コジュズスゲ | Carex macroglossa Franch. et Sav. | カヤツリグサ科 スゲ属 タマツリスゲ節 |
湿生植物 |
Fig.1 (西宮市・休耕田 2007.5/5) |
||
Fig.2 (兵庫県篠山市・休耕田 2011.5/18) 湿った樹林内から林縁の小湿地、山間の休耕田、水田の畦などに生育する多年草。 根茎は短く叢生し、基部の鞘は淡色。葉は粉緑色で幅2〜10mm。 花茎は高さ10〜40cm。小穂はたがいに離れてつき、頂小穂は雄性で緑白色、ほとんど柄はなく、長さ5〜12mm。 側小穂は雌性で、1〜3個つき、長さ1〜1.5cm、まばらに数個の果胞をつけ、ふつう柄は短く直立、または斜上する。 雌鱗片は白膜質で中肋は緑色、鋭頭、果胞のほぼ半長。果胞は長さ5〜6mm、まれに8mm、有脈で無毛、長いくちばしがあり、口部は斜め切形。 痩果は果胞に密に包まれ、楕円形〜倒卵形、長さ2〜2.5mm。柱頭は3岐する。染色体数2n=36,40,46-48,50。 タマツリスゲ節には互いによく似た種があるが、近畿地方に分布するもでは以下のものがある。 グレーンスゲ(C. parciflora)は日本海側の高所に見られ、雌鱗片には芒があり、果胞は長さ4〜5mm、草体は鮮緑色。 タマツリスゲ(C. filipes)は丘陵〜山地の湿った草地や樹林内に生育し、基部の鞘は赤褐色。下方の雌小穂には長い柄があって下垂する。 果胞はきわめてまばらにつき、長さ5〜7mm、嘴は長く、口部は斜めに切れる。コジュズスゲとは基部の鞘の色が明確に異なる。 オオタマツリスゲ(C. rouyana)は丘陵〜山地の樹林内に生育し、基部の鞘は淡色。雄小穂(頂小穂)には長い柄があり、穂の長さ1.5〜3cmで赤褐色を帯びる。 果胞は長さ6〜7mm、嘴は著しく長く、口部は斜めに切れる。コジュズスゲとは雄小穂の柄と色が明確に異なる。 ヒロハノオオタマツリスゲ(C. arakiana)は北陸〜中国地方の日本海側の丘陵〜山地の樹林内に生育し、基部の鞘は赤褐色を帯びる。 雄(頂)小穂には長い柄があり、穂の長さ1〜2cmで赤褐色を帯びる。果胞は長さ5〜6mm、嘴はやや長く、口部は斜めに切れる。 コジュズスゲとは雄小穂の柄と色が明確に異なる。 近似種 : グレーンスゲ、 タマツリスゲ、 オオタマツリスゲ、 ヒロハノオオタマツリスゲ ■分布:北海道、本州、四国、九州、対馬、伊豆諸島 ・ 朝鮮半島南部 ■生育環境:湿った樹林内、湿地、休耕田、水田の畦など。 ■果実期:5〜6月 ■西宮市内での分布:市内では北部の2箇所の棚田中の休耕田で自生を確認しているだけで稀。 |
||
↑Fig.3 全草標本。(西宮市・休耕田 2010.5/16) 根茎は短く叢生する。根生葉は有花茎と同長または短く、葉幅2〜10mm。苞葉は葉身が発達する。 |
||
↑Fig.4 基部の鞘は淡色。(西宮市・休耕田 2010.5/16) |
||
↑Fig.5 花序。(西宮市・休耕田 2007.5/5) 頂小穂は雄性で、ほとんど柄がなく、緑白色。雌小穂には嘴のやや長い果胞がまばらにつく。 |
||
↑Fig.6 果胞と雌鱗片。(西宮市・休耕田 2010.5/16) 雌鱗片は白膜質で中肋は緑色、鋭頭、果胞のほぼ半長。果胞は長さ5〜6mm、まれに8mm、有脈で無毛。 |
||
↑Fig.7 痩果。(西宮市・休耕田 2010.5/16) 痩果は3稜ある楕円形〜倒卵形、長さ2〜2.5mm。果胞内部で花柱は湾曲する。 |
||
↑Fig.8 熟した痩果の拡大。(兵庫県香美町・用水路脇 2014.6/15) 痩果の表面には透明な隆条が微細な格子模様をつくっている。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.9 休耕田の埋もれかけた水路脇に生育するコジュズスゲ。(西宮市・休耕田 2007.5/5) 周囲はアゼスゲの群落で、その中の地下水位の高い場所に点々と見られた。 |
