ヤノネグサ Persicaria nipponensis  (Makino) H. Gross. タデ科 イヌタデ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県加西市・水田の畦 2008.10/12)

水田や畦、休耕田、用水路、農耕地周辺の湿地や、中栄養〜やや富栄養な湿地に生える1年草。
近似種のミゾソバやアキノウナギツカミとともに見られることも多い。
茎の下部は地上を這い、上部は斜上し、高さ50cm程度になる。
水田の畦など、刈り込みに頻繁に遭う場所では、茎は横走し、矮小化して多数の花をつける。
茎には短い逆刺がまばらに生え、断面は四角形で、中心部は中空。近似種のナガバノウナギツカミも中空であるが、
ナガバノウナギツカミよりも中空部分の割合は少ない。
葉は長楕円形、または卵形で、先端鋭頭、ときに鈍頭。両面ともに無毛、葉裏中央脈には短い下向きの毛が生える。
近似種とは、ナガバノウナギツカミと最も似るが、ナガバノウナギツカミは非常に稀な種である。
近似種 : ナガバノウナギツカミアキノウナギツカミホソバノウナギツカミミゾソバサデクサナガバノヤノネグサ

■分布:北海道、本州、四国、九州 ・ 朝鮮半島
■生育環境:水田、畦、休耕田、用水路、溜池畔、中栄養〜やや富栄養な湿地など。
■花期:8〜10月
■西宮市内での分布:中部の丘陵麓の水田から北部の棚田、河川敷、湿地周辺などで普通に見られる。

Fig.2 全草の様子。(兵庫県三田市・水田 2007.11/25)
  茎の下部は横に這い、分枝して上部では斜上する。
  花期には葉腋から花茎をあげ、先端に花序をつける。

Fig.3 分枝した枝の先端にやや頭状、または総状の花序をつける。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/12)
  花序に付く小花の数はふつう10個以下で、花弁はなく萼が5深裂した花被を持つ。
  小花柄は苞よりも短く、花被の下部は苞に包まれる。
  花序枝には赤色、または淡緑色の腺毛が見られるが、ナガバノウナギツカミのように目立ない。

Fig.4 花序枝の腺毛が目立たない個体。(西宮市・休耕田 2006.9/21)
  花序枝の腺毛は個体によって長短がある。

Fig.5 花被。(兵庫県加西市・溜池畔 2008.10/12)
  花被はミゾソバやアキノウナギツカミと較べると小さく、花被片は長さ約2.5mmで、上半が紅色を帯びる。
  花被片の内側基部は黄色を帯びている。

Fig.6 托葉鞘は淡褐色膜質で、筒形、長さ7〜20mm。(兵庫県三田市・水田 2007.11/25)
  鞘表面は無毛で、上縁に毛が生える。


Fig.7 様々な形の葉表(上)と葉裏(下)。(兵庫県三田市・水田 2007.11/25)
  和名「矢の根草」は矢じりの形からきている。
  右に向かうにつれて、より茎の下部についた葉をしめす。
  茎上部に付く葉ほど、葉身は細く、基部は切り形となり、下部の葉の基部は浅い心形となる。


Fig.8 茎は4稜あり、内部は中空(上)。(兵庫県三田市・水田 2007.11/25)
  稜上には短い逆刺がまばらに生える(下)。


Fig.9 ヤノネグサの痩果。(兵庫県三田市・水田 2007.11/25)
  3稜あり卵形で、長さ2.5〜3mm、表面は平滑で強い光沢がある。

Fig.10 幼苗。(自宅植栽 2007.3/29)
  双葉は円形〜広楕円形で、葉柄はごく短い。初期の本葉は心円形で先は円い。

Fig.11 用水路中から出芽したヤノネグサ。(西宮市・用水路 2007.5/13)
  周囲に見える浮草は若いイチョウウキゴケ。

Fig.12 中栄養な湿原の浅水域で、ミソハギとともに出芽したヤノネグサ。(西宮市・湿原 2007.4/13)

Fig.13 成長期のヤノネグサ。(西宮市・休耕田 2007.8/31)
  茎は横に長く這い、地表を覆う。

西宮市内での生育環境と生態
現在、画像はありません。

他地域での生育環境と生態
Fig.14 用水路内で生育するヤノネグサ。(兵庫県三田市・水田 2006.10/7)
用水路をヤノネグサが埋める光景はよく眼にする。ここではエゾノサヤヌカグサやチゴザサとともに生育していた。

Fig.15 刈り取り後の水田で見られた個体。(兵庫県加西市・水田 2008.10/12)
寒気にあたり、草体は赤紫色を帯びている。左の赤い草体はチョウジタデ。

Fig.15 棚田の土手下部で群生するヤノネグサ。(兵庫県養父市・棚田 2010.10/11)
山間棚田のかなり急傾斜の土手の下部を這い登るように群生して覆っていた。
周囲には画像に見えるタカサブロウのほか、ミゾソバ、オオハシカグサ、サヤヌカグサ、セリが多く見られ、水田内ではマルバノサワトウガラシ、サワトウガラシ、
キクモ、アゼナが、土手の中〜上部にはアキノキリンソウ、ノコンギク、ノアザミ、ヨシノアザミ、ゴマナ、ツリガネニンジン、ヤマハッカ、アキノタムラソウ、アキカラマツ、
アカソ、シシウド、ヨツバムグラ、センニンソウ、ヘクソカズラ、スイカズラ、エビヅル、ノブドウ、イタドリ、ノイバラ、ワレモコウ、ススキ、オオアブラススキなどが見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
北川政夫, 1982. タデ科イヌタデ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編)
       『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.19〜24. pls.16〜22. 平凡社
北村四郎, 2004 タデ科タデ属. 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑 草本編(U) 離弁花類』 p.299〜316. pls.65. 保育社
牧野富太郎, 1961 ヤノネグサ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 121. 北隆館
長田武正・長田喜美子, 1984 タデ科. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 154〜160. 保育社
林辰雄. 2001. タデ科イヌタデ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 600〜616. 神奈川県立生命の星・地球博物館
小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. ヤノネグサ. 『六甲山地の植物誌』 110. (財)神戸市公園緑化協会
村田源. 2004. ヤノネグサ. 『近畿地方植物誌』 119. 大阪自然史センター
黒崎史平・高野温子・土屋和三 2001. ヤノネグサ. 兵庫県産維管束植物3 タデ科. 人と自然12:109. 兵庫県立・人と自然の博物館

最終更新日:16th.Oct.2010

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