ヒメアオガヤツリ Cyperus extremiorientalis  Ohwi カヤツリグサ科 カヤツリグサ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県加西市・溜池畔 2010.9/29)

Fig.2 (兵庫県篠山市・多湿の休耕畑地 2014.9/14)

池沼の岸辺、干上がった溜池などの砂地に生育する1年草。
草体は小型で叢生し、高さ4〜20cm、しばしば基部で倒れてロゼット状の姿となる。
葉は花茎と同長またはやや短く、幅1〜2mm、やわらかい。基部の鞘は白味を帯びた赤紫色。
苞葉は3〜6個あり、葉状で花序より長い。花序は頭状で、花序枝はない。
小穂は狭卵形、長さ3〜5mm、4〜20個の花を2列につけ、淡緑色。鱗片は卵形、長さ約2mm、薄膜質、中肋に小刺をつけることがある。
痩果は長楕円形、長さ0.8〜1mm、横断面はレンズ形、稜は鋭い。花柱の長さ約0.7mm。柱頭は2岐する。

似た環境に生育し、草体が酷似するものに以下の種がある。
アオガヤツリC. nipponicus)は小穂が扁平。痩果は倒卵形で2稜あり、長さ約0.8mm、柱頭はふつう2岐。花序枝をもつことがある。
オオシロガヤツリC. nipponicus var.spiralis )は花茎が細く、小穂は扁平にならず密生。痩果は3稜ある倒卵形で、長さ約0.8mm。柱頭は3岐。
シロガヤツリC. pacificus)は小穂がねじれる。痩果は長楕円形で長さ約1mm、横断面はレンズ形で、稜は狭い翼状となる。
ウキミガヤツリC. pacificus var. margoinflatus)は鱗片が鈍頭で、中肋は突出しない。痩果は楕円形で2稜あり、長さ約0.8mm、稜はふくれた翼状となる。
減水した溜池畔に見られる小型のヒメアオガヤツリはシロガヤツリとニイガタガヤツリに酷似し、外見上ほとんど区別できないので、
やや高倍率のルーペか顕微鏡で痩果を調べることが必須となる。またデジカメのマクロモードで接写して確認してもよい。
近似種 : ウキミガヤツリアオガヤツリシロガヤツリオオシロガヤツリ

■分布:本州、四国、九州
■生育環境:池沼の岸辺、干上がった溜池など。
■果期:7〜10月
■市内では分布しない。

Fig.3 全草標本。(兵庫県南あわじ市・溜池畔 2010.10/25)
  草体は小型で、叢生し、基部から花茎を放射状に広げる。

Fig.4 基部で倒伏してロゼット状になったものを見かけることが多い。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/19)

Fig.5 開花中の花序。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/19)

Fig.6 花序の拡大。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/19)
  小穂を密につけ、苞葉はかなり長い。小穂はやや反り返る。花序枝はない。

Fig.7 小穂。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/12)
  反り返っているため、全体にピントを合わせにくいが、シロガヤツリのようにねじれることはない。
  隣片は2列につき先はあまりとがらず、小穂は扁平となる。

Fig.8 痩果。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/12)
  痩果は2稜あり、稜角は鋭く、横断面は片面がやや凸状となる。稜上にはシロガヤツリやニイガタガヤツリ(?)に見られるような翼はない。
  長さ約0.8〜1mm、長楕円形、柱頭は2岐する。

Fig.9 痩果の拡大。(兵庫県篠山市・多湿の休耕畑地 2014.9/14)
  縁には翼はなく、表面には小さな粒が縦に列をなして並んでいる。

Fig.10 花序も熟して、枯れ始めた草体。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/19)

Fig.11 夏〜初秋に生育する個体。(滋賀県・小河川の河畔 2008.9/8)
  寒気に当たらないためか、草体はロゼット状に広がらず、茎は斜上して伸びる。
  シロガヤツリに酷似するが、花序の苞葉はシロガヤツリよりもかなり長い。

生育環境と生態
Fig.12 干上がった溜池の池畔に生育するヒメアオガヤツリ。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/19)
やや富栄養な溜池畔。裸地部分に数種の近似種とともに生育していた。
黄色の矢印がヒメアオガヤツリ、白色はオオシロガヤツリ、水色はアオテンツキ。他にニイガタガヤツリ(?)、メアゼテンツキ、テンツキ、
ヒメヒラテンツキ、ヒデリコなどが見られ、トキンソウ、ナガエフタバムグラ、アゼナ、ミズハコベなどの湿生植物が混じる。


Fig.13,14 干上がった溜池の底で萌芽し開花・結実するヒメアオガヤツリ。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/19)
上は引いた位置から俯瞰したもの。遠くからは苔が生えているように見える。
下はいっぱいまで近づいて撮影したもので、どの草体も萌芽してまもなく花序を上げている。中でも大きく目立つものがヒメアオガヤツリ。
小さな球形の花序のものはアオテンツキで花序枝を出しておらず紛らわしい。細い花序を出しているものはメアゼテンツキ。

Fig.15 湖岸の流入河川の砂地に生育するヒメアオガヤツリ。(滋賀県高島市・小河川の河畔 2008.9/8)
初秋の草体はのびのびとして大きい。
小河川が湖水に流入する部分に堆積した砂上に見られた。このような場所は氾濫が起こり安定しないため1年性の湿生植物が生育する。
カヤツリグサ科では他にカヤツリグサとアオガヤツリが見られ、チョウジタデ、ミゾソバ、アメリカタカサブロウなどが見られた。
やや上部の比較的安定した場所ではチクゴスズメノヒエが生育しているが、その影響は及んでいない。

Fig.16 休耕中の畑地に生育するヒメアオガヤツリ。(兵庫県篠山市・多湿の休耕畑地 2014.9/14)
溜池直下の黒大豆畑の隣が休耕中であり、そこに水田雑草とともにヒメアオガヤツリが生育していた。
溜池直下であるため多湿な半裸地が広がっており、一部は湛水し、スギナ、ヒデリコ、ヒメヒラテンツキ、コゴメガヤツリ、タマガヤツリ、
イヌホタルイ、ヤナギタデ、コケオトギリ、イヌガラシ、タネツケバナ、アゼナ、タケトアゼナ、アゼトウガラシなどが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
大井次三郎, 1982. カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.180〜184. pls.164〜168. 平凡社
小山鐡夫, 2004 カヤツリグサ科カヤツリグサ属. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.238〜245. pls.60〜61. 保育社
牧野富太郎, 1961 ヒメアオガヤツリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 761. 北隆館
北川淑子・堀内洋. 2001. シロガヤツリ亜属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 412〜413. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 ヒメアオガヤツリ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 92〜93. 山陽新聞社
谷城勝弘, 2007 カヤツリグサ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 174〜197. 全国農村教育協会
村田源. 2004.ヒメアオガヤツリ. 『近畿地方植物誌』 162. 大阪自然史センター
黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. ヒメアオガヤツリ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:163.
       兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:7th.Nov.2014

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