ミツカドシカクイ Eleocharis wichurae  Boecklr.
  form. petasata  H.Hara
カヤツリグサ科 ハリイ属
湿生植物
Fig.1 (兵庫県宍粟市・湿地 2009.9/26)

Fig.2 (滋賀県・湿原 2012.10/1)

山地〜低山の湿地、溜池畔などの日当たりのよい湿った場所に生育する多年草。
山間のやや古い貧栄養な湿地に見られることが多い。
根茎は短くゆるく叢生し、茎は高さ30〜60cmになり、質はやや柔らかく、丈の高いものは茎が捩じれて上部が下垂し、小穂は地表に着く。
果実期には地下に細く硬いよじれた根茎を伸ばし、その先端に鉤爪状の越冬芽を多数形成する。
基部の鞘は葉身を欠き、淡色〜淡褐色。茎は3稜形で、稜はやや翼状となって張り出す。
小穂は披針形〜長卵形、鋭頭または鈍頭。鱗片は円頭。
痩果は不稔のものも多く、熟しているものは茎が下垂して小穂が接地していることが多い。
近似種 : シカクイマシカクイイヌシカクイイヌシカクイ×オオハリイ

■分布:北海道、本州、四国、九州
■生育環境:湿地、溜池畔など。
■果実期:8〜10月
■西宮市内での分布:市内では見られず、県下中・北部の山間の湿地で見られる。

Fig.3 全草標本。(兵庫県宍粟市・山間の湿地 2009.9/26)
  根茎は短く叢生する。茎の高さ30〜60cm。

Fig.4 基部。(兵庫県宍粟市・山間の湿地 2009.9/26)
  基部の鞘に葉身はなく、膜質、淡色〜淡褐色、長いものでは8cmほどある。

Fig.5 秋期には長短のある捩れた根茎の先に鉤爪状の越冬芽が多数つく。(兵庫県宍粟市・山間の湿地 2009.9/26)

Fig.6 茎のながいものでは、よじれていることが多い。(兵庫県宍粟市・山間の湿地 2009.9/26)
  ねじれることによって茎の強度をあげているのだろうが、往々にして茎は弧状に反り、しなだれて、小穂が接地していることが多い。

Fig.7 茎は3稜あり、稜は翼状に張り出し、触ると3稜あることが明瞭に判る。(兵庫県宍粟市・山間の湿地 2009.9/26)
  3稜形の茎は錯葉標本となっても明瞭である。

Fig.8 小穂は披針形〜長卵形の幅がある。(兵庫県宍粟市・山間の湿地 2009.9/26)
  不稔の小穂も多く、その場合小穂は披針形となり、結実の多い小穂では長卵形となる。不稔の小穂は接地しない。
  いまのところ不定芽を生じた小穂は観察していない。

Fig.9 鱗片(左)と痩果(右)。(兵庫県宍粟市・山間の湿地 2009.9/26)
  鱗片は4mm前後、鈍頭または円頭、中肋は黄緑色でやや隆起し、辺縁部は淡褐色〜茶褐色。
  痩果は長さ1〜1.2mm、茶褐色で、広倒卵形〜円形。刺針状花被片は痩果の1.5〜1.8倍長、小刺は羽毛状、柔軟で短く、下向きにやや密。
  柱基は痩果とほぼ同長で、基部は痩果の幅の2/3〜3/4で、底面はほぼ切形。

生育環境と生態
Fig.10 高原の鉱物質の湿地に生育するミツカドシカクイ。(兵庫県神崎郡・湿地 2010.10/2)
ミツカドシカクイは兵庫県下では標高1000mに満たない程度の、周氷河地形のなだらかな高原に成立した湿地に生育していることが多い。
この周辺の基岩には鉄分が多く含まれ、湿地の湛水部分では赤褐色の酸化鉄が沈殿している。
ミツカドシカクイは表水のある場所に多く見られ、ホタルイ、コウガイゼキショウ、ミズオトギリ、イトイヌノヒゲ、ヒメシダ、アブラガヤ類などとともに
湿生植物群落を形成していた。

Fig.11 伐採地跡の湿地に生育するミツカドシカクイ。(岡山県西粟倉村・湿地 2009.9/26)
県境尾根付近の平坦な山稜上の伐採跡地に小規模な池や細流を伴った湿地が点在し、そこにイヌシカクイと混生している。
同所的に見られるイヌシカクイよりも茎は長く伸びてしなだれる傾向が強く見られる。
ここは小さな池を伴った小規模な湿地で、浅い池内にはフトヒルムシロが密生し、オオヌマハリイが抽水状態で生育している。
やや泥炭気味の腐植質の堆積した湿地にはミツカドシカクイ、イヌシカクイ、ホタルイ、ヒロハノコウガイゼキショウ、イヌノヒゲなどが湿性植物群落を形成している。
湿地の周辺部ではアブラガヤ、アイバソウ、エゾアブラガヤなど、撹乱された環境の初期に現れるカヤツリグサ科植物が目立つ。

Fig.12 湿地化した隠田に生育するミツカドシカクイ。(滋賀県・湿原 2012.10/1)
標高200mに広がる広大な隠田が湿原化しており、湿原内に多数のミツカドシカクイが生育していた。
湿原の大部分はアシ原となっているが、湿原の水源近くの勾配上部の棚田状部分は様々な湿生植物が生育しており、ミツカドシカクイもそこに混生する。
棚田状部分にはミツカドシカクイのほか、シロイヌノヒゲ、ニッポンイヌノヒゲ、ミズオトギリ、キセルアザミ、アブラガヤ、コマツカサススキ、コアゼガヤツリ、
ヒメシダなどの湿生植物、アゼナ、トキンソウ、シソクサ、マルバノサワトウガラシ、ヤノネグサ、チゴザサ、ハイヌメリグサ、ハリイといった水田雑草が数多く見られた。

【引用、および参考文献】(『』内の文献は図鑑を表す。『』のないものは会報誌や研究誌。)
堀内洋. 2001. カヤツリグサ科ハリイ属. 神奈川県植物誌調査会(編)『神奈川県植物誌 2001』 423〜430. 神奈川県立生命の星・地球博物館
星野卓二・正木智美, 2003 ミツカドシカクイ. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『岡山県カヤツリグサ科植物図譜(U)』 178,179. 山陽新聞社
星野卓二・正木智美. 2011. ハリイ属. 星野卓二・正木智美・西本眞理子『日本カヤツリグサ科植物図譜』 610〜637. 平凡社
谷城勝弘, 2003 ハリイ属. 千葉県資料研究財団(編)『千葉県の自然誌 別編4.千葉県植物誌』 866〜878. 千葉県資料研究財団
谷城勝弘, 2007 ハリイ属. 『カヤツリグサ科入門図鑑』 140〜151. 全国農村教育協会

最終更新日:2nd.Feb.2014

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