||
Fig.10 休耕田の畦に生育するコジュズスゲ。(西宮市・休耕田 2007.5/17) 日当たりの良い休耕田に生育するものは、林道などに見かけるものよりも叢生して大株となるものが多い。 |
||
Fig.11 山間の湿地で生育するコジュズスゲ。(西宮市・休耕田脇の湿地 2010.5/16) 休耕田脇の湧水の溜まった湿地に生育している。 同所的にゴウソ、キツネノボタン、ニョイスミレ、ウシハコベ、ミソハギ、ショウジョウバカマ、アカショウマ、コバギボウシなどが生育している。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.12 樹林下の湿った場所に生育するコジュズスゲ。(兵庫県丹波市・社寺境内 2010.5/8) 樹林下に生育する場合は日照条件が悪いためか大株は見かけず、小さな個体が周辺に点在していることが多い。 西宮市内ではこのような樹林下に生育する集団は見られず、必ず休耕田やその周辺の畦や湿地に出現する。 かわって丹波地方ではコジュズスゲは湿った林道上や樹林下に現われ、休耕田に生育するものは少ない。 ここでは社寺境内の植林地下にオオタチツボスミレ、セントウソウ、キンキエンゴサク、オドリコソウ、ヤブタビラコ、キランソウ、 アキノタムラソウ、ミヤマカタバミなどとともに生育している。 |
||
Fig.13 林道脇に生育するコジュズスゲ。(兵庫県丹波市・林道脇 2010.6/3) 山間の林道脇の湿った場所に点々と生育する。このような場所ではジュズスゲ、カワラスゲ、ホザキマスクサ、シラコスゲなどとともに見られることが多い。 ここでは先述のスゲ類以外ではクサスゲ、ミゾホウズキ、ミズタビラコ、ニシノヤマクワガタ、ヤマサギゴケ、ヤブタビラコ、ネコノメソウ、シケシダなどが生育していた。 |
||
【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 大井次三郎, 1982. コジュズスゲ. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本1 単子葉類』 p.154. 平凡社 小山鐡夫, 2004 コジュズスゲ. 北村四郎・村田源・小山鐡夫 『原色日本植物図鑑 草本編(3) 単子葉類』 p.294. pl.73. 保育社 牧野富太郎, 1961 コジュズスゲ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 803. 北隆館 勝山輝男. 2001. スゲ属タマツリスゲ節. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 474,476. 神奈川県立生命の星・地球博物館 勝山輝男, 2005 タマツリスゲ節. 『日本のスゲ』 304〜317. 文一総合出版 谷城勝弘, 2007 スゲ属タマツリスゲ節. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 101〜103. 全国農村教育協会 星野卓二・正木智美・西原真理子. 2011. スゲ属タマツリスゲ節. 『日本カヤツリグサ科植物図譜』 442〜459. 平凡社 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コジュズスゲ. 『六甲山地の植物誌』 246. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. コジュズスゲ. 『近畿地方植物誌』 159. 大阪自然史センター 黒崎史平・松岡成久・高橋晃・高野温子・山本伸子・芳澤俊之 2009. コジュズスゲ. 兵庫県産維管束植物11 カヤツリグサ科. 人と自然20:151. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:10th.July.2014 |