ホソバノウナギツカミ Persicaria hastato-auriculata  (Makino) Nakai. タデ科 イヌタデ属
湿生植物
Fig.1 (滋賀県・内湖畔 2007.11/4)

Fig.2 (兵庫県加西市・溜池畔 2010.9/28)

中栄養な溜池畔、河畔、水田の畦、用水路など、中栄養な湿地や水辺に生える1年草、または多年草。ときに抽水状態のものも見かける。
環境改変のために各地で減少傾向にあり、絶滅危惧種に指定する地域も多い。
茎は地上を這い、節で枝を分けて花茎を立ち上げる。茎の長さは長いものでは1m近くにもなる。
葉は長さ4〜8cm、幅5〜15mmで、葉幅は近似種の中では最も細く感じられる。
葉は披針形〜長披針形で、基部は左右が下方に向けて耳状に突き出し、葉柄は短いため、葉が茎を抱いているかのように見える。
托葉鞘は膜質円筒形で、長さ8〜20mm、基部には1列の下向きの剛毛列が取り巻く。
花は普通、3〜5個づつ集まったまばらな総状花序となる。
小花には花弁はなく、花被は萼が5深裂(ときに4深裂)したもの。
茎は四角形で、稜上には下向きの細い刺があり、茎内部は中実。
種子は長さ約2.8mmで、強く丸みを帯びた広卵形で、3稜あり、赤褐色。表面にはやや不明瞭な網目模様があり、小さなくぼみが多い。
近似種 : アキノウナギツカミナガバノウナギツカミヤノネグサナガバノヤノネグサ

■分布:本州(関東以西)、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、台湾、中国、東アジア
■生育環境:溜池畔、河畔、水田の畦など。
■花期:7〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認できていない。
              生育環境の悪化で全国的にも減少しつつあり、近縁種のアキノウナギツカミと較べるとかなり稀。

Fig.3 花序の様子。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  花茎は上部で分枝して、3〜5個の小さな花をまばらに穂状につける。
  花弁はなく、萼が4〜5深裂し、色は開花時には淡紅色で、果実期には濃紅色となる。

Fig.4 花茎には、節間の上部寄りに、ごくまばらに腺毛が生じる。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  花茎の鞘からは、1小花のほかに、先行して開花した小花の花小軸が2本残っているのが見える。

Fig.5 葉は互生し、披針形で、鈍頭、薄い革質。基部は鉾形となり耳状にやや張り出す。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  葉柄は非常に短く、一見、茎を抱いているかに見える。
  表面には鈍い平滑光沢がある。

Fig.6 葉裏の拡大。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  裏面中央脈には小刺がごくまばらに生え、葉縁には短毛が密生する。



Fig.7,8 草体に付く位置や生育条件によって、葉の形は様々に変化する。その表面(上)と裏面(下)。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  左3枚は花茎に付いた葉、右の2枚は地表を這う茎から分枝・発根して、越年する茎に付いた葉。

Fig.9 托葉鞘は筒形で膜質、先端は斜め切り形。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  鞘の基部では1列の剛毛が下向きに生えて基部を取り巻く。
  茎は四角形で、稜上には細い逆刺があり、托葉鞘直下の逆刺は長く、下にむかうにつれて短くなる。

Fig.10 托葉鞘の鞘部の拡大。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  1列の剛毛列は葉柄の付け根部分で途切れる。
  膜質の鞘には上向きの短い伏せ毛が、ごくまばらに生える。

Fig.11 草体下部の茎。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  下部では稜上のみならず、肋状のふくらみに沿って、短い逆刺が生える。
  逆刺は細く、衣類に引っかかるほど鋭くはなく、さわるとざらつく程度。

Fig.12 茎の断面。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  茎は四角形で中実、中心部は空洞の多い髄となる。
  稜上には逆刺が見える。


Fig.13,14 ホソバノウナギツカミの痩果。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  花被の内部には1個の痩果がある。痩果は丸みを帯びた3稜形で、広卵形。頂部がくちばし状に突き出し、先端は鈍頭、長さ約2.5mm。
  痩果の表面には浅い、やや不明瞭な網目模様があり、網目の内部には小さな円形の窪みが多数ある。

Fig.15 匍匐枝。(滋賀県・内湖畔 2007.11/4)
  花茎とは別に、地表を這い分枝、発根する匍匐枝がある。
  匍匐枝は花をつけず、側芽を出し、円頭の小さな葉をつけ、花茎が枯れた後の越冬に備える。

Fig.16 ホソバノウナギツカミの越冬態。(兵庫県福崎町・溜池畔 2009.2/1)
  茎は地表這い、全体的に地面に張り付いたような体勢で越冬する。草体は寒気のため強く赤味を帯びている。
  陸生形での越冬の場合、葉身は波を打つことが多く、葉脈が凹む。葉がつく茎の節間は短く、茎はほぼ葉鞘で覆われる。寒気対策だろうか。
  沈水状態で越冬するものは、Fig.15 で見られるような、長い葉のままである。

生育環境と生態
Fig.17 水田の畦で越冬中のホソバノウナギツカミ。(兵庫県加東市 2008.1/20)
冬場、匍匐枝の先の方の葉は茎を残し枯れてしまうが、根際付近の葉は小型ながらも鮮やかな紅色に染まり、美しい。
付近の溜池畔の裸地にもちらほらと見られたが、ここでは水田の畦に群生が見られた。

Fig.18 用水路中に沈水〜抽水状態で生育するホソバノウナギツカミ。(兵庫県加東市 2008.10/19)
用水路脇のミゾソバやヤノネグサに押されるように、用水路内で群生している。
陸生状態のものよりも葉には光沢があり、赤味を帯びることが多い。

Fig.19 池畔で抽水状態で生育するホソバノウナギツカミ。(滋賀県 2008.9/8)
マコモよりも陸地寄りの浅水域に群生が見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. タデ科イヌタデ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.19〜24. pls.16〜22. 平凡社
北村四郎, 2004 タデ科タデ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(U) 離弁花類』 p.299〜316. pl.65. 保育社
牧野富太郎, 1961 ホソバノウナギツカミ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 121. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 タデ科. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 154〜160. 保育社
林辰雄. 2001. タデ科イヌタデ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 600〜616. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ホソバノウナギツカミ. 『六甲山地の植物誌』 109. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ホソバノウナギツカミ. 『近畿地方植物誌』 119. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子・土屋和三 2001. ホソバノウナギツカミ. 兵庫県産維管束植物3 タデ科. 人と自然12:107. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:10th.Dec.2011

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