ナガバノウナギツカミ Persicaria hastato-sagittatum  (Makino) Nakai. タデ科 イヌタデ属
湿生植物  環境省準絶滅危惧種(NT)・兵庫県RDB Bランク種
Fig.1 (兵庫県東播磨・溜池畔 2011.10/29)

Fig.2 (兵庫県東播磨・溜池畔 2011.10/29)

河畔や池畔、休耕田などの湿地に生える1年草。
茎の下部は横に這い、節から発根し、各節から側枝を出し、側枝は直立かやや斜上して茎の先端で分かれて最頂部に短い総状の花序をつける。
茎はやや不明瞭な四角形で、稜には先端が鈍頭の小さな逆刺があり、逆撫でするとややざらつく。茎内部は中空。
葉は披針形または長楕円形で、長さ6〜11cm、鋭尖頭。基部は鉾形で葉柄がある。
托葉鞘は筒形で長さ7〜20mm、無毛、先端にはごく短い縁毛が生える。
花柄、花小軸とその鞘には赤〜赤褐色の短毛と腺毛が生える。

【メモ】 兵庫県レッドデータブック2010 で新たにBランク種とされた。県内の自生地はもともと少ない。
近似種 : アキノウナギツカミホソバノウナギツカミヤノネグサナガバノヤノネグサ

■分布:本州、四国、九州 ・ 中国南部、台湾
■生育環境:河畔や池畔、休耕田など。
■花期:9〜10月
■西宮市内での分布:市内では確認されていない。
              他地域でも自生地は局限的で、近縁種のアキノウナギツカミやホソバノウナギツカミよりもかなり稀。

Fig.3 茎の下部は横に這い、節から分枝、発根する。(滋賀県・池畔 2007.11/8)
  新しく分枝した花茎に付く葉は、主茎に付く葉に較べて、小さい。

Fig.4 花茎は先端部で分枝して、最頂部に多数の花をつけた短い総状の花序をつくる。(滋賀県・池畔 2007.11/4)
  花序の柄には赤〜赤褐色の腺毛が目立つ。

Fig.5 開花中の花序。(兵庫県東播磨・溜池畔 2011.10/29)
  花には花弁はなく、花被は5中裂する萼からなり、色は淡紅色〜ピンク色、基部の内側は黄色。
  雄蕊は5〜10本、雌蕊は雄蕊よりも短く、柱頭は3岐する。画像の右の花には、小さな甲虫が訪花している

Fig.6 花茎上部の腺毛の様子。(滋賀県・池畔 2007.11/8)
  花序枝、小花柄とその苞には赤〜赤褐色の短毛と腺毛が生える。
  小花柄は苞よりも長い。

Fig.7 托葉鞘は膜質円筒形で脈が並び、先端部でややとび出してギザギザになる。(滋賀県・池畔 2007.11/8)
  脈の先端からごく短い縁毛が生えるが、托葉鞘の先端部とともに欠損しやすい。
  縁毛を確認するには、若い茎の先端に近い托葉鞘を何個か観察する必要がある。


Fig.8,9 葉の形は植物体に付く場所や、生育環境によって様々な形をとる。(滋賀県・池畔 2007.11/8)
  右2枚は図鑑などで示される一般的なタイプの葉。中は若い花茎の下部に付いたもの。
  左2枚は地を這って分枝し、花茎を上げずに発根して栄養繁殖した、丈の低い茎に生じたもの。

Fig.10 葉柄と葉裏の中央脈の基部付近には、痕跡的な円頭〜鈍頭の小隆起となった逆刺が並ぶ。(滋賀県・池畔 2007.11/8)


Fig.11,12 茎には逆刺を生じるが痕跡的で、あえて逆撫でして、多少ざらつくような感触がある。(滋賀県・池畔 2007.11/8)
  茎の中心は広く中空で、茎の表層部分は硬質かつもろく折れ易く、花序のない時期、同所的な環境で生育する近似種との区別点となる。

Fig.13 ナガバノウナギツカミの痩果。(兵庫県東播磨・溜池畔 2011.10/29)


Fig.14,15 痩果の拡大。(滋賀県・池畔 2007.11/8)
  長さは約3.4mm、卵形で先端はとがり、熟すと黒褐色。3稜あって、表面は平滑で光沢がある。

生育環境と生態
Fig.16 池畔に群生するナガバノウナギツカミ。(滋賀県・池畔 2007.11/4)
水際にはマコモが帯状の群落をつくっており、その内側陸地にナガバノウナギツカミが群落をつくる。
付近にはサクラタデ、ヒメナミキ、ハシカグサ、ホソバツルノゲイトウなどが見られた。
この群落は残念ながら2010年に消滅していまい、以降見られなくなった。

Fig.17 溜池畔のアシ群落中に群生するナガバノウナギツカミ。(兵庫県東播磨・溜池畔 2011.10/29)
やや富栄養な平地の溜池畔のアシ群落の切れ目にナガバノウナギツカミの群落が見られた。
ナガバノウナギツカミが生育する場所は浅い表水のあるところから、多湿の陸地にわたって生育している。
周辺にはヤナギタデ、ニオイタデ、サデクサ、イシミカワ、ヤノネグサ、ミゾソバなどのタデ科草本が豊富で、他にゴキヅル、ヌカキビ、
チゴザサ、サヤヌカグサ、アゼスゲなどが生育していた。

Fig.18 管理放棄された溜池に生育するナガバノウナギツカミ。(兵庫県西播磨・管理放棄された溜池 2011.11/10)
防水シートの敷かれた溜池だが、底には土砂が堆積しており、ヌートリアが防水シート下に営巣して漏水し、その後管理放棄された溜池である。
もとの池底の大部分はアシとセイタカアワダチソウが覆うが、上部にある溜池からの水が流入して土堤近くは湿地となっている。
ナガバノウナギツカミは土堤近くの湿地部分にヤナギタデ、ミゾソバ、キツネノボタン、スイバなどとともにわずかに生育していた。
この場所のものは遷移が進むと、やがては消失してしまうかもしれない。

Fig.19 休耕田で群生するナガバノウナギツカミ。(滋賀県・休耕田 2012.10/1)
付近に湧水の見られる地下水位の高い休耕田で、ナガバノウナギツカミの見事な群落が発達していた。
休耕田中にはチゴザサ、ツルマメ、タウコギなどが生育し、周囲の休耕田ではオグルマ、ヘラオモダカ、シソクサ、マルバノサワトウガラシ、
キカシグサ、キクモ、チョウジタデ、コバノカモメヅルなどが生育していた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. タデ科イヌタデ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.19〜24. pls.16〜22. 平凡社
北村四郎, 2004 タデ科タデ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(U) 離弁花類』 p.299〜316. pl.65. 保育社
牧野富太郎, 1961 ナガバノウナギズル. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 122. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 タデ科. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 154〜160. 保育社
林辰雄. 2001. タデ科イヌタデ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 600〜616. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ナガバノウナギツカミ. 『六甲山地の植物誌』 109. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ナガバノウナギツカミ. 『近畿地方植物誌』 118. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子・土屋和三 2001. ナガバノウナギツカミ. 兵庫県産維管束植物3 タデ科. 人と自然12:107. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:3rd.Mar.2014

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