コケオトギリ | Sarothra laxa (Bl.) Y. Kimura | オトギリソウ科 ヒメオトギリ属 |
湿生植物 |
Fig.1 (西宮市・用水路 2008.8/10) |
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Fig.2 (滋賀県高島市・休耕田 2012.9/7) 水田の畦、休耕田、溜池畔、農耕地周辺の湿地に生える小型の1年草または多年草。 茎は細く、はじめ節から発根して、やがて立ち上がり、高さ5〜35cmになり、4稜あり下部で分枝する。 葉は広卵形で円頭、長さ3〜9mm、幅3〜7mm、明点があり、縁には腺点はなく、近縁のヒメオトギリより質は薄い。 花序につく苞葉は、ほとんど葉と同形で、花の近くにある。萼片は長さ約3mmでやや不同長、狭長楕円形、明腺がある。 花は径5〜7mm。花弁は長楕円形で長さ2.5mm、3脈あり、腺体はない。雌蕊は少数で5〜10個。刮ハは長さ2〜3mmで、腺体はない。 晩秋には茎の頂芽が肉芽となって地面に落ち、翌年発根して生長し、栄養繁殖する。 近似種 :ヒメオトギリ、 オトギリソウ、 サワオトギリ、 アゼオトギリ ■分布:北海道西南部、本州、四国、九州、沖縄 ・ 朝鮮半島、ヒマラヤ ■生育環境:水田の畦、休耕田、溜池畔、湿地など。 ■花期:6〜9月 ■西宮市内での分布:市内では中・北部に、ごく普通に見られる。 |
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↑Fig.3 花冠。(西宮市・用水路 2008.8/10) 直径はわずか5〜7mmと小さく、しかも午前中のみ開花するため、目立たず見落とされる。 雄蕊は5〜10個で、ヒメオトギリとの区別点となる。ヒメオトギリの雄蕊は10〜20個。 |
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↑Fig.4 蜜あるいは花粉を集めに来たアリ類。(西宮市・休耕田 2007.8/5) 小型の湿生植物では時にアリ類がポリネーターとなることもある。 |
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↑Fig.5 花茎の苞葉。(西宮市・用水路 2008.8/10) 花茎の分岐部につく苞葉は、茎下部の葉と同形で、大きさもそれほど変わらない。 |
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↑Fig.6 茎は4稜ある。(西宮市塩・水田 2007.10/25) 茎の稜はそのまま葉身の中央脈へとつながる。 |
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↑Fig.7 葉には明点が散在する。(西宮市・水田 2007.10/25) 葉裏から見ると、明点ははっきりとわかる。 |
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↑Fig.8 紅葉して越冬中のコケオトギリ。(西宮市・休耕田 2007.1/5) 茎の先端部には肉芽が形成されており、茎が枯れても肉芽が地面に落ち、そこに根をおろし生育する。 画像中央やや上に、ころがった肉芽が見える。 この2006年から2007年にかけての冬は暖冬であったためか、冬期にも肉芽の形成が見られた。 |
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↑Fig.9 溜池に浮かんだ肉芽。(兵庫県芦屋市・溜池 2009.10/28) 溜池畔で倒れこんだコケオトギリから肉芽が取れて水面に浮かんでいた。 やがて肉芽は風に吹かれてどこかの岸辺に打ち寄せられるのだろう。まことに効率のよい繁殖方法だといえよう。 |
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↑Fig.10 密生して生長するコケオトギリ。(兵庫県篠山市・畑地用水路脇 2010.5/29) 周囲にはオオミズゴケが見られるが、畑地内であり撹乱を受ける場所で、おそらく撹乱により分離した肉芽が一斉に発芽したものと思われる。 |
西宮市内での生育環境と生態 |
Fig.11 湧水がにじみ出す裸地斜面の下部に生育するコケオトギリ。(西宮市 2008.8/10) 多少風化が見られる斜面の湧水がわずかに流れる場所に生育している。 周辺の同様の場所ではオオミズゴケ、ヒメカリマタガヤ、ノテンツキが見られ、湧水層(透水層)の上部ではトダシバ、ヒカゲノカズラなどが見られる。 |
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Fig.12 休耕田で大株となったコケオトギリ。(西宮市・休耕田 2007.8/5) 大株といっても草体自体が小型なので、それほど目立たない。 ここではチョウジタデ、コウガイゼキショウ、ヒデリコ、タマガヤツリ、オオイヌタデなどとともに生育していた。 |
他地域での生育環境と生態 |
Fig.13 湧水地帯の地下水位の高い社寺境内に生育するコケオトギリ。(滋賀県・社寺境内 2011.8/18) 湧水河川の多く見られる盆地内の地下水位の高い湿った境内の半裸地にウリクサ、コナスビ、ヒデリコなどとともに生育していた。 |
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【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。) 籾山泰一, 1982. オトギリソウ科ヒメオトギリ属. 佐竹義輔・大井次三郎・北村四郎・旦理俊次・冨成忠夫 (編) 『日本の野生植物 草本2 離弁花類』 p.118〜119. pl.114. 平凡社 北村四郎・村田源, 2004 ヒメオトギリ属. 『原色日本植物図鑑 草本編(2) 離弁花類』 p.63〜64. pl.16 保育社 牧野富太郎, 1961 コケオトギリ. 前川文夫・原寛・津山尚(補遺・編) 『牧野 新日本植物図鑑』 398. 北隆館 長田武正・長田喜美子, 1984 オトギリソウ科. 『野草図鑑 8 はこべの巻』 63〜69. 保育社 城川四郎 2001. オトギリソウ科オトギリソウ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 732〜739. 神奈川県立生命の星・地球博物館 小林禧樹・黒崎史平・三宅慎也. 1998. コケオトギリ. 『六甲山地の植物誌』 126. (財)神戸市公園緑化協会 村田源. 2004. コケオトギリ. 『近畿地方植物誌』 70. 大阪自然史センター 黒崎史平 2001. コケオトギリ. 兵庫県産維管束植物3 オトギリソウ科. 人と自然12:150. 兵庫県立・人と自然の博物館 最終更新日:2nd.Mar.2014 |