ハマハナヤスリ Ophioglossum thermale  Komarov ハナヤスリ科 ハナヤスリ属
湿生植物  兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)

Fig.2 (兵庫県阪神地方・棚田の土手 2014.6/20)

海岸の砂地や、内陸の湿地、河原などに生える小型のシダ植物。4〜11月に出現する。
根茎は細く、短く、1〜数枚の葉を叢生する。
葉は高さ(5〜)7〜20cm、栄養葉は小さく、長さ0.7〜3cm、幅0.3〜1cm、変異幅が広く線形〜卵形、鋭頭〜円頭。
栄養葉の最も幅広い部分は中央よりも上にあり、基部はしだいに狭くなって、無柄またはごく短い柄がある。
葉の質はコヒロハハナヤスリより厚く、コハナヤスリよりや硬く厚い。脈は細かい網目状で二次脈はほとんど発達しない。
胞子葉は長さ6〜9(〜18)cm、胞子嚢穂は長さ4cmに達するものもある。
胞子の外皮には細かい網目模様があるが、一見平滑に見える。染色体数はn=240,480で4倍体,8倍体。

【メモ】  変種であるコハナヤスリとは時に区別が非常に難しいことがあり、自生地の集団全体から判断する必要がある。

変種コハナヤスリ(var. nipponicum)は栄養葉の最も幅広い部分が中央より下にある。ハマハナヤスリの内陸型で、区別しない考え方もある。
コヒロハハナヤスリO. petiolatum)は栄養葉ふつう大きくて薄く、明瞭な短い柄がある。脈は粗い網目状。
トネナヤスリO. namegatae)は栄養葉の柄が1〜2.8cmと長く、春に出現して夏には地上部は消滅する。
ヒロハハナヤスリO. vulgatum)は春先に出現し、夏には枯れる春植物。栄養葉の基部は胞子葉の柄を抱く。
近似種 : コハナヤスリコヒロハハナヤスリトネハナヤスリヒロハハナヤスリ
関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 春から初夏のハナヤスリ類 -ヒロハハナヤスリと雑種をめぐって- 

■分布:北海道、本州、四国、九州、沖縄 ・ シベリア、東アジア、中国、ミクロネシア
■生育環境:湿地、溜池畔、海岸の砂地、河原など。
■花期:4〜10月
■西宮市内での分布:市内では見られない。

Fig.3 全草標本。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)
  根茎は細く、短く、1〜数枚の葉を叢生するが、1〜2枚であることが多い。
  葉は高さ(5〜)7〜20cm、栄養葉は小さく、長さ0.7〜3cm、幅0.3〜1cm、変異幅が広く線形〜卵形、鋭頭〜円頭。

Fig.4 胞子葉の先につく胞子嚢穂。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)
  胞子葉は長さ6〜9(〜18)cm、長い柄と胞子嚢穂からなる。胞子嚢穂は長さ4cmに達するものもある。
  胞子嚢穂は縦に2列に連なった胞子嚢が癒合したもので、熟すとそれぞれ横に裂けて隙間ができ、そこから胞子を飛散させる。

Fig.5 胞子。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)
  胞子の外皮には細かい網目模様があるが、一見平滑に見える。

Fig.6 栄養葉。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)
  栄養葉の最も幅広い部分は中央よりも上にあり、基部はしだいに狭くなって、無柄またはごく短い柄がある。

Fig.7 栄養葉の葉脈。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2014.6/20)
  葉の質はコヒロハハナヤスリより厚く、コハナヤスリより硬く厚い。そのため、標本にしてもあまり透過しない。
  脈は細かく細長い網目状で、二次脈はほとんど発達しない。

Fig.8 コハナヤスリ(左)とハマハナヤスリ(右)の栄養葉。(兵庫県播磨地方 左:2013.10/21 右:2013.10/30)
  ハマハナヤスリの葉はコハナヤスリに比べてスマートで小型であることが多い。
  画像のコハナヤスリの葉は貧栄養な環境に生育していたもので、ハマハナヤスリの栄養葉よりも小さい。
  両変種とも栄養葉の変異幅は大きいので、自生地の集団全体を見て判断する必要がある。
  コハナヤスリがハマハナヤスリとコヒロハハナヤスリとの雑種起源ではないかという考えもあるが、明確な結論は出ていないという。

Fig.9 水没した栄養葉。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)
  湛水状態の湿地に生育しているもので、栄養葉は少し長く伸びている。

生育環境と生態
Fig.10 溜池畔の湿地に群生するハマハナヤスリ。(兵庫県小野市・溜池畔 2010.10/27)
溜池畔のショウブやマコモから畦へ続くチガヤ群落の移行する刈り込まれた部分に密な群落が見られた。
同所的に同様な環境を好むタチカモメヅルが数多く見られた。

Fig.11 溜池畔で抽水状態で生育するハマハナヤスリ。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)
この年は秋に降雨と台風が連続し、例年のように溜池が干上がらず、ハマハナヤスリの集団も抽水状態で生育していた。
自生箇所では表土が少なく、そのような環境でも根付くメリケンカルカヤが優占していた。
同所的にはヒメオトギリ、キバナノマツバニンジン、ニガナ、アリアケスミレ、メリケンカルカヤに寄生していると思われるゴマクサが多数見られた。
ハマハナヤスリやコハナヤスリは表土が少ない貧栄養地でも、硬い洪積層や粘土質土壌でも根付き、そのような高茎草本が生育できない場所によく適応している。

Fig.12 溜池畔のチガヤ群落中に生育するハマハナヤスリ。(兵庫県播磨地方・溜池畔 2013.10/30)
Fig.9と同日であるが、別の溜池畔にある草地で生育している集団。
モロコ類の漁労のため、草刈りと野焼きの行われている溜池畔の草地に、多くのハマハナヤスリが点在していた。
自生箇所ではチガヤのほか、ヤハズソウ、ハイメドハギ、ヒメオトギリ、キバナノマツバニンジン、ヒメヒラテンツキなどが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻邦男. 1992. ハナヤスリ科ハナヤスリ属. 『日本の野生植物 シダ』 p.62〜64. pls.17〜18 平凡社
佐々木あや子. 2001. ハナヤスリ科ハナヤスリ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 22〜24. 神奈川県立生命の星・地球博物館
光田重幸. 1986. ハナヤスリ科. 『しだの図鑑』 p.41. pl.39. 保育社
白岩卓巳・鈴木武 1999. ハマハナヤスリ. 兵庫県産維管束植物1 ハナヤスリ科. 人と自然10:79. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:15th.Nov.2014

<<<戻る TOPページ