉植物ではガガブタが多く、ヒシがわずかに見られる。沈水植物ではセキショウモ、クロモ、タチモが見られ、
浅水域ではイヌクログワイが生育する箇所もあった。

Fig.18 溜池畔で開花するノタヌキモ。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.11/2)
池畔に打ち上げられた個体が開花していた。
水分の飽和度が高い泥地で、古い葉は全て枯れて消失し、新しい芽の付近と茎だけが残り生存している。
このような状態で花茎を上げる力があるとは、驚くべき適応力である。
画像中に見られる針状線形の草体はヒメホタルイ。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
田村道夫, 1981. タヌキモ科タヌキモ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本3 合弁花類』 pp.137〜139. pls.112〜114. 平凡社
北村四郎・村田源・堀勝, 2004 タヌキモ科タヌキモ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(1) 合弁花類』 pp.120〜123. pls.39. 保育社
牧野富太郎, 1961 ノタヌキモ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 574. 北隆館
大滝末男, 1980. タヌキモ科. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 12〜21. 北隆館
角野康郎, 1994. タヌキモ科タヌキモ属. 『日本水草図鑑』 148〜155. 文一統合出版
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ノタヌキモ. 『六甲山地の植物誌』 195. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ノタヌキモ. 『近畿地方植物誌』 37. 大阪自然史センター
角野康郎, 1985. ノタヌキモの生態. 水草研究会会報 22:5〜8.
角野康郎 2006. ノタヌキモ. 兵庫県産維管束植物7 タヌキモ科. 人と自然16:115. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Nov.2011

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