ヒロハハナヤスリ | Ophioglossum vulgatum L. | ||
里山・林床・草地のシダ 兵庫県RDB Bランク種 | ハナヤスリ科 ハナヤスリ属 |
Fig.1 (兵庫県丹波地方・落葉広葉樹林の林床 2014.5/7) |
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Fig.2 (兵庫県阪神地方・棚田の土手 2014.5/13) 低山〜山地の疎林の林床、林縁、原野、草地などに生育する小型のシダ。西日本では稀。 4月ごろから葉を生じ、6月には胞子が成熟し、夏には枯れてしまう。 根茎はあまり発達せず、短い円柱状、直立し、根をまばらに生じ、高さ10〜30cmの葉を年に1枚出す。担葉体は長さ2〜15cm。 栄養葉は長さ6〜12cm、幅2.5〜7cm、広披針形〜広卵形、鈍頭〜円頭、基部は切形〜心形で胞子葉の柄を包むが、変異も多い。 葉質はやわらかい紙質から草質、葉脈は細かい網目をつくり、2次脈もはっきりしている。 胞子葉は長さ(4〜)10〜20cm、穂の長さは3cmを超えることもある。 胞子の外膜にはあらい網目模様があって、こぶ状の突起があるように見える。染色体数はn=240の4倍体。 ハマハナヤスリ(O. thermale)は海岸の砂地や内陸の湿地に生育し、栄養葉は披針形で小さく、長さ0.7〜3cm、無柄または短柄、 葉幅は中央より上が広くなる。胞子表面は平滑に見える。 コハナヤスリ(var. nipponicum)はハマハナヤスリの変種で、草地や半裸地に生育し、栄養葉は楕円形〜卵形で、長さ2.5〜5cm、 無柄、葉幅は中央よりも下が広くなる。胞子表面は平滑に見える。 コヒロハハナヤスリ(O. petiolatum)は山麓や原野に生育し、栄養葉は変異が多いが、長さ1〜6cm、ふつう明瞭な柄がある。 胞子は径30〜33μで、表面は平滑に見える。 トネハナヤスリ(O. namegatae)は利根川と淀川水系のアシ原に生育し、4〜6月に出現し、栄養葉は広披針形〜卵状3角形で基部はくさび形となり葉柄へと流れる。 胞子はコヒロハハナヤスリより小さく径25〜27μ、表面は平滑に見える。 チャボハナヤスリ(O. parvum)は向陽な原野に生育し、小型で、担葉体は長さ1cm以下、栄養葉は狭披針形〜楕円形、長さ0.5〜1.5cm。 かつては三重県に生育していたが絶滅。静岡、伊豆青ヶ島。 近縁種 : ハマハナヤスリ、 コハナヤスリ、 コヒロハハナヤスリ、 トネハナヤスリ、 チャボハナヤスリ 関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 春から初夏のハナヤスリ類 -ヒロハハナヤスリと雑種をめぐって- ■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 北半球の温帯 ■生育環境:低山〜山地の疎林の林床、林縁、原野、草地など。 |
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↑Fig.3 全草標本。(兵庫県丹波地方・落葉広葉樹林の林床 2014.5/27) 根茎はあまり発達せず、短い円柱状、直立し、根をまばらに生じ、高さ10〜30cmの葉を年に1枚出す。担葉体は長さ2〜15cm。 栄養葉は長さ6〜12cm、幅2.5〜7cm、広披針形〜広卵形、鈍頭〜円頭、基部は切形〜心形で胞子葉の柄を包むが、変異も多い。 |
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↑Fig.4 栄養葉の脈。(兵庫県阪神地方・棚田の土手 2014.5/28) 葉質はやわらかい紙質から草質、葉脈は細かい網目をつくり、2次脈もはっきりしている。 |
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↑Fig.5 栄養葉の基部。(兵庫県阪神地方・棚田の林縁 2014.4/26) 栄養葉の基部は切形〜心形で、ふつう胞子葉の柄を包む。 |
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↑Fig.6 栄養葉の基部の変異。(兵庫県阪神地方・棚田の土手 2014.5/13) 栄養葉の基部と、胞子葉の葉柄が合着しているもの。 |
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↑Fig.7 葉柄のある栄養葉を持ったもの。(兵庫県阪神地方・棚田の土手 2014.5/28) 棚田などの人為的な影響を受けるような場所に生育するものは変異が多いようである。 |
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↑Fig.8 熟した胞子葉。(兵庫県阪神地方・棚田の林縁 2014.5/13 胞子葉は熟すと細かく横に裂けて胞子を飛散する。 |
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↑Fig.9 胞子。(兵庫県丹波地方・落葉広葉樹林の林床 2014.5/28) 胞子の外膜にはあらい網目模様があって、こぶ状の突起があるように見える。 近縁種のコヒロハハナヤスリ、トネハナヤスリ、コハナヤスリ、ハマハナヤスリの胞子はいずれも平滑に見える。 |
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↑Fig.10 6月下旬の草体。(兵庫県阪神地方・棚田の土手 2014.6/24) ヒロハハナヤスリは4月に出現し、6月には胞子が熟し、7月には地上部は枯れてしまう。 この時期には胞子も放出し終え、胞子葉は倒伏し、胞子葉を持たない個体は黄変しはじめていた。 |
生育環境と生態 |
Fig.11 木漏れ日が差す落葉広葉樹林の林床に生育するヒロハハナヤスリ。(兵庫県丹波地方・落葉広葉樹林の林床 2014.5/7) 植生の豊富な落葉広葉樹林の林床にヒロハハナヤスリが数個体生育していた。林内にはシカの獣道もあるが食害からまぬがれている。 林床にはオオマルバコンロンソウ、セントウソウ、ヤブニンジン、ウマノミツバ、シシウド、オオタチツボスミレ、アオイスミレ、 ミヤマフユイチゴ、クサイチゴ、イチリンソウ、キンキエンゴサク、ムラサキケマン、ミヤマカタバミ、ヒトリシズカ、フタリシズカ、 イヌショウマ、ヤマシャクヤク、フデリンドウ、オカタツナミソウ、エビネ、シオデ、アマナ、ジャノヒゲなどが生育している。 |
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Fig.12 棚田の土手に群生するヒロハハナヤスリ。(兵庫県阪神地方・棚田の土手 2014.5/11) 2次的自然度の高い棚田の土手にヒロハハナヤスリが群生していた。この場所のものは葉柄のある集団である。 午後からは日陰になるような場所で、まばらなネザサ、ススキのほか、スギナ、ミツバツチグリ、セリ、ワレモコウ、ツリガネニンジン、 タツナミソウ、アキノタムラソウ、カンサイタンポポ、セイタカアワダチソウ、ヨモギ、アキノキリンソウなどが生育している。 周辺ではヤマサギソウ、キンラン、ギンラン、アワボスゲ、ヤマジスゲ、オカオグルマ、カワラボウフウなどが見られる自然度の高い場所で、 上部の土手ではコハナヤスリが、下部の溜池土堤ではコヒロハハナヤスリが生育している。 ここではヒロハハナヤスリの根茎は地下深くにあり、担葉体は20cmにも及ぶ。 |
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Fig.13 棚田最上部の林縁に生育するヒロハハナヤスリ。(兵庫県阪神地方・棚田の林縁 2014.5/28) こちらもオカオグルマ、カセンソウなどが生育する自然度の高い棚田で、棚田の数ヶ所に生育し、足の踏み場もないほどの群生も見られる。 画像は最上部の林縁に生育しているもので、多少踏みつけのあるような場所で、シバ、ノゲヌカスゲ、マスクサなどとともに見られた。 |