コヒロハハナヤスリ Ophioglossum petiolatum  Hook. ハナヤスリ科 ハナヤスリ属
湿生植物
Fig.1 (西宮市・社寺境内 2010.7/12)

Fig.2 (兵庫県たつの市・社寺境内 2011.6/5)

湿地や溜池畔、湿った道端などに生える小型のシダ植物。4〜11月の生育期間中2〜3回新葉を1本ずつ生じる。
根茎は短い塊状か円柱状で、あまり発達せず、高さ8〜25cmの葉を1〜3枚出す。
栄養葉は生育条件によって変異が多く、広卵形〜長楕円形、長さ1〜6cm、幅1〜3cm、ふつう葉先は円頭〜鈍頭、基部は急に狭くなり短い柄がある。
葉の質は薄く、標本にすると脈がよく見え、脈は粗い網目状で二次脈はあまり発達しない。
胞子葉は長さ6〜16cm、胞子嚢穂は長さ2〜4.5cm。胞子の外膜隆起ははやや粗く、連なって細かい網目模様をつくる。
染色体数はn=480, ca.510, 2n=ca.960, ca.1100。

【メモ】  本種は湿生植物とするのは適切ではないが、河川敷のアシ原にも現れるため湿生植物に入れた。

トネナヤスリO. namegatae)は栄養葉の柄が1〜2.8cmと長く、春に出現して夏には地上部は消滅する。胞子の径25〜27μ。
ハマハナヤスリO. thermale)は栄養葉は小さく、中央より上に最広幅部分があり、基部はしだいに細くなって柄はなく、そのまま胞子葉の柄と合する。
コハナヤスリO. thermale var. nipponicum)は栄養葉はふつう広卵形で、中央より下に最広幅部分があり、柄はないかごく短い。
ヒロハハナヤスリO. thermale)は春先に出現し、夏には枯れる春植物。栄養葉の基部は胞子葉の柄を抱く。
近似種 : トネハナヤスリハマハナヤスリコハナヤスリヒロハハナヤスリ
関連ブログ・ページ 『Satoyama, Plants & Nature』 春から初夏のハナヤスリ類 -ヒロハハナヤスリと雑種をめぐって- 

■分布:本州(山形県・宮城県以南)、四国、九州、沖縄 ・ 世界の熱帯に広く分布
■生育環境:湿地、溜池畔、社寺境内、墓地、湿った道端など。
■花期:4〜10月
■西宮市内での分布:市内では社寺境内で小群生しているのを確認した。

Fig.3 コヒロハハナヤスリの栄養葉。(兵庫県たつの市・社寺境内 2011.6/5)
  栄養葉の形には変異が多いが、おおむね広卵形〜長楕円形、基部には短い葉柄がある。

Fig.4 栄養葉の葉脈。(兵庫県神戸市・墓地 2014.5/28)
  葉の質が薄いため標本にすると脈がよく見える。脈は粗い網目状で二次脈はあまり発達しない。

Fig.5 コハナヤスリに似た栄養葉。(西宮市・社寺境内 2010.7/12)
  栄養葉の形には変異が多いため、自生集団全体で判断するほうが無難である。

Fig.6 胞子葉の先につく胞子嚢穂。(西宮市・社寺境内 2010.7/12)
  胞子葉は長い柄と胞子嚢穂からなる。胞子嚢穂は長さ2〜4.5cm。
  胞子嚢穂は縦に2列に連なった胞子嚢が癒合したもので、熟すとそれぞれ横に裂けて隙間ができ、そこから胞子を飛散させる。

Fig.7 胞子。(兵庫県神戸市・墓地 2014.5/28)
  胞子は径30〜33μ、外膜隆起ははやや粗く、連なって細かい網目模様をつくるが、平滑に見える。

Fig.8 野焼き跡から一斉に萌芽した集団。(兵庫県小野市・棚田の土手 2015.4/12)
  コヒロハハナヤスリをはじめとしたハナヤスリの仲間は野焼きされる草地に好んで出現するようにも見える。

西宮市内での生育環境と生態
Fig.9 社寺参道脇に群がって生えるコヒロハハナヤスリ。(西宮市・社寺境内 2010.7/12)
社寺内の参道脇の水路周辺や湿った生垣まわりなど、被植の少ない場所で点々と小集団をつくっていた。
同所的にドクダミ、ツボクサ、タネツケバナ、コモチマンネングサ、コハコベ、カキドオシ、チドメグサ、ヒメスミレ、トキワハゼが見られた。

他地域での生育環境と生態
Fig.10 農道上で生育するコヒロハハナヤスリ。(兵庫県篠山市・農道 2009.6/14)
山間の休耕田へと続く、ほとんどクルマの通らない砂利道の農道上に多数生育していた。
農道はやや乾いており、オオバコ、クサイ、タチツボスミレなど踏み付けに強い種が多く、ヤハズソウ、メドハギ、ハナニガナなど農地に多い種が見られた。

Fig.11 社寺境内で生育するコヒロハハナヤスリ。(兵庫県たつの市・社寺境内 2011.6/5)
社寺境内の樹木周辺の半日陰となる、湿った場所に群生していたもの。
近縁のハマハナヤスリやコハナヤスリよりも日陰気味の環境を好むようである。

Fig.12 社寺境内でフユノハナワラビと混生するコヒロハハナヤスリ。(兵庫県丹波市・社寺境内 2013.12/3)
被植の少ない砂利が敷かれた場所で、フユノハナワラビと混生していました。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
岩槻邦男. 1992. ハナヤスリ科ハナヤスリ属. 『日本の野生植物 シダ』 p.62〜64. pls.17〜18 平凡社
佐々木あや子. 2001. ハナヤスリ科ハナヤスリ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 22〜24. 神奈川県立生命の星・地球博物館
牧野富太郎, 1961 コヒロハハナヤスリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 8. 北隆館
光田重幸. 1986. ハナヤスリ科. 『しだの図鑑』 p.41. pl.39. 保育社
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コヒロハハナヤスリ. 『六甲山地の植物誌』 85. (財)神戸市公園緑化協会
白岩卓巳・鈴木武 1999. コヒロハハナヤスリ. 兵庫県産維管束植物1 ハナヤスリ科. 人と自然10:79. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:19th.June.2015

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