ウキシバ | Pseudoraphis ukisiba Ohwi | イネ科 ウキシバ属 |
湿生〜抽水〜浮葉植物 |
Fig.1 (兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) |
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Fig.2 (兵庫県加東市・溜池畔 2011.9/19) やや貧栄養〜中栄養な池沼や湿地に生育する水生の多年草。 茎は軟らかく、水深が深くなると匍匐茎は水面に浮き、長く伸びて長さ50〜100cm。枝は匍匐茎から直立して高さ5〜10cmとなり、花序が頂端につく。 陸生するものは茎が匍匐枝状に伸び、接地した節から発根し、また直上する芽がのびて頂端に花序をつける。 葉は披針形で、長さ2〜4cm、幅3〜5mm、縁は多少ともざらつき、両面ともに無毛、ごく稀に若い葉の表側に軟毛を生じることがある。 葉舌は薄膜質切形で長さ0.5mm、両縁部でやや高くなる。葉耳は発達しない。 葉鞘は重合し、縁辺は薄膜質となり無毛、ふつう節間と同長か短かいが、長いこともあり、葉身とほぼ同長。 花序は基部が葉鞘の中にあり、長さ2〜4cm、中軸に15〜30本の枝を出し、枝の中ほどに1小穂をつける。 小穂は短い柄で枝につき、枝の先は小穂の2〜2.5倍の長さに芒状に伸びる。 小穂は長さ4〜5mm、披針形。第1小花は雄性、第2小花は雌性の2小花からなる。 第1苞頴は長さ0.6〜0.8mm、第2苞頴は長さ4〜5mm、7脈あり脈間に短毛を疎生する。 第1小花の護頴は5脈あり、長さ4〜5mmで、第2苞頴と同形、内頴は半透明な膜質で長さ2〜2.5mm。 第2小花の護頴は長さ0.8mm、内頴は長さ0.6mm、ともに半透明な薄膜質で、退化雄蕊2個と雌蕊がある。 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』(pp.172〜173)の記述は正しいが、掲載されている花序の図はシバのものであると思われる。 ウキシバは池沼の水質汚染や、改修工事などによって全国で減少傾向にある。 花序の無い時期に似るものに、以下の種がある。 シバやコウライシバなどシバ属(Zoysia)のものは、いずれも草体が堅く、3節性の縮節を持つため区別できる。 ギョウギシバ属(Cynodon)では、葉舌は厚膜質で0.2〜0.3mmと短く、葉舌の縁と葉耳部に軟毛を多数束生する。 チゴザサ(Isachne globosa)では、葉舌は毛状で1〜2mmの軟毛を列生し、葉身の縁辺と脈間に刺状突起がありざらつく。葉鞘縁辺には毛が生える。 アシカキやサヤヌカグサなどのサヤヌカグサ属(Leersia)では、葉身の脈が顕著で、脈上に刺状突起がならびざらつく。節はふくらみ、白い繊毛や短毛を密生する。 花序の無いウキガヤ(Glyceria depauperata)では、葉舌が5〜10mmと大きく、先が鋭尖頭となる点で区別できる。 近似種 : チゴザサ、 アシカキ、 エゾノサヤヌカグサ、 サヤヌカグサ ■分布:本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島、中国 ■生育環境:溜池畔、湿地など。 ■果実期:7〜8月 ■西宮市内での分布:市内では見られない。分布は県南部に偏る。 |
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↑Fig.3 全草標本。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 陸生していたもの。下側のシュートは水際に向かって匍匐枝状に茎を伸ばしている。 |
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↑Fig.4 ウキシバの花序。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 花序の基部は葉鞘内にあり、総状花序であるが開花時は枝が開かない。葉鞘口部近くの小穂が開花中である。 |
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↑Fig.5 花序の一部を拡大。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 草体はシバに似るが、花序のつくりはシバとは全く異なる。 小穂は1個だけ短い柄で花序枝につき、枝の先は長く芒状となる。その様子は次のFig.5を見ると一目瞭然である。 |
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↑Fig.6 枝の開いた花序。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 熟した花序で水に浸かっているものは花序が開いていることが多い。長い花序枝の中ほどに小穂が単生している様子が判る。 |
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↑Fig.7 花序枝と小穂の様子。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 花序枝は長く、上向きの軟毛がまばらに生える。小穂は1個が短い柄(小軸)で枝の中部につく。 |
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↑Fig.8 小穂の構造。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 小穂は2小花からなる。第1小花は雄性で、雄蕊2個があり、長い花糸の先に葯がつく。 第2小花は雌性で子房(頴果)と雌蕊がある。 |
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↑Fig.9 葉身と葉鞘の接合部にある葉舌。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 葉舌は薄膜質切形で長さ0.5mm、両縁部がやや高くなる。 葉身の基部には上向きの微軟毛が散生しているのが見える。 |
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↑Fig.10 茎(稈)の節。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 節は肥厚し、淡色、ほとんど無毛。ルーペで観察すると、ときに節の下部に上向きの微軟毛が生えていることがある。 |
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↑Fig.11 秋期に花序を出したウキシバ。(兵庫県加西市・溜池畔 2010.9/28) 干上がった溜池では秋から晩秋にかけて、地表に張り付いたように生育しているウキシバが花序を出している。 水のある時期と違って、草体の節間はつまり、名の通りシバ状に見える。 |
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↑Fig.12 水面に浮葉状に葉を広げるウキシバ群落。(兵庫県加西市・溜池 2010.9/28) 水深のある場所では節間の長い茎を伸ばして、水面上で葉を広げる。 |
生育環境と生態 |
Fig.13 溜池畔の水上に匍匐茎を伸ばし茎を立ち上げるウキシバ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 水面上では匍匐茎を長く伸ばすため、節から立ち上がる茎はまばらな印象を与える。 |
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Fig.14 溜池畔に密生するウキシバ。(兵庫県篠山市・溜池畔 2009.7/10) 陸生のものは匍匐枝状に地表を這う節間の短い茎が四方に伸びて栄養繁殖し、密生した群落をつくる。 この溜池では西側の池畔に帯状に群落が発達していた。 池畔のウキシバの疎らな場所や裸地ではハリイ、メアゼテンツキ、ミズユキノシタ、ミゾカクシが生育していた。 |
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Fig.15 中栄養な溜池に生育するウキシバ。(兵庫県小野市・溜池 2011.7/10) 丘陵部の比較的大きな溜池にヒシとともに岸近くの水面で群生していた。 ウキシバは県下では播磨地方の丘陵部や河岸段丘上の中栄養な溜池でよく見られる。 さらに富栄養化が進むと、アシカキが出現し、ヒシが水域全面を覆うようになるとウキシバは姿を消す。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982 イネ科ウキシバ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本T 単子葉類』 p.101. 平凡社 小山鐡夫, 2004 イネ科ウキシバ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.370〜371. pl.97. 保育社 大滝末男, 1980 ウキシバ. 大滝末男・石戸忠 『日本水生植物図鑑』 172〜173. 北隆館 角野康郎, 1994 イネ科ウキシバ属. 『日本水草図鑑』 p.68. pl.70. 文一統合出版 牧野富太郎, 1961 ウキシバ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 738. 北隆館 桑原義晴, 2008 ウキシバ. 『日本イネ科植物図譜』 p.417,430. 全国農村教育協会 藤本義昭. 1995. イネ科ウキシバ属. 『兵庫県イネ科植物誌』 209〜210. 藤本植物研究所 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ウキシバ. 『六甲山地の植物誌』 237. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. ウキシバ. 『近畿地方植物誌』 183. 大阪自然史センター 迫田昌宏. 2003. ウキシバを生野町で確認. 兵庫県植物誌研究会・会報 55:1〜2 松岡成久. 2009. 篠山市でウキシバを発見. 兵庫県植物誌研究会・会報 81:5〜6 藤本義昭・布施静香・黒崎史平・高橋晃・高野温子 2008. ウキシバ. 兵庫県産維管束植物10 イネ科. 人と自然19:206. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:12th.Nov.2011 